一本筋の通った尊敬できる父に、優しい母。親友のように仲のよい兄。
成績だって普通に真ん中って感じで、みんなの中心になることはなかったけど毎日が充実していて。
人見知りはするけど、友人がいないわけでもない。
ごくごく普通の中学生をしている僕。

兄の影響ではじめたテニス。
毎日真っ暗になるまで打ち込んでいたけれど、ずっと何か忘れているような気がしていた。
上を、上を目指して充実しているはずなのに埋められない喪失感はなんだろう。


そんな時、お父さんに連れて行ってもらった四季の舞台。
心に直接響いてくる生の歌声。
きらびやかな照明を受けて、イキイキと演じる俳優さんたち。

時間の経つのも忘れて、魅入っていた----------。

「京介?終ったぞ。」
「・・・あ。うん・・・。」

カーテンコールが終ってからも、暫く放心状態だった僕に父が声を掛ける。
僕の心を惹きつけてやまないこの舞台の上の世界。
一回見ただけなのに、この舞台世界に入りたい。
・・・いや、絶対に入らなきゃ一生後悔するような気がしていた。


「僕も芸能界に入って演じてみたいっ!!」

「こんな人見知りの京介が?」
「お前、人前に出るの苦手だろ~~?」
「京介、ほわわんとしてるから、すぐに泣いてやめちゃうんじゃない?」

意を決して、家族に決心を打ち明ける。
まだまだ子供の夢物語。
むしろ、僕には向いていないんじゃないか。って反応だったけれど。

やっぱり、絶対に自分の居場所があの舞台の上にあるような気がして・・・。


「じゃあ。高校生になっても、決心が変わらなかったらね。」
「・・・うんっ!!ありがとお。」

やっと、やっと一歩が踏み出せた。

なんだかとてつもなく長い道のりだった気がする。
ここまでくるのに。

それからは、もう毎日が楽しくて、楽しくて。
受験勉強だってちっとも苦じゃなくて、見事春には合格証書を受け取った。



そして---------。

運命の出会い。

「・・・こんな綺麗な人、いたんだ・・・。」

まさかの芸能界に入ってすぐに受かったテニミュのオーディション。
初めての稽古場。
それだけもで、夢のようだったけれど。

ドアを開けて目に飛び込んできたその人に一目惚れした。

すっとした立ち居振る舞い。
心から楽しんで、周りがぱああと明るくなるような笑顔。
さりげなく差し伸べられる手。

僕に向けれれるドキッとするような、視線--------。

全てが印象的で。僕を釘付けにする。

ああ。きっとこの人に出逢うためにこの世界にこんなにも惹き付けられたんだ。

そう、思わずにはいられなかった。