きっらっきらの尊敬の眼差しでいつも俺を見詰めてれるまお。
稽古場の隅と隅にいたって、お互いの存在がはっきりと感じ取れる。

今までたくさんの後輩達と接してきたけれど、こんな子は初めてだ。
でも、それがうっとおしいとか、重たいとか、そんな気持ちは全くない。
ただただ、そんなふうに信頼してなついてくれることが嬉しい。

ふと、指先が触れ合うだけで、長い睫毛を伏せてはっと息を呑む仕草が気になって仕方なかったり。
休憩時間になれば、そっと飲みものを差し出してくれたり。

気がつけば、側にいるはずのまおがいないことに気がつくと、ものすごく不安を感じるようになっていた。

「・・・トイレに行ってただけか・・・。」

おいおい。と自分でも突っ込みを入れたくなるような重症っぷりじゃないか。
ただ自分を慕ってくれる可愛い後輩、というだけの存在がどうしてこんなに気になるんだろう。
かわいい女の子ならまだしも、相手は同性のまおなのに。



とある日の稽古終わり。

「おつかれさま~~。」
「おつかれ~~。」
「また明日~~。」

思い思いに、みんな帰ってゆく。
部屋の片隅で、まおがバッグに稽古用のシューズをしまいながら、じっとうつむいている。

「まだ、帰らないのか?」
「・・・あ。はい・・・。」

返事をするものの、まだ視線を落としたままのまおに以上どう接したらいいのかわからなくて、ドアを開ける。

ぐいっとシャツのすそを引っ張られる感覚に後ろを振り返ると、微かに頬をピンク色に染めてうつむいているまおがいた。

「あのっ・・・。」
「ん・・?どした?」

うつむいたまま、何か言いいたいけれど、うまく言葉にできない。
そんなまおの表情を見ながら、言葉をうながすように頭をくしゃりと撫でる。

「好き・・・です・・・・。」
「・・・え・・・?」

唐突に告げられた告白。
何かが、カタリ。と音をたてる。

「部長の・・・渡辺さんのことが好きっ・・・です・・・・。」

まさかの後輩からの、しかも同性からの告白なのに、俺の中ではずうっと前から知っていたような気がする。むしろ、当然のことのように受止めてしまった自分の感情に驚く。

この世界にまおが飛び込んできてくれたことも。
初めて会ったときに感じた運命的なオーラも。
キラキラと尊敬の眼差しで見詰めてくれるまっすぐな瞳も。
全てが最初から運命によって惹かれあうように定められていたような気がする。

照れながらもどこまでも透き通る純粋無垢な瞳で、俺に気持ちを打ち明けてくれているまおが、今、目の前にいる。
そう。この気持ちは恋、って名前だった・・・。

どれだけデートと称して遊園地ではしゃぎまわっても、愛してるとささやいて身体を重ねても、埋められなかった喪失感。

まおが一瞬見えなくなるだけで不安になったり。
キラキラと見詰められて、心が躍ったり。
つい、放っておけなくて手を差し伸べたくなったり。

まおの真っ直ぐに向けてくれた言葉と瞳が、心にひたひたと染みってゆく。


二人の間の時間が止まる------------。


「あの・・・。部長・・・?」

長い沈黙を破ったのは、まおだった。
うるうると澄んだ瞳で、おずおずと自分の気持ちが伝わった?と確認してくる。

「あ・・・。ごめん。」
「やっ・・・。あ。いいんです。言いかっただけだから。」

両手で俺の胸を押しかえし、にっこりと微笑むまお。
そのまま、踵を返してバッグをつかみ、外に飛び出してしいまう。

「ちょっ・・・。待てよっ。まだ、返事してなっ・・・。」

エレベーターに飛び乗るまお。
無情にも閉じる扉。

俺のせいで、まおを失ってしまうっ・・・!!
カンカンと全力で階段を駆け下りて、先回りをしする。
ドアが開いた瞬間、再び飛び出そうとするまおに立ちふさがって、腕をつかむ。

「ばかっ・・・。人の話、最後まで聞けよ。」
「だって・・・。ごめんって・・・。」

うるうると大きな瞳に、大粒の涙がたまっている。
わなわなと震えているくちびる。

「いや。俺が悪かった。誤解させるようなこと、言って・・・。」

まおにとっては、一大決心の告白だったに違いない。
ただただ、俺が好き。という純粋な気持ちをぶつけてくれた。
以前から感じていた感情が恋だったのだ。と気がついて、嬉しくて。
時が止まったように感じていた時間はどれぐらいだったのだろう。

「・・・あのさ。俺も、好きだから・・・。まおのこと。」
「・・・え・・・?」

大きな瞳が、更に大きく見開かれ、ぽろり。と一粒が頬を伝った。

「俺も、好きだから。」
「・・・ほんと?」

信じられない、というようにぱちくりと大きな瞳で見詰めてくるまお。

「こんなこと、嘘つくわけないだろ?」
「信じ・・られない・・・・っ。」

ぎゅっと腕の中にまおを抱き寄せる。

「信じろよ。・・・っていうか、お前から告白してきたんだぞ?」
「だって・・・。伝えたかっただけだから・・・。」

ぎゅっと背中のシャツを握り締められる。
そうだ。いつの間にか、恋は駆け引きだと思っていた。
相手がどうすれば自分に振り向くか。
本人に伝わる前に、友人からのリサーチが入って、返事もわかっていてする告白。
それが、当たり前のように思っていたのに・・・。

まおは、違ったんだ。

俺からの返事がどうであれ、自分が傷つくかもしれない結果であれ、真っ直ぐ伝えてくれた。
・・・冷静に考えれば、断られる確立のほうが高いわな・・・。

「・・・ふふ。まお。ありがとうな。」

お前に一目会った瞬間から恋をしていたのに。
25年間生きているうちに、少し頭が硬くなっていたのかもしれない。
真実は、ヒトツなのに。
積み重ねてきた常識ってやつが邪魔をして、お前に告白されるまで自分の気持ちに気がつかなかったよ。

「僕のほうこそっ・・・。ありがとっ・・・。」

ふるふる。と腕の中で首を一所懸命に振る仕草が愛おしい。

「さて。これからどうすっかな・・・。」

エレベーターのまん前で抱き合っている自分達に気がついて、ぽそりとつぶやく。

「あっ。わわわっ。ごめんなさいっ。」

がばっと俺の腕から離れ、耳まで真っ赤に染めながら、慌てふためくまおを見て--------。

「・・・お前、大胆なんだか、照れ屋なんだか・・・。」
「だって・・・。」

もじもじと自分の指先をくるくるしながらうつむいているまおを再び引き寄せて。

「ひとまず、俺んち来る?」
「・・・えっ。いいのっ・・・?」

ぱっ。と涙の跡も乾かないうちに、笑顔になるまお。

「愛してるよ。まお。」
「・・・・っ!!」

まんまるく瞳を見開いて・・・・再びぼぼぼ。と真っ赤になるまおの反応に。
自分が自然にそこ言葉を発していたことに気がついた。