12月某日--------------。

「まお。ただいまあ。」
「あっ。大ちゃんおかえり・・・・。グスっ。」

声を掛けてもすぐに出てこないので、リビングをのぞくとソファに背を向けて鼻を鳴らしているまお。

うるうると大きな瞳が赤く潤んでいる。

「どうした?まお。」
「あっ。何でもないよ?ちょっと映画みてただけだから・・・。今日は、寒かったでしょ?お風呂沸かすね。」

パタパタ。

バスルームに消えてゆく後ろ姿を見送りながら、テーブルに残されたDVDのパッケージを見やると、
「戦場のメリークリスマス」が置いてあった。

「懐かしいな・・・。どんな話だっけ・・・?」

日本領だったフィリピンでの閉鎖的な話・・・。最後に「メリークリスマス」と何度も繰り返すのが印象的だったのは覚えてるが・・・。
なんともやるせない後味が残ったような気がする・・・。

エンディングが流れる画面。

胸を締め付けられるように切なく美しいメロディー。

「いい曲だな・・・。」

音楽に耳を傾けていると、ついこの間まおにされたおねだり、を思いだす。

「クリスマスには、大ちゃんのピアノが聞きたいな~~。」

・・・ああ。この曲を弾いてみたい。聞かせてやりたい。
共に過ごしてきた6年間。来年はお互いどんなふうに過ごしているかなんて、予想もできないけれど。
この曲を聴きながら、しんみりと、二人の過ぎしてきた時間を感じてみてみたい。

「歳かなあ?俺も・・・・。」

にぎやかなクリスマス。ソングよりもこんなしっとりした曲に心惹かれるようになる、と言うのは。
でも、どんな曲を選んだとしても、まおは俺の心を理解してくれ、寄り添ってくれる。

まお年代で考えたなら、もっとうきうきと楽しい感じの曲がいいのかもしれないけれど。

「よし。この曲に決めた・・・。」


その日から、まおに気づかれないように稽古の合間に曲を聞き込んだり、スタジオの電子ピアノを借りたり。
気がつけば、自然に指が動いていることもしばしばで。

・・・この歳になって、新しいことにチャレンジってのも、悪くないな・・・。

仕事以外で、こんなに夢中になったのは久しぶりで。
忙しいけれど、充実の時間を過ごせている実感があって。

いつも心に流れている美しく、切ないメロディーのお陰で??
自分が落ち着いているなあ。と感じることもしばしばあった。

無茶振りなわがままを言われても、やっぱり、まおは俺にとっての精神安定剤ってことろかな。

ありがとうな。まお。
・・・俺も、この曲が完成するの楽しみにしてるよ・・・。