山の中にある祠堂学院にも、ようやく梅の花が咲き始める頃。
一般の高校より、一足早い卒業式がやってくる。
富裕層が通う学校だった名残で、春休みに一ヶ月の海外バカンス、と銘打った派手な卒業旅行をする家庭が多かったため、とかなんとか・・・・。
まだ、きりりと身のひきしまるような気温のなか、厳粛に執り行われる卒業式。
でも、そこには涙はない。
ほとんどが、エスカレーター組みで、離れ離れになることがないことと、それでも敢えて外部受験をする学生は未来をしっかり見据えて、むしろ希望にあふれているから。
手に手に、卒業証書を持って、ぞろぞろと講堂からでてくる人の波に流されながら、僕はただ一人を視線で探す。
・・・・・・あ。いた。
校門の柱にもたれ、ポケットに手を突っ込んで立っている大ちゃん。
今日はスーツだけれども、あの食事に誘ってくれた日を思い出す。
そう。
あのあまりにもキラキラとしていた大ちゃんに、心惹かれ、切なく苦しかった夏休み・・・。
「ま~おっ。卒業、おめでと。」
「うん。ありがとう・・・。」
二人の間を、冷たいけれどさわやかな風が吹きぬける。
「これから、自分の道、をあゆんでゆくんだな。」
「うん。大ちゃんのふさわしい人間になるために。」
しっかりとあわせられた視線。
渡辺京介になって、二人で大地を踏みしめて歩いてゆく覚悟。
「もう、新居はいつでも入れるけど、お前、どうする?一旦、寮に帰る?」
「ううん。大丈夫。荷物も全部運んであるし。」
一人暮らしで、8ヶ月しか過ごしていない部屋は、そんなにたくさんの荷物があるわけもなく。
むしろ、ほったらかしにしてしまっている実家のほうが、大変だ。
もう、大丈夫。
大ちゃんが、いつも側にいるから。
思い出のいっぱい詰まったあの家を整理しに帰ろう。
「じゃあ、行くか。」
「うん・・・。」
駐車場まで並んで歩きだろうとしたその時。
「あっ!!いたいたあああ。探してたんだよっ!!」
「ほんとお。冷たいなあ。外部受験組みなのに。」
両手いっぱいに荷物を抱えたクラスメート達に囲まれる。
「えっ!?なになに??」
「はいっ!!私たちから、卒業祝いっ!!」
「祝いって・・・。僕、なんにも用意してないのに・・・。」
「だ~か~ら~~。二人へのっ!!私たちの気持ちだから、いいのっ!!
おそろいのパジャマでしょお。夫婦茶碗でしょお。まお君に似合いそうなエプロンでしょお。マグカップでしょお。」
ドンドン僕の両手の上に積み上げられてゆく、プレゼントの箱たち。
「んで、これが私たちの思いのこもった、手作りのベールっ!!」
両手がふさがったまま、ばさあ。と細かな花柄の刺繍の入った光に透けるベール。縁にはキラキラと輝くラインストーンが散りばめられていて。
「お前ら・・・。」
大ちゃんが、うるうるとした瞳で、3-Cの仲間を見ている。
「まお君が倒れるたびに、渡辺先生が王子様のように飛んできて、お姫様のように、まお君を抱っこしていってたんだよお。かっこよかったあ。
放課後も、ずっと二人一緒だしさあ。
あんなに張り詰めた表情してたまお君も、どんどんやわらかくなってくるしさあ。
本当に、事故のことみんな心配してたから。
そりゃあ、先生取られちゃったのちょっとは悔しいけど、なんか大好きなまお君と大好きな先生が幸せになってくれるなら、応援したくなったんだよねっ!!」
うんうん。とうなづいている僕の周りのクラスメート。
「浜尾、ここでたらどうするんだ?」
「えっと・・・。」
これはどう返事したらよいのだろうか。
なんだかもう、公然の秘密になっている気はするけれど・・・・。
「新しい俺の家に連れて帰る。」
ぐいっと大ちゃんに肩を引き寄せられる。
「同窓会名簿の住所、どうしよっかなあ。と思って・・・。よかったな。先生の家に行くんだ。一人っきりじゃないんだな。」
「ああ。俺が責任もって、浜尾の面倒みるよ。・・・お前らも、いつでも遊びにきてもいいぞ。」
「うそおっ!!やったああ。」
「酒、もって押しかけますね。先生。」
ぴょんぴょんと跳ね、手を叩いて喜び合うみんな。
「まお君、ひとりぼっちになるのかと思って、もんのすごく心配だったもん。大学も離れちゃうし。」
「ねねね。みんなで、記念撮影しようよ。」
「あ。これじゃあまお君が顔見えないから、アンタ達、もってあげて。」
「俺らは、見えなくていいのかよお。」
「だって、大学でまたいつでも会えるじゃん。」
両手いっぱいの荷物を、あれよあれよ言う間に持っていかれて。
「先生っ!!まお君のほっぺにちゅ~してあげてねっ!!」
「まお君は、これ持っててねっ!!」
真っ白な花を束ねた可憐なブーケを渡され。
いつの間にか全員集まっていた3-Cの仲間に取り囲まれ。
「お前ら、悪ノリしすぎ・・・。」
などど、つぶやきながらも、「はい。チーズ。」の言葉で、大ちゃんの唇の感触を頬に感じた。
きゃあああ。と、同時にあがる悲鳴。
密室での秘め事、だったはずなのに。
家族のいない僕は、二人だけで、ひっそりと祠堂をあとにするつもりだったのに・・・・。
こんなみんなの笑顔に囲まれて、わいわいと卒業できるなんて、思っていなかった。
「じゃあ、二人前途を願って!!!花道~~~!!」
3-Cび仲間達が、駐車場への道をアーチをつくって待ってくれている。
ところどころで、パーン!!と鳴らされるクラッカー。
舞い散る、紙ふぶき。
うん・・・。うん・・・。みんなありがとお。
大学は、離れてしまうけれど、しっかり勉強して、医学部受かって、一年送れだけど合流する。
大ちゃんと、ふたりで、幸せになる・・・。
通り終わった花道のみんなは、僕達のあとをついてきてくれて。
車に乗り込んでからも、
「絶対に、一年後、会おうな!!」
「さみしくなったら、家まで押しかけていっちゃうからね~~。」
なんて、周りを取り囲んで最後まで見送ってくれて。
花道から、うるうると潤んでいた瞳は、みんなの声が聞こえなくなると同時に堰をきったように涙があふれてきて。
「だいちゃ・・・。僕、祠堂にきて、本当によかった・・・。」
「だな。まおは、みんなに愛されてたんだよな。」
「うん・・・。でも、大ちゃんがいなかったら、みんなの優しさに気がつくことができなかったかも。あのまま、自分の殻に閉じこもって、まだ立ち直れていなかったかもしれない。」
「・・・ああ。俺も、祠堂に来てまおに出会っていなかったら、自分の未来に迷いを感じていたままだったかも・・・。」
涙でぼやける真っ直ぐに伸びた道をみつめながら、僕達に開けた輝かしい未来を感じる。
「ありがと・・・。大ちゃん・・・。」
「うん。まおと出会えたことに、感謝しなきゃな。」
大ちゃんの左手をそっとつかんで、その甲に口づけた・・・。
--------------------------完------------------------------
私の頭のなかは、もっとキラッキラした仲間達、なのですが、文章に表しきれず、残念WW
雰囲気だけでも、伝わるといいなあ・・・。
あとは、番外編で、書きたくなったら10月から3月までのイベントごとを書いていきますね。
一般の高校より、一足早い卒業式がやってくる。
富裕層が通う学校だった名残で、春休みに一ヶ月の海外バカンス、と銘打った派手な卒業旅行をする家庭が多かったため、とかなんとか・・・・。
まだ、きりりと身のひきしまるような気温のなか、厳粛に執り行われる卒業式。
でも、そこには涙はない。
ほとんどが、エスカレーター組みで、離れ離れになることがないことと、それでも敢えて外部受験をする学生は未来をしっかり見据えて、むしろ希望にあふれているから。
手に手に、卒業証書を持って、ぞろぞろと講堂からでてくる人の波に流されながら、僕はただ一人を視線で探す。
・・・・・・あ。いた。
校門の柱にもたれ、ポケットに手を突っ込んで立っている大ちゃん。
今日はスーツだけれども、あの食事に誘ってくれた日を思い出す。
そう。
あのあまりにもキラキラとしていた大ちゃんに、心惹かれ、切なく苦しかった夏休み・・・。
「ま~おっ。卒業、おめでと。」
「うん。ありがとう・・・。」
二人の間を、冷たいけれどさわやかな風が吹きぬける。
「これから、自分の道、をあゆんでゆくんだな。」
「うん。大ちゃんのふさわしい人間になるために。」
しっかりとあわせられた視線。
渡辺京介になって、二人で大地を踏みしめて歩いてゆく覚悟。
「もう、新居はいつでも入れるけど、お前、どうする?一旦、寮に帰る?」
「ううん。大丈夫。荷物も全部運んであるし。」
一人暮らしで、8ヶ月しか過ごしていない部屋は、そんなにたくさんの荷物があるわけもなく。
むしろ、ほったらかしにしてしまっている実家のほうが、大変だ。
もう、大丈夫。
大ちゃんが、いつも側にいるから。
思い出のいっぱい詰まったあの家を整理しに帰ろう。
「じゃあ、行くか。」
「うん・・・。」
駐車場まで並んで歩きだろうとしたその時。
「あっ!!いたいたあああ。探してたんだよっ!!」
「ほんとお。冷たいなあ。外部受験組みなのに。」
両手いっぱいに荷物を抱えたクラスメート達に囲まれる。
「えっ!?なになに??」
「はいっ!!私たちから、卒業祝いっ!!」
「祝いって・・・。僕、なんにも用意してないのに・・・。」
「だ~か~ら~~。二人へのっ!!私たちの気持ちだから、いいのっ!!
おそろいのパジャマでしょお。夫婦茶碗でしょお。まお君に似合いそうなエプロンでしょお。マグカップでしょお。」
ドンドン僕の両手の上に積み上げられてゆく、プレゼントの箱たち。
「んで、これが私たちの思いのこもった、手作りのベールっ!!」
両手がふさがったまま、ばさあ。と細かな花柄の刺繍の入った光に透けるベール。縁にはキラキラと輝くラインストーンが散りばめられていて。
「お前ら・・・。」
大ちゃんが、うるうるとした瞳で、3-Cの仲間を見ている。
「まお君が倒れるたびに、渡辺先生が王子様のように飛んできて、お姫様のように、まお君を抱っこしていってたんだよお。かっこよかったあ。
放課後も、ずっと二人一緒だしさあ。
あんなに張り詰めた表情してたまお君も、どんどんやわらかくなってくるしさあ。
本当に、事故のことみんな心配してたから。
そりゃあ、先生取られちゃったのちょっとは悔しいけど、なんか大好きなまお君と大好きな先生が幸せになってくれるなら、応援したくなったんだよねっ!!」
うんうん。とうなづいている僕の周りのクラスメート。
「浜尾、ここでたらどうするんだ?」
「えっと・・・。」
これはどう返事したらよいのだろうか。
なんだかもう、公然の秘密になっている気はするけれど・・・・。
「新しい俺の家に連れて帰る。」
ぐいっと大ちゃんに肩を引き寄せられる。
「同窓会名簿の住所、どうしよっかなあ。と思って・・・。よかったな。先生の家に行くんだ。一人っきりじゃないんだな。」
「ああ。俺が責任もって、浜尾の面倒みるよ。・・・お前らも、いつでも遊びにきてもいいぞ。」
「うそおっ!!やったああ。」
「酒、もって押しかけますね。先生。」
ぴょんぴょんと跳ね、手を叩いて喜び合うみんな。
「まお君、ひとりぼっちになるのかと思って、もんのすごく心配だったもん。大学も離れちゃうし。」
「ねねね。みんなで、記念撮影しようよ。」
「あ。これじゃあまお君が顔見えないから、アンタ達、もってあげて。」
「俺らは、見えなくていいのかよお。」
「だって、大学でまたいつでも会えるじゃん。」
両手いっぱいの荷物を、あれよあれよ言う間に持っていかれて。
「先生っ!!まお君のほっぺにちゅ~してあげてねっ!!」
「まお君は、これ持っててねっ!!」
真っ白な花を束ねた可憐なブーケを渡され。
いつの間にか全員集まっていた3-Cの仲間に取り囲まれ。
「お前ら、悪ノリしすぎ・・・。」
などど、つぶやきながらも、「はい。チーズ。」の言葉で、大ちゃんの唇の感触を頬に感じた。
きゃあああ。と、同時にあがる悲鳴。
密室での秘め事、だったはずなのに。
家族のいない僕は、二人だけで、ひっそりと祠堂をあとにするつもりだったのに・・・・。
こんなみんなの笑顔に囲まれて、わいわいと卒業できるなんて、思っていなかった。
「じゃあ、二人前途を願って!!!花道~~~!!」
3-Cび仲間達が、駐車場への道をアーチをつくって待ってくれている。
ところどころで、パーン!!と鳴らされるクラッカー。
舞い散る、紙ふぶき。
うん・・・。うん・・・。みんなありがとお。
大学は、離れてしまうけれど、しっかり勉強して、医学部受かって、一年送れだけど合流する。
大ちゃんと、ふたりで、幸せになる・・・。
通り終わった花道のみんなは、僕達のあとをついてきてくれて。
車に乗り込んでからも、
「絶対に、一年後、会おうな!!」
「さみしくなったら、家まで押しかけていっちゃうからね~~。」
なんて、周りを取り囲んで最後まで見送ってくれて。
花道から、うるうると潤んでいた瞳は、みんなの声が聞こえなくなると同時に堰をきったように涙があふれてきて。
「だいちゃ・・・。僕、祠堂にきて、本当によかった・・・。」
「だな。まおは、みんなに愛されてたんだよな。」
「うん・・・。でも、大ちゃんがいなかったら、みんなの優しさに気がつくことができなかったかも。あのまま、自分の殻に閉じこもって、まだ立ち直れていなかったかもしれない。」
「・・・ああ。俺も、祠堂に来てまおに出会っていなかったら、自分の未来に迷いを感じていたままだったかも・・・。」
涙でぼやける真っ直ぐに伸びた道をみつめながら、僕達に開けた輝かしい未来を感じる。
「ありがと・・・。大ちゃん・・・。」
「うん。まおと出会えたことに、感謝しなきゃな。」
大ちゃんの左手をそっとつかんで、その甲に口づけた・・・。
--------------------------完------------------------------
私の頭のなかは、もっとキラッキラした仲間達、なのですが、文章に表しきれず、残念WW
雰囲気だけでも、伝わるといいなあ・・・。
あとは、番外編で、書きたくなったら10月から3月までのイベントごとを書いていきますね。