ハロウィンパーティーを控えた週末の教室は、大騒ぎだ。

ほとんどの学生が、エスカレーター式の大学に入学する祠堂の受験生は、10月も終わりだというのに、緊迫感がない。

天井からつるされた、パンプキンのランタン。
壁一面の黒幕に飾られた、ゴーストや、ウイッチ(魔女)やバンパイヤの衣装。

硝子窓には、キラキラしたジェルシールで、「WELCOM SHIDOU HARROWIN」とゴロが貼られ。

クリスマスとお正月を自宅で過ごす生徒がほとんどのこの祠堂では、今年最後の一番華やかなパーティーになることもあり、生徒の盛り上がりもハンパじゃない。

「ねねね。仮装の衣装、どれにする~~?」

段ボール3箱分の衣装を並べ、次々に並べていく女子達。

「あ。浜尾君は、絶対これ~~!!」
「ちょ・・・。それ、バニーじゃん。」

「だって、学園祭のメイド、もんのすごく可愛かったんだもん。写真販売ナンバーワン!!だったんだよ。3-Cの売り上げ貢献、間違いなしだよお。」

そう。祠堂にはそんな歴史もあり。
外部のプロのカメラマンが撮った写真を、ずらあ~っと廊下に張り出し、購入できるという仕組み。
その売り上げは、クラス単位で還元されて、打ち上げの豪華さが決まる、ということもあり、クラス一丸となって盛り上がる。

「あ。私はこれにしよっ!!」

ふわふわのピンクのドレスを選ぶクラスメート。
同じ女装なら、まだそっちのましかも・・・・。

「あ。俺、これがいいっ!!なんとも間抜けな顔が愛嬌あるよなあ。」

と、あっちでは、ぶかぶかしたかぼちゃの着ぐるみ?を引っ張り出している。
ああ。乗り遅れてしまった・・・・。
こういうときは、我先に決めてしまったほうが、得策なのに。どんくさいなあ。僕。

大盛り上がりの中、突然女子の黄色い声が響く。

ガラリ、と戸を開ける音がしたかと思うと、そこには大ちゃんの姿。

「きゃああん。渡辺先生も仮装するっ!?ドラキュラがまだあるよお。」
「ほらほら。先生、マントと仮面つけてよお。・・・きゃあ。カッコよすぎて、倒れそう~~~。」

きゃいきゃいと、女の子に囲まれておもちゃ状態になっているダイチャンだけれども、視線は真っ直ぐに僕を見ている。

「浜尾は、どれにするんだ?」
「やっぱりい。気になるよねっ!!だって、学園祭ナンバーワンだもんねっ!!」
「や。ちょ・・・・。」

まずい。
バニーガール、なんてばれたら、ダイチャンの機嫌は一気にマリアナ海溝並みに沈んでしまう。

「じゃ~~ん。バニーちゃんで~~す。」
「や。僕、まだいいって言ってな・・・。」
「先生も見たいよねええ。まお君のバニー。」

じろり。と僕のほうに投げられた視線は、明らかに「まお。ダメだからな。」って語っている。

「ほら。えっと・・・。あ。この前、ミニスカートがすうすうして、風邪ひいたんだよね。」
「バニーはスカートじゃないよ?網タイツ。意外とデニール数は高いから、あったかいよお。」

余計にまずいでしょ・・・。

「ほら。耳かわいいっ!!!」
「・・・確かに、まおはうさぎさんだな。」

ウサギの耳のカチューシャをされて、ダイチャンの表情がふ、と緩む。
衣装の山から、ごそごそと何やら探し出す大ちゃん。

「なあ。タキシードにウサギでもいいんじゃないか?」
「あ。それもカッコかわいくていいかもっ!!まお君、男のままでも、男前だもんねえ。」

「じゃあ、それで決まりだな。」
「ねねね。先生はあ??毎年、3年のどこかのクラスに、校医の先生が入ってくれるんだよっ!!先生、まお君専属みたいなものだから、もちろんC組に入ってくれるよね。」
「いいのか?」
「もちろんっ!!売り上げ、貢献間違いなし~~~!!」

その夜。

一年でこの日ばかりは無礼講、で通学生が寮生の部屋に泊まることも許可され、10時の消灯も守らなくてもいいことになっていて、もう、誰が誰の部屋だか、ベッドだか・・・。って感じで、おのおの飲み物や、お菓子を持ち寄って、めいめいの部屋に集まり、仮装を披露しあう。
祠堂の敷地全体が肝試し会場と化して、意中の彼。彼女がいる子達は、パンプキンランタンを持って、森のほうに繰り出す。
ランプの炎が消えるまでに、森の中に隠されたミニかぼちゃを見事見つけることができたカップルは、両思いになれる、というジンクスつきだ。
女の子達は、もっぱらそっちに夢中で、寮で騒いでいるのは、恋とは縁遠い馬鹿騒ぎのほうが楽しいメンバーばかりで。

大ちゃんと一緒に、ドラキュラとバニーボーイ?の衣装で、思いつくままにひやかしに行く。

「わあっ。先生だっ。」

バタバタと、テーブルの上のものを隠す、寮生たち。
隠しきれないビンが、ごろごろと床に転がっている。

「お前らあ・・・。飲んでただろお?」
「シャンメリーですよっ!!ノンアルコールのっ!!」
「俺らも、混ぜろよ。」

ベッドの下に押しやられた、シャンパンのビンを引っ張りだして、寮生の持っているグラスにカチンと合わせる。

「ハッピーハロウィン。ほら。まおも。」

適当に、そこら辺に伏せてあるグラスのヒトツにな並々と琥珀色のシャンパンを注がれる。

「でも、僕アルコール飲んだことないんだけど・・・。」
「ま、人生何でも経験、経験っ!!」
「一応、先生なのに。未成年にアルコールすすめて、不良だなあ。」
「今日は、トクベツ。」

なんだかんだでイベントがとっても好きだと言う事がだんだんとわかってきた。
あんなに怒っていた学園祭のメイドだって、全種類の写真買い占めてたし。
その後の打ち上げだって、僕のクラスに来て、みんなと一緒に盛り上がっていた。
僕だけに見せてくれる蕩けるような優しい笑顔も大好きだけど、大口開けて楽しそうに笑っている先生の笑顔も好きだ。

ほろ酔い気分で、オセロをしたり、ウノをしたり。
なぜか手品をいきなり始めたりするメンバーもいて。
あの事件以来初めて、こんなにお腹の底から笑った。


「あ~~。楽しかった。」
「ほんと、まおの弾ける様な笑顔がみれて、よかったよ。」

12時を過ぎてやっとお開きになった会をあとに、先生の部屋に向かう。
今日は点呼を気にせずに、堂々と遊びに行ける。

一番にぎやかな女子は、名目上10時には寮をでなければならないことになっているので、防音の完璧な廊下は、シーンと静まり返っている。

「大ちゃんと、ハロウィン過ごせて、よかったあ。」
「俺も楽しかったよ。こんな盛大にしてるとは、知らなかったしな。」

「大ちゃんのカッコイイドラキュラ見れたし。今回は大ちゃんが一位、だね。」
「まおのバニーだって、右に出るものはいないぞ。」

「それって、惚れた欲目、って言うんだよ。」
「それを言うんなら、お前もだろ。」

並んで歩きながら、肩をぶつけ合い、お互いに突っ込みあって。
ほんのりアルコールがまわってふらつく足元のせいにして。
大ちゃんの腕にすがりついて、その腕の抱き心地に酔いしれた。



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現在の大マオさんを書くのは、まだ辛いので。
密室で、思いっきり弾けてもらいました。

天気が悪い日は腕しびれるけど、もう痛みは全くなくなったので。
ちょこちょこ長編も書きますね!!!