「へえ。結構いいとこだな。親父の趣味にしては・・・・。」

ここは、山の中腹に立つ、親父の経営する学院。
昔は、金持ちのボンボンしが厳しい社会的教育を目的にして金を積んではいるところだったらしい。
全寮制男子校だった名残で、今も男子の割合が多いが、数年前から女子の受け入れも始まって、今は3対1ってところ。

急に校医の先生が、体調不良のため辞職したので、急遽俺に白羽の矢がささったってわけ。
現在27歳。
たまたま頭がよく、手先も器用だから。という理由だけで医学部を受験してしまった俺。
大学病院の救急で、ばりばり働いていたけれど、なんだか未来へのビジョンが描けずにいた。

このまま、医者を目指すのか・・・。
それとも、違う道へすすむのか・・・。

たまたま、金持ちの家に生まれてしまい、頭がいい。という理由だけで親の敷いたレールにのっかっていて、いいものかどうなのか。
自分の未来。を決める重大な高校生。という時期。

廊下ですれ違う生徒達は、希望に満ち溢れていて・・・・。

「ああ。俺も、こんな高校生活を送ればよかったなあ。」

などど、少しうらやましく思ったりもする。


保健室の机の上には、顔写真つきの生徒の資料の束が、どさっと積んである。

「こっちが、通学生で、こっちが寮生・・・っと・・・。あれ??」

寮生、のほうに一枚だけ綴じられずに、ぴらぴらと一枚別で置いてある。

「珍しいな・・・。こんな時期に転校生か?」

備考欄を読むと、どうやらそうではないらしい。
でも・・・・。それなら、余計にめずらしい。
こんな、3年生の夏休みから、通学から寮生活に変更、なんて・・・・。
夏休み。
むしろ、みんな帰省してしまって、寮に残るのは、ごくごく数名ってところ。
なんか、訳あり、なのかなあ??

じっとその一枚をみつめる。

名前は、浜尾京介。
吸い込まれそうな、印象的な瞳をしている。
意思の強そうな・・・。それでいて、どこか色気を感じさせるような瞳。

「やっかいなことに、巻き込まれなかったら、いいけどな。」

ぽん。と寮生の名簿の束の上に、その生徒のデータを放り投げて。

「ま。敷地内見学、とでもいきますか・・・・。」

セキュリティーの高いこの学院内で、不審者でないことをアピールするために、白衣を羽織って外の空気を吸いにでた。