その日の夕方。
駅前にある花屋さんに立ち寄る。

「誰に贈られますか?」
「えっと・・。大切な人の、お祝いに・・・。」
「誕生日ですか?」
「・・・いえ。でも、僕達にとっては、大切な日です・・・。」
「お色目は、どうしましょう?」

色・・・・。何色が喜ぶんだろう・・・・。

「ああ。心まで、さわやかになるような空色で・・・。」
「・・・水色、ですね。・・・ふふふっ。素敵な記念日なんですね。」
「・・・はい・・・・。」

話しながらも手際よく、美しくできあがってゆく空色の花束を束ねる店員さんの笑顔に心がほっこりする。

両手に抱えきれないぐらいのボリュームの花束。
いい香りが、鼻腔をつく。

仕事柄、花束を抱きかかえることなんて何度もあるのだけれど。

「ふふっ。大ちゃん、喜んでくれるかなあ?」

いただいた花束ももちろんとっても嬉しいのだけれど、大切な人に贈る花束はどうしてこうも胸がきゅんとするのだろう。
・・・きっと、受け取ったときの相手の表情を想像して、自分も幸せになるから。

んふふ。

思わす漏れてしまう笑みに口元を花束で隠しながら、自分の舞台を終えた充実感と、大ちゃんへのプレゼントにうきうきと足取り軽く、家に向かう。

大ちゃん、もう帰ってるかな~~。

いそいそと急ぐ人気のない道に、たたたっ。と後ろから迫る足音。

振り向けば、視界いっぱいに太陽のような黄色い色が広がり、むせ返るような花の香りに包まれる。
ばさっと、おれの持っていた花束と視界を占めた花束がぶつかる。

「わわっ。」
「まお。一日遅れちゃったけど、メサイア本番、おめでとう。」

大ちゃんの視線が、おれの腕にだかれた空色の花束に落ちる。

「・・・あっ!!もしかしてっ・・・!!」
「ふふ。大ちゃんも、初日おめでとう。」

「もう。やっぱり同じこと、考えてたんだね。」
「・・・だな。」

お互いに、花束を交換っこして、胸いっぱいに花の香りを吸い込んでお互いの思いを感じる。
公に花束を贈りあうことはできないけれど、こうやってコイビトとして、俳優仲間として花束を贈りあえる。
そんな幸せに感謝する。


リビングのテーブルに並んで飾られた花。

「・・・お空に恋する、向日葵みたいだよ。」

夏のエネルギーいっぱいの空。
太陽のほうに向いて咲く向日葵。

「ついてこいよ。」と前を歩いてくれる大ちゃんの背中と、その背中に憧れ続けてここまで歩んできたおれ。

並んだ空色と、黄色を見て、そんなことを思った。