どこまでも白くまばゆい光が包み込む世界。
色とりどりの花が咲き乱れ、空には虹がかかり、澄んだ湖は枯れることを知らない。
天上の神の元で働く天使たちは、みな穏やかに微笑み、きらめいている。

その中でも、ひと際美しく、純白の翼を広げる天使がいた。

お仕事を終え、思い思いに花畑の中ではしゃぐ天使たちから一人離れて湖に映し出される地上を見詰めている。

「ま~おっ!!どうしたの?いっつも、下ばっかりみて。」
「一緒にあぞぼうよ~~??」

まおの存在に気がついた天使たちが次々に声を掛ける。

「うん・・。想い人、がいるから・・・。」

衣からすうっと伸びる腕が、湖に触れると、次々に波紋ができて水面が揺らめく。
どこか影を落とすまおの表情は、切なくも美しい。

「せっかく、生まれ変わったのにな・・・。」

ぽつり、と語られる言葉。

「なあに?まお。前世は人間だったの?まだ、コイビトが地上にいるの?」
「地上にコイビトはいるけど・・・。ちょっと違うかな。ギリシャの神様の妻だったんだけどね。コイビトだけ、人間に生まれ変わっちゃった。」

「わあ。かわいそうっ。自分は前世の記憶あるのに、向こうはないんだもんね~~。」

そう。
天使として生まれ変わって、景色の美しさに心奪われたものの。
どこを探しても、大ちゃんの姿はなくて。

また一人ぼっちになってしまった寂しさを抱えながら生きてきた9年間。
半年前に、やっと地上にいる大ちゃんを見つけた----。

まだ、少年だったけれども、一目見た瞬間に彼だとわかった。

「一緒に地上に生まれ変わるはずだったんだけどね・・・。」
「ねえ。どの人っ!?」

「あそこ--------。」

指さした先に、家族と共に満面の笑みを浮かべている少年の姿があった。

「まだ、間にあうんじゃないっ!?」
「うんっ。きっと大丈夫だよお。」

みんなの言っている意味がわからない。
天使に生まれ変わったら、その後ずうっと天使のままだから、この世界での9歳なんて、まだまだひよっこみたいなもので、知らないことがたくさんある。

でも、見た目はみんな人間で言う二十歳前後ってところだから、はっきり言って誰が一番年長なのかなんて、見分けがつかない。

「・・・え?何が・・・??」

ぽかあん。としてしまっている僕に丁寧に教えてくれる仲間達。

「何かの間違いで、天使に生まれ変わっちゃったんでしょ?
それなら、もう一度やり直せば人間として生まれ変わることができるはず。」
「でも、どうやって・・・。」

「もう一回、黄泉の国に戻って、ハデスに会わなきゃ。」
「でも、行き方も知らないし・・・・。」

アイタイ。アイタイ。アイタイ。
でも、どうすれば自分の存在を伝えることができるのかわからずに悩んだ日々。

今、その夢が実現しようとしているけれど----------。

「まおの気持ち次第だよ。新月の夜、強く心に願えば・・・叶うはず。」

ふあん。と優しく微笑んで、両手を包み込んでくてる。
やっぱり、天使なんだなあ。なんて妙に納得してしまう。

ここでの生活に不満はない。
美しい景色。
優しい仲間。
・・・それでも、僕の願いはただヒトツ。

大ちゃんと、生きたい。