「あれえ?今日は浜尾一人?めずらしいなあ。」

久しぶりの一人きりの夕食。
さすがに昼食は、もともとつるんでした通学生組みと摂る事が多かったが、寮生の夕食は各自ばらばらだし、夏休みからの入寮の僕は特定の相手と誘いあって、ということもなく、いつも先生と学食に来ていた。

秋になってから、しかも医学部を目指す珍しくも、チャレンジャーなヤツ。
教科担任のいない放課後に、ほとんど家庭教師状態で、ダイチャンに勉強を教えてもらっている。
とか。
図らずとも、事故、とか家族が亡くなる、とかって話題が出るたびに、気分が悪くなって、ぐるぐる世界が回り、気がついたら保健室、なんてことが新学期に入ってからも何度かあって、渡辺先生のところに置いとけば、安心。みたいなクラスメートの雰囲気もあり。

なんだか、いつも一緒にいるのが当たり前、みたいにみんなに思われるようになっていた。


今日は、研修で帰りが遅くなる大ちゃん。
消灯前には会えるだろうけど・・・。

食事を摂ってからもなんだか自室に帰る気がせずに、結局保健室の大ちゃんの机で教科書を広げる。
自習できるように、昨日のうちに詳しい解説を赤ペンで書き込んでくれた達筆をみつめる。

「はあ。ちゃんと追いつけるかなあ・・・・。」

エスカレーター式の大学があるせいで、のんびりと学生生活を送っていた僕にとっては、同じ祠堂からの推薦枠がある、と言っても長い、長い道のりに感じられる受験勉強。

でも、あの大ちゃんの背中に追いつきたい。
いつか、並んで同じ目線で話ができるようになりたい。

そんな一心で、毎日真面目に勉強に励む日々。
それでも、毎日大ちゃんの側で、少しずつ自分のレベルが上がってきているのを感じるのが嬉しくて、楽しくて、勉強が辛いとか、苦しいとか思ったことはなかった。

むしろ。
籍を入れてまで、僕と未来を共に歩もう、としてくれた大ちゃんの気持ちに答えたい、パートナーとして、支えたい、という気持ちのほうが勝っていて。

ケッコンって、こういうことなのかなあ??
病めるときも、健やかなる時も・・・って言うもんね。などど、ふふふ、と一人で幸せをかみ締めたりしている。

「ああ。大ちゃんの解説分かりやすいけど、やっぱり本物がいてほしいなあ・・・。」

イスの背もたれに体重を預けて、伸びをする。

「ただいま。まお。」

伸びをした体勢のまま、ドアから入ってくる大ちゃんが見える。

「・・・・あ。まお、さぼってたなあ。」
「違うよお。たった今、伸びたところ。」

上向きのまま、ただいま。のキスをもらう。

「じゃあ、ちょっと休憩する?」
「え。いいよお。大ちゃん今、帰ってきたところなのに・・・。」

「俺が、まお不足だから。」

コートをかけたその手で、お湯を沸かしてくれる大ちゃん。
しゅんしゅんとたつ湯気の音が、やっぱり二人っていいなあ。としみじみと感じさせる。
久しぶりにその場に居合わせた友人と食べた夕食は、いつもと同じメニューなのに、なんだか寂しくて、ちょっぴり味気なかったんだ。

「まお。今日は一日無事で過ごせた?」

紅茶をトンと机に置き、隣に座った大ちゃんが、僕の頬を包み込む。

「うん。大丈夫だった。最近は、発作もほとんどでてないでしょ?」
「ああ。でも、一日離れてたら、俺は気が気じゃなかったよ。」

ちゅ。ちゅ。とキスを交わし、まだひんやりと冷たい大ちゃんの手が、シャツの裾から忍びこんでくる。

「あっ・・・・。」

昨日の夜から会っていないだけなのに、久しぶりに触れ合うような感覚に、そのまま身をゆだねたい誘惑にかれれるけれど。

「ここじゃ、ダメ・・・。」

まだ、消灯前の保健室。
誰が入ってくるかわからないのだ。

「この続き、してもいいの?まお。」

耳元で妖しくささやかれ。

「・・・・うん・・・・。」

今更、気分がリセットされるわけもなく。
本日の自習のノルマは果たしたし。

がんばってて、よかったあ。

なんて、頭の片隅で思いながら返事をすると、大ちゃんにふわっと抱えられて、そのまま奥のプライベートルームで、結局消灯までに部屋に帰れない羽目になった。