はじめこそ恥ずかしかったけれど、だんだんと慣れてきて。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

うん。我ながら、スムーズに言えるようになってきた。

「ご注文は??」

と、オーダーをとっているところを、誰かの手が、僕の腕をむんずと摑む。

「うわっ。」

引っ張られて、バランスを崩した視界に見えたのは・・・。大ちゃん。
あああ。保健室でお留守番してて。って言ってたのに・・・・。

「まお。何やってるんだ?」
「何って・・・・。お仕事。」

大ちゃんの初めて見る、怖い顔。
突き刺すような、視線。

「ちょっと、浜尾、借りていくぞ。」

近くにいたメイド姿の男子生徒に声をかけ、ぐいぐいと腕を引っ張られて、着いた先は保健室。
・・・・・の奥のプライベートルームのベッドに乱暴にほおり投げられ。

「お前、そんなに脚、みせびらかしたい訳?なんで、だまってたんだよ。」
「・・・だまってなんか・・・。」

大ちゃんにベッドに押し倒され、のしかかられる。
初めて怖い。と思った瞬間。

「俺に校内うろうくな。とか言っておいて、自分は色気ふりまいて。」
「ふりまいてなんかっ・・・!!僕だって、ついさっきメイド喫茶で、しかも女の子の格好、なんて知ったんだから。ある意味、被害者だからねっ!!」

でも、一方的に話を決め付けられて、怒りを感じる。
僕にだって、自分の学生生活、というものがあって、高校生活最後の学園祭だから、せっかくだから楽しもう。と前向きになってきたところだったのに。

「断れよ。」
「・・・ひどいよ。大ちゃん。だって、みんな一生懸命用意してくれてたんだよ?僕が熱で休んじゃてるうちに。大ちゃんと出会ってからの、3ヶ月は確かに今まで生きてきた中で、一番大切な時間だけど。
この祠堂で3年間一緒に過ごしてきた仲間だって、大切な存在なんだから。」

ぶわわっ。と涙があふれてくる。
そう。どっちが大切か、なんて比べようもないのだ。
僕がこの祠堂で過ごしてきたからこそ、大ちゃんと出会えて。
大ちゃんと出会えたからこそ、この祠堂に来て本当によかった。としみじみ思えるようになったのだから。

飛行機の事故のことも。
みんな理解してくれて、変な詮索もせずに、今までどうりに接してくれて。

気さくな楽しい男友達も。
ちょっと強引だけど、学院生活を楽しむことにおいては、貪欲な女子も場を盛り上げてくれて。

一気にまくし立てた僕を見ていた大ちゃんの瞳が・・・・揺らぐ。

「ごめん。まお。お前のメイド姿があまりにも、似合いすぎてたから。つまらない、嫉妬した。」

ポタ。と一滴の涙が僕の頬に落ちる。

「俺はここにきて運命的な出会いをした。と思ってたけど。・・・まおは、違うんだよな・・・。」

どこか陰のある、さみしそうな瞳。
違う。そうじゃない。
ああ。僕はいつも言葉足らずなんだ。それで、大ちゃんを不安にさせているのかもしれない。

「違うよ。僕も運命的な出会いをしたと思ってるよ。大ちゃんと出会えたことで、この祠堂が大好きになったんだよ?その祠堂の最後の学園祭、だから。
正直、メイド服なんて恥ずかしかったけど、みんなが楽しんでるの、盛り下げたくなかったんだ。後悔しないように、一緒に精一杯楽しもう、って思っただけ。
大ちゃんの存在はトクベツだから。一生一緒にいてくれるんでしょ?」

「まお・・・。」

「いつだって、自信満々で、僕を愛してるって言って??
僕も、愛されてる実感があるから、こうやって離れ離れの時間も不安じゃないんだから。
どんなことがあったって、僕が愛してるのは、生涯大ちゃんだけだから・・・・・。」