最近のまおは、ずっと携帯のコメントを読んで過ごしている。

部屋の隅で、ぐずっと鼻を鳴らし、ティッシュとゴミ箱を抱えて。

時々、天井を見あげて、ふ。と微笑んで、遠い目をして、またコメントを読む世界に入りこむ。

そんなときは、俺もそっとしておいて、自分の読みかけの本をベッドに寝転んで読んでいる。

もちろん、まおの動向が気になって、ストーリーなんて頭に入ってこないんだけど。

まおが、自分のなかで感情を整理してるのがわかるから。

見守るけれど、話しかけはしない。


「ふうう。みんな、優しいなあ。」

携帯を床において、う~んと伸びをするまお。

「コーヒーでも、入れる?」
「あ。うん。飲みたい。」

俺もカップを持って、まおの横にぺたんと座る。

「シュタゲで疲れてるのに、ごめんね。」
「いや・・。いいよ。気にるすな。」

まおのことなら、俺が一番知っているだろう、といわんばかりの周りの視線。
でも、まおの口から話す言葉が真実だから、俺がどうのこうのと言うことではない。

まおもある程度は、予想してくれていて、このタイミングで話そう、と二人で話し合ってから、事務所と相談したのだけれど。
眠れないまお。食べれないまお。
毎日そんなまおを見ているのが、辛かった。

でも、今は、自分の口から話せたことで、少しずつ自分を取り戻しつつあるように感じる。


「みんなを悲しませちゃった。」と泣きじゃくっていたあの夜。

「それだけ、まおがみんなに愛されてたってことだよ。」
「うん・・。うん・・・。」
「だから、みんなに恩返しするには、まおが笑顔で過ごすこと。第二の人生を精一杯生きることだろ?」
「うん・・・。」

家に帰ってからも、不安定なまおが、思い出したように泣き出すたびに、
「まおは、間違ってないよ。」
「まおの人生なんだから、謝らなくていいよ。」
って、抱きしめて、頭をなでてやって。

「うん・・。ありがと・・・。」

朝になるころには、腫れぼったい目をしていたけれど、表情は穏やかになっていて。
それからは、ひたすらコメントを読んでは、感激の涙をながしている。

本当に、純粋ぴゅあぴゅあだなあ。まおは。
この性格なら、どこに行っても可愛がってもらえるよな。

なんてったって、この俺が性別超えて惚れた相手なんだし。

「まお。愛してるよ。」
「ん・・・。ありがと・・・・。おれも愛してる、そして、感謝してる。」

見上げてきたまおが、ちゅ。とキスをくれる。

一回り細くなって、もともと大きな瞳が、より強調されて光を受けてキラキラと輝く。


「ずうっと、側にいてくれてありがとう。」
「6年間、まおの成長を側で見続けたから。こらからも、側にいるよ。」

「だって・・・。」
「一生一緒にいるって誓ったもんね。」

俺の言葉を引継ぐように、ふふ。とやわらかく微笑みながら、差し出された小指に指をからめ。

「ああ。約束、だからな。」
「だから、待っててね。」

「ああ。でっかくなって、帰ってこいよ。まお。」
「・・・って、まだ気が早いよお。来年の4月だよ?」

「じゃあ、2ヶ月は、毎日朝から晩まで一緒にいような。」
「うんっ。一度やってみたかったんだ。一日中、大ちゃんのことだけ思って、家で待ってるっての。」

「俺が、仕事のときは出かけてて、いいんだぞ?」
「やだあ。一日中、ごろごろして大ちゃんの気配感じてる~~。」

離れ離れ、の時間が長くなってしまうかもしれないけれど。
本当にまおは強くなった。

「なあ。まお。散歩しよっか。」
「散歩?」
「ああ。海に行こう、海。」

急に冷え込んできた、朝。
まおに厚手の上着を、ばさっと放り投げて、玄関に向かう。

何も言わずについてきてくれるまお。


冷たい風の吹く中を、肩を寄せて歩く。
こんな寒い日の朝の海、なんて誰もいない。

ざざーと、押しては返す波の音が聞こえてくる。
何度、二人でこうやって海を眺めたことか。

幸せなときも。
悲しいときも。

はるか彼方に消えてゆく地平線。
その先は見えないけれど、地球は丸くつながっている。

そして、どこまでも青く抜ける秋晴れのさわやかな青空。
ところどころにぽっかりと浮かぶ雲。

「なあ。まお。」
「・・・ん?」

「この海も、この空も、全部つながってるんだよな。」
「・・・・うん・・・・。」

離れているときは、お互いに空のシャメを送ったりして、同じ空の下に生きていることを確認しあった。

「まおが、教えてくれた。守るばっかりだったまおが、強くなって、離れていても一人じゃないって。」
「大ちゃんでしょ?教えてくれたのは。」

「でも、愛されている自信に満ちたまおは、強いなあって。俺も、しっかりまおを信じてがんばらなきゃなあ。って何回も思った。」
「うん。そうだね。」

「さみしくなったら、波の音を聞いて、空を見上げて。がんばろうな。」
「うん。そうする。」

海に張り出したコンクリートの足場の一番向こう側までゆっくりと手をつないで歩く。
俺が座ると、まおも横に黙って座る。

コツン、と肩に頭をもたれさせてくるまお。
その頭に体重を乗せる俺。

目を閉じて、ざざーーとはるか昔から変わらずにただただ押しては返すを繰り返している波の音を、ずううっと聞いていた。
だんだんと、太陽が昇り、じんわりとあたたかくなってくるのを感じながら。

この波の音も、青空も。

どこまでも続き。
時空を超えて、永遠に存在する。




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密室書こうと思ったのですが。

ふと、海を見に行く二人が浮かんで。

このお話を書くのが、いいことなのか悪いことなのかわかりませんが。

私は、こうあってほしい。という願いを込めて。