ググ~~~。

間の抜けた音がする。
あああ。こんないいムード??の時に正直な僕の腹時計・・・・・。

「あのっ・・・・。えっとっ・・・・・。」
「あははっ。そうだよな。メシ、行くとこだったもんな。健全な高校生の胃袋で安心したよ。・・・もう、食堂しまっちまってるなあ。・・・外に食いに行くか!!」

言い終わるか終わらないかで、さっさとジャケットを羽織ったり、車のキーを用意したり。
僕はまだ返事すらしていないのに。
やっぱり、先生って強引・・・・。
でも、そんなところがオトナで、頼もしくて、やっぱり惹かれてしまう。

「はまおも、着替えて来いよ。俺のシャツでよかったらいいけど・・・・。」
「え?・・・あ。うん。そうします。」

先生に言われて、借り物のシャツのままだったことに気がつく。
本当は、このまま先生の香りに包まれていたい気もするけれど、さすがに外出には不都合なので。

「じゃあ、10分後に門に集合な。」
「・・・・・わかりました。」

そこから、ダッシュで寮まで帰り、町に出ると日差しが強いだろうから薄手の長袖の白いパーカを羽織って飛び出す。
門まで、10分ジャスト。
この広い学院内を知っていながら、10分って・・・・。先生、鬼だよ。

はあ。はあ。と荒い息をしながら門に着くと、車にもたれながら、優雅にたたずんでいる先生。
時計をチラリ、と見やって、にやり、と笑う。

「おっ。早かったなあ。本当に10分で来た。」
「だって、先生がっ・・・・はあっ。言った・・・からっ・・・・はあっ。」

もしかして、遊ばれてる・・・??

「一気にテンション上がっただろ?食事をするときは、楽しくないとな。」

今度はふわり。とやさしく微笑み肩を抱き寄せて、車の助手席にエスコートしてくれる。
あ・・・・。僕がさっきまで泣いてたこと気にしてくれてたんだ。
確かに、このダッシュでそんなことすっかりリセットされちゃってたよ。先生。

「はまお。何食べたい?」
「んっと・・・。ハンバーグ!!・・・あ。だけど、先生の好きなものでいいよ。」

ふと先生のほうを見ると、視線を遠くに飛ばした端正な横顔にドキリとする。
ハンドルにかけた腕が逞しくて、ついさっきまでこの腕に抱きしめられてたんだ。とまじまじ見てしまって。

「いいよ。俺も最近、うまい肉食ってなかったから。」

ポン。と頭を撫でられ、ドキドキが止まらなくなる。
心臓の音、先生に聞こえてしまっていないだろうか・・・・。

祠堂の食堂は、うまいよな。病院の食堂とは大違いだ。
とか。
どんな教科が得意で苦手なのか?こんど、教えてやるよ。
とか。
どんな名物先生がいて、どんな部活があるのか。
とか。

先生が色々話しかけてくれてるけど、気持ちがふわふわと浮ついていて、何を答えたのか覚えていない。
ただ、僕の家族や、先生の家族、のことに触れないように気をつかってくれていることだけは、感じていて。この人は、心の中を土足で踏み荒らすようなことは絶対にしない。という信頼を寄せるようになっていた。

「ほら。着いたよ。」
「・・・ファミレスだと思ってた・・・・。」
「あははっ。まあ、高校生でハンバーグって言ったら、そうかもな。」

連れてこられたところは、ロッジ風の外見の鉄板焼きの店のカウンターに案内される。
友達同士では、まず入らないようなところ。
目の前で、ぼおおっとフランベを入れて、炎が上がる。

「うわあっ!!」

びっくりする僕の反応に、先生がクスクスと隣で笑っている。
もう。子供っぽいなあ。とか思ってたでしょ。

「お前、面白いな。」
「面白くないよお。・・・びっくりした。」
「褒めてるんだよ。はまおと一緒に食べると楽しくて、メシがうまくなる。」

じゅわあああ。ってナイフを入れた瞬間にあふれ出す肉汁や、付け合せの玉葱やじゃがいもや。
どれもとっても美味しくて。
ここ数日の味をほとんど感じられなかった空腹を満たすだけの食事を思う出して、
本格的な鉄板焼きの店だから。も、もちろんなんだけど、やっぱり僕も先生と食べるからだよ。
と、心の中で返事した。