「ああ。大ちゃんと、もっと共演したいなあ・・・・。」

シュタゲの台本とにらめっこしている俺の背中でポツリとつぶやくまお。

「・・・ん?どうした?まお。また、さみしいのか??」
「う~~ん。さみしい。けど、ちょっと違う・・・・。」

足の指を器用にもぞもぞと動かしながら、体育すわりで膝を抱えているまお。
考え事をしていたり、かわいい拗ね方をしているときの癖。

「そりゃあ、同じ現場は、もんのすごく嬉しいよ?家でも、おんなじ話題で盛り上がれて。・・でもね。大ちゃんは、大ちゃんの魅力があって、おれはおれの魅力がある。年齢だって9歳も違うし、違うお仕事なのは、しかたないと思うし・・・・。」
「・・・・じゃあ、なんでそう思んだ?」

「早く、大ちゃんに並べるぐらいになりたい。」
「まおも、30になるころには、全国展開の舞台に出たり、映画にでたりしてるようになってるさ。」

「それじゃ、遅いの!!」
「・・・まお?」

いつになく、真剣な目つき。
最近のまおは、どうしてこんなに焦っているのか・・・。
早く、オトナにならなくちゃ。と・・・・。
22歳。
俺なんて、まだ大学生で、未来だってぼんやりとしか見えていなかったのに・・・・。
一歩、一歩、すすんでいったら、確実に前に進める。
確実に夢は近づいてくる。

その結果、オトナになっているもんで・・・。
ならなきゃっ。ってなるものじゃないのに。

「おれが、30歳になったら、大ちゃんは39歳でしょ?おれが、40歳になったら、大ちゃんは49歳でしょ??」
「ああ。単純に計算すれば・・・・。」

なぜか、うるうると瞳をうるますまお。

「ずっと、ずっとカラダが動かなくなるまで、このおしごとをするとしたって、どうやったって、9年間は、みんなより時間が少ないの!!だから・・・。だからっ・・・・。」
「ごめんな・・・。まお・・・。」

まおの望みを全てかなえてあげたいけれど。
こればっかりは、どうしようもない事実。
規則正しい生活をして、タバコもやめて、栄養バランスも考えて食事もして、努力はしているけれど。
ああ。そろそろ人間ドックも受けなきゃな・・・。

それでも、確実に死。というものは平等にやってくる。
しかも、きっと、確実に。
俺が、まおを置いて・・・・・・・。

「あのねえ。おれ、ずっとずっと、大ちゃんの作品みんなに話するからね。こんなにおれのコイビトの大ちゃんは、カッコヨクテ、素敵だったんだよって・・・・。そんで、その横にいるのが、昔のおれだよって・・・・・。今は秘密の恋、をしていないといけないけど。」

つらつらと一気に語るかお。
ふうっと、一息ついて、俺にすがりついてくる。

「有名なひとが、実は生前同性愛者だったんだよ。って語られても、受け入れられるように。大ちゃんの隣に並んで、一人前だって認められるように。すごいカップルだったんだね。って言ってもらえるように。がんばりたいのおお。」

最後は、涙声になっている。

なんと声をかけたら、いいのか・・・・。
共犯者になる。と決めたその日から覚悟していたこと。
9歳の年齢差も最初から、わかっていて・・・・。
それでも、一緒に歩んでゆきたい。とお互いに決意は固くて、日々信頼関係を積み重ねてきた。
俺たちの愛は、世界中のだれにも負けない。
誰にも、恥じない。
胸をはって、まおを愛している。と公言できる。

でも・・・・。
それを許さない、一般常識というものも確かに存在しているし、人間の寿命。という抗えないものがあるのも事実で。

「ごめんな・・・。まお。こんな道を選ばせて・・・・。」
「ううん。違うのおっ。おれが自分で選んだことだから。でもね。でもね。大ちゃんが大きな舞台に次々出演が決まって・・・。おれ、だいじょうぶかなあって・・・。ちゃんと、ついていけてるかなあって・・・。大ちゃんと並ぶのに、ふさわしい男になってるかなあって・・・・・。」

「だいじょうぶだよ。まお・・・。まおは、片時も離れず、俺の後をついてきてくれてるし、毎日びっくりするぐらい、成長してるよ・・・・。時々、俺のほうが支えられてるぐらい。俺も、これが俺のコイビトです。って言っても、みんなに認めてもらえるくらい、ビッグになるからさ。一緒に、がんばろ?」

ぎゅううっと抱きしめて、それから、まおの頬を両手で包んで、瞳を真っ直ぐに覗き込んで

「・・・な?まお?」

と安心させるように、誠実さを込めて伝える。

「うん・・・・。ごめんね・・・。なんだか、本読みの邪魔しちゃって・・・・。」

涙目のまま、そうつぶやくまお。
ダメだ。またそうやって、自分のせいにして、追い込んでしまう・・・。

「違うよ。まお。そうやって自分の思い、伝えてくれるのはすっごくありがたいし、うれしいことなんだ。ちっとも、邪魔じゃない。俺たちの未来のことだから、しっかり分かり合えるまで話し合うのは大切なことだと思う。それが、目の前の仕事のヒトツ、ヒトツにきちんと向き合うことでもあるんだから。」

もう一度、まおをしっかりと抱きしめて背中をゆっくりと撫でてやる。

「まお・・・。話してくれて、ありがとう。どうすることもできないことだってあるけど・・・。
今、できることを二人で精一杯がんばって、一緒に生きていこ・・・?」

きゅうっと俺の胸のシャツを握り締めるまお。

「まお。本当に俺を選んでくれて、ありがとう。な?」

まおが「うん。ありがとう。また明日からがんばれる。」って、笑顔になって言えるまで・・・・・。
この俺だけの愛しい、愛しい天使を。
俺の腕の中で、俺を頼りにしてくれる天使を。
大空に一緒に羽ばたこうと、毎日毎日ストイックに努力してくれている天使を。

ずうっと、その頭をなでて、抱きしめて、背中を安心できるようにさすって。

急がば、回れ。

時々こうやって、ゆっくりと立ち止まって、俺たちが目指している未来がとこに向かっているのか、忙しいときこそ、ゆっくり語り合って、理解しあうのも大切だとしみじみと感じた。