「だいちゃ~ん。おみやげっ。」

まおが白い箱を片手に、帰宅する。
ふわ。と鼻を掠める甘い匂い。

おかえり、と抱きしめようとすると腕の中からするり。と抜け出してしまう。

「ケーキ、崩れちゃうから、後でね。」

ちゅ。と片手で投げキッスだけをくれて、いそいそと箱を冷蔵庫にしまう。

「今日はね~~。すっごく綺麗な青空だったよお。」

ストン。とダイニングのイスに腰掛けると、デジカメに収めた写真の数々を披露してくれる。
抜けるように蒼く澄んだ空。
うっすらとかかる白い雲。

「・・・ほら。桃も咲いてたよ。」
「・・・あ。ほんとだ・・・。あっ。今日はひな祭りか。」

「うん。そう。だから、植物園行って来た。それでねえ。カフェごはん食べてね~~。」

こうやって、一日のできごと、を幸せそうに報告してくれるまおを見ていると、一日の疲れを全て忘れる。
自分の時間をやっと作れるようになったまお。
そして、それを支える自分、というものに酔いしれているのかもしれないが。

「ぶらぶら散歩してたら、あまりにも可愛いケーキ屋さんがあったから、買っちゃった。」
「男二人にひな祭りは関係ないけどな。」

冷蔵庫から、まおがケーキを出してくる。

「そうだけどお・・。ま、いいじゃない。だって、芸術的でしょ?」
「・・確かに、な。」

表面をピンクの薄いもち生地で包んであり、桃の花とイチゴがあしらわれたケーキ。
ちょこん、と小さな可愛らしいお内裏様とお雛様のチョコ菓子が真ん中にのっけられている。

「なんか、食べるのもったいないな~~。」
「じゃあ、俺の分から食べる?」

「えへっ。じゃあ、半分こ~~。」

自分で買ってきておきながら、俺のケーキにぐさっとフォークを突き刺すまお。
・・・ほんと、自由というか、甘え上手というか。

「ほら。大ちゃんも食べなよ~~。」

なんて、ぺろり、と舐めたフォークで再びケーキをぐさり、と刺し口に運んでくれる。

「ん・・。美味しいよ。まお。」

口の中に、ほのかな桜の香りが広がる。
いつの間にか、春がきてたんだなあ・・・。

きっと、毎日感性磨きをしに外に散歩にでかけるまおは敏感に感じ取っている季節感を、おすそ分けしてもらったような気分になる。

んふふ~~。しあわせ。なんてつぶやきながらケーキをほお張るまおを見ていると、
まおの周りだけ春が訪れたような錯覚に陥る。

「・・・まおってさあ。どこをとってもひな祭りできんじゃん。」
「え~~?どういう意味?」

「だってさあ。まおちゃんでも、きょうちゃんでも、女の子でも使える名前だろ?」
「あ~~。じゃあ、大ちゃんは~~。だいちゃん・・・。ワタナベ・・・。うう~~ん。
やっぱ、男の結晶さんは、名前まどこを切り取っても、男らしいねっ!!」

きゃはは~~。と笑いながら、とうとう全部俺のケーキを平らげてしまう。

「ちょ・・・。まお。お前、全部食っちまったな~~。」
「ええ~~。だって、大ちゃんそんなに甘いもの好きじゃないでしょ?」

「これは、うまかったのっ!」
「残念でした~~。もう、お腹の中にはいちゃった。」

「じゃあ、まおの分ちょうだい?」
「これは、今日一日飾っておくの~~。」

愛くるしい俺のコイビトは、いつもこんな調子だ。
マイペースで、気まぐれで、自由で、なのに甘え上手で・・・・。

でも、そんなまおが生活に彩を与えてくれる。

きちんと計画して、常識に縛られて予定通りに物事を運んでしまおうとする俺。
それを、まおがさああっと吹き抜ける風のように、心地よく乱してくれる。

やっぱりお前は、ベストパートナーだよ。

「・・・愛してるよ。まお。」

肩を抱き寄せて、ちゅ。と口づける。

「どうしたの??急に。あっ。そんなこと言ってもケーキあげないからねえっ。」

上目遣いに俺を可愛くにらんで、自分の皿をさささっと隠すまお。
そんなズレてるところも、かわいい・・・。

「わかってるよ。きょうちゃんのために、今日は一日飾るんだろ?」
「桃の節句、だからね。」

男二人でひな祭りも悪くない。

可愛らしいピンク色のケーキを眺めながら、心がほっこりするのを感じてそう思った。