五日前・・・・???

思考をめぐらす。毎日めまぐるしく過ぎてゆく日々。遠い昔のことのようで記憶がおぼろげだ・・・。

口紅?

ああ。そうだ。

-----------あぶないっ!!

床に散らばったコードに引っかかって、危うく机の角に顔面衝突しそうになった彼女。
とっさに、かばって差し出した腕。

そのときに、口紅がついたのかもしれない。

でも、香水は・・・・??

女性と密着するようなシーンはないし、もちろん誓って、プラベートで抱き合う、なんて持っての他で。
自分でも気がつかない程度の残り香・・・。

シャツに故意につけられた香り??

あ。そうか・・・・。

朝、肌寒くてシャツを羽織って出かけるけれど、稽古場で動いていると暑くなってハンガーにかけていたシャツ。もちろん、他の共演者も似たり寄ったり、な感じで、ズラーっと上着が並んでかけられてあって。
たまたま、机と顔面衝突しそうになった彼女と、毎日隣同士、にかけていたのかもしれない。

無頓着な、俺のせいで。
こんなにまおを不安にさせてしまって・・・。

しかも、五日間も一人で悶々と悩んでいたなんて。

コイビト失格、だな・・・。

「ごめん。まお・・・。気がつかなくて・・・。」

ぎゅっと腕に抱きしめて、思う出せる限り誠実に、事実を伝える。

「長いこと、不安な思いさせて、ごめんな?」
「ううん・・・。信じてたから・・・。でもね、信じてても、気になって。こんなこと聞いたら、大ちゃん疑っているみたいで嫌だったの・・・。」

どこまでも澄んだ湖のような穏やかなまおの瞳。
何度、この瞳に救われたか・・・・。

「まお・・・?」
「うん?」

「本当に、ありがと・・・。俺のこと、絶対的に信じていてくれて。愛してくれて。」
「そんな・・・。大ちゃんが、愛されてる自信くれたからでしょ?」

離ればなれになっても。
普通ならば、「浮気してるんでしょ?」とつっかられても、おかしくないような状況でも。
絶対的な信頼と愛情で俺を包んで、、待ってくれているまお。

どんなことがあっても守り抜く、と誓った存在。

「これからは、なんかあったらすぐに言って?まおが俺のこと信じてくれてるのは、身にしみてわかってるから。・・・まおが、一人でツライ思いしてることのほうが、つらいよ・・・・。」

まおへの愛情が、一点の曇りもないようにいつもピカピカに磨いていよう。
少しでもまおが不安になるような要素があるならば、すぐさま綺麗に取り除こう。

その澄んだ湖のような瞳が濁らないように・・・・・。

「それで、その子とは何にもないの?」
「ないと・・・。思う。あ。でも一回ごはん誘われた。もちろん、台本読むのに忙しいから、って断ったけど。」

明らかに、むっとするまお。
だって、仕方ないだろう。誘われるのは不可抗力だ。きちんと断ったんだから。

「誘われたの?」
「でも、きっぱり断った。言えるなら、家で食事作ってまっているかわいいコイビトがいるから。って言いたかったけどな。」

ぎゅって抱き寄せると、ふふふ。ってくすぐったそうに笑うまお。

「・・・言ってよ。大ちゃん。」
「・・・待ってくれて、ありがと。・・・俺のかわいいまお。」

頬を両手で挟んで、しっかりと瞳を覗き込んでキスをする。

ちゅ。

口びるが触れあう音がした瞬間、まおの瞳がふわああって柔らかくなる。

「大ちゃんっ!!大好きっ!!」

がばあっ!!と全身タックルで抱きしめられ。

・・・おおっと。

久しぶりのゴムまりのような弾んだまおの明るい笑顔と、全力投球での抱きつきを受け止める。

「俺も、まお大好き。」

幸せ100%オーラのまおの笑顔がとってもうれしくて。

ぐちゃぐちゃあっ!!って髪の毛をかき回してまおの頭を撫でた。