「さみしいなあ~~。まお、春から真剣に学業に専念、だもんなあ。俺も、ますますがんばらないと。だけど、やっぱり、なんか自分の庭から出て行っちゃうみたいで、さみしい。」
ぐじぐじ。
男の嫉妬や、うじうじはみっともない、と百も承知だけど、ついついデーンとテーブルに積まれたまおのデサインの本や、本棚を占領しつつあるゴルフ雑誌をみているとつぶやいてしまう。
まおは、まお。
俺は、俺。
愛し合いながらも、お互いの人生を尊重してがんばろうな。と、何度も口に出して約束して、頭では理解しているけれど、やっぱり俺の腕の中から抜け出して自分の世界のほうが多くなっているまおをみていると、必要とされてないんじゃないか??って思えてきてしまって、さみしくなる。
「・・・なあ。まお、俺のこと好き?」
「好きに決まってるでしょ?何を今更。大好きです。」
んふふ。と綺麗に笑って、ちゅ。とキスをくれるまお。
こんなふうに、花のように微笑んでキスしてくれるのは俺に対してだけだとわかってはいるけれど。
みんなから愛されるまお。
本当に、俺なんかいなくなっても生きていけるんじゃないか?ってぐらいまおの回りにはまおを愛している人間がいっぱいいる。
たまたま、俺を選んでくれたけれど、この当たり前の日常がいつまで続くんだろう。
俳優の世界に入って、「大ちゃんみたいになりたい。」ってずっと背中を追いかけてくれたまおだから、デザインの勉強をしだして、尊敬できる人に出逢ってしまったら今まで俺に向けていた尊敬キラキラ。っていう眼差しは、その人に向いてしまうんじゃないだろうか??
----------馬鹿だな。
まだ存在もしていない未来のことを考えて、不安になっても仕方がないとわかっているのに。
あまりにも、まおが毎日キラキラと輝いていて、楽しそうで、未来への希望に満ちているものだから。
そんなつまらないことを考えてしまう。
「・・・なあ。まお、デザインのほうに進んでも、俺のこと、忘れない?」
「もうっ。また大ちゃんの心配性がでてきた~~。こうやって、新しいことに挑戦できるのも、友達とわいわいできるのも、大ちゃんが待っててくれる。っていう安心感があるからだよ?」
ふんわり。と笑いながら、俺のことを抱きしめて、背中をなでなでしながら頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
まおは、強い。
もしかしたら、俺だって22歳の頃はこんなふうだったのかもしれないなあ??と思うけれど。
愛されている自信に満ち溢れていて、終わり、がくるかもしれない、なんて考えもしない。っていう強い瞳の光を持っている。
・・・まあ、当たり前かもしれないが。
本気でつきあったことのあるのは、俺だけだよ。って言っていたまお。
その俺が終わりなんてあるわけがない、というぐらいまおのことを愛しているのだから。
・・・でも、俺はまおと違って人間の感情というものには終わりがある。ということも知っているから。
どんなに愛している、とその時は思っていても、どんなキッカケで心が離れてしまうかわからないから。
「・・・俺、束縛しすぎかなあ?」
「んん~~?そんなことないよお。大ちゃん、いつもまおが行きたいなら、行ってきな。って笑顔で送り出してくれるじゃん。」
・・・ね?そんな優しい大ちゃんが大好きだよお。とまたふんわりと笑う。
それがまおの幸せだと信じているから。
みんなに愛情を注いでもらって、ますます自分を肯定することができて、揺らぎなく前にすすむまおを見ているから。
でも、本音は俺だけのまおでいてほしい。心の中は束縛したい気持ちでいっぱいなんだよ。
お前が、尊敬してくれるほど、人間できているわけじゃない。
俺の気持ちを試してるのかっ!?って言いたくなるような言動も、本当は苦しいんだよ。
・・・でも、こんな感情をコントロールできてしまうぐらいには、お前よりオトナだけどな。
「ああ。俺って、ほんと、まお依存症だなあ。」
「ふふっ。なあに?それ?でも、愛してくれてありがとお。おれも、愛してるよ。」
ちゅ。とキスをくれると、ね?と首をかしげて、キラキラ光る瞳で真っ直ぐに見詰めてくれるまお。
みんなから愛されるまおは、俺だけを愛してくれている。
そう、信じてもいいのかな・・・?
「今だけ、こうさせてくれ・・・・。」
「ん・・・?いつでも、大ちゃんと一緒にいるよ・・・?」
抱きしめていないと、不安で。
ぎゅううっと力を込めてまおを抱きしめると、そんな俺の気持ちを見透かすようにコテン。と俺の肩に頭を載せてきてくれる。
その日は、心のざわざわが落ち着くまで、ずうっとそうやって二人で抱き合っていた。