「僕の、両親です。今日は、よろしくお願いします。」

大奮発のスイートルームを予約しちゃった。
もちろん、スタンダードのお部屋も、それはそれは素敵なんだけれど、一回あのスイートに泊まってしまうと、これぞ高原ホテル!!!!って感じがして、是非是非お勧めしたくなってしまった。

自然に囲まれて、日常を忘れて・・・・・。
ゆったりと、時間が過ぎる、異空間。


スイートへと向かう廊下で、大ちゃんとすれ違う。
軽く会釈してくれる大ちゃん。

「あ。こちらが、このホテルのコンシェルジュの渡辺さん。いつも、僕がお世話になりっぱなしの人。」
「はじめまして。渡辺と申します。」

きちんと、折り目正しく挨拶をして、握手の手を差し出す大ちゃん。
なんて、素敵な笑顔・・・・。キラキラまぶしくて、なのに、癒されて。
うっとり、と僕が見とれてしまう。

「京介、いいわねえ。こんな素敵な人と、毎日仕事できて。」
ほう。とため息をつく、母さん。
「礼儀正しくて、きちんと教育されていて、好感が持てるな。」
と、にこにこと腕組みをして、満足げな父さん。

ふふ。そうでしょおお。このロケーションだけじゃなくて、このホテルのスタッフも、みんな素敵なんだから。
特に、大ちゃんは、僕の一番の憧れの人で・・・・。しかも、今はコイビト。
父さんと、母さんにも、いつかは僕の好きな人です。って紹介できるようになったら、いいな。


「父さん、母さん。驚かないでよ。本当に、凄いんだから!!」
父さんは、ニコニコ。母さんは、キラキラ、といった感じで期待のこもった眼差しで、ドアをみつめている。

じゃっ。じゃあああ~~ん。
と、効果音をつけて、扉を開ける。

ああ。本当に朝のスイートルームからの景色は、本当に素晴らしい。

全開に開いて準備しておいた窓から、さわやかな風がさああっと入ってきて、光に透けるカーテンを揺らす。
夏の名残を残した、イキイキとした緑が目に鮮やかで。
テラスに落ちる、木漏れ日が、ゆらゆらと揺らめいていて。

「わあ!!素敵・・・・・。」
「いい部屋、だな。」

思わず顔を見合わせている両親。

「京介は、いいところで働かせてもらってるなあ。」
「えへへ。そうでしょ??こうやって紹介できるのが、もう、自分のことのように、誇らしいよ。」

「こんな、いい環境で住み込みで働かせてもらったら、毎日ココロが浄化されそうだな。」
「うんっ!!!ここで、ぼーっと小川の音や、小鳥のさえずりに耳を傾けて、風を感じていたら、本当に嫌な事全部忘れるよ。」

「いいわねえ。京介。私たちも、ここに住みたいぐらい。」
「あははっ。じゃあ、がんばって働くから、また、招待するね!!」

両親は、すっかりこの部屋を気に入ってくれたようだ。

「いいかな・・・?父さん、母さん。自立、したいんだ。」
「そりゃあ、京介が自分の力で生きていくのは、大賛成だよ。その上、こんな素敵なところだったら、文句のつけようもないだろ?」

「あの。それでね。さっきの渡辺さんも一緒に住み込むことになってて。オーナーさんの、留守を守るってことで。」
「京介一人じゃ、心配だけど、渡辺君も一緒なら、安心だな。」

「お母さん、会いにきちゃおっかなあ。渡辺さんに。」
「こらこら。迷惑だから、やめさない。」

家で渡辺さんの仕事っぷりがどれだけカッコイイか話していて、実際にあった彼が、予想通りに?好人物だったことに二人とも安心してくれたみたいで。

「じゃあ・・・。僕は、仕事に戻るから、二人ともごゆっくり。」
「ありがとう。京介。こんな素敵な一日をプレゼントしてくれて。お前は、自慢の息子だよ。」

もう、すでにあっちをみたり、こっちをみたり、とはしゃいでいる母さんを横目に、父さんが優しく声を掛けてくれる。

「ううん。ここを作ってくれたオーナーさんに感謝、だよ。」
「そうだな。オーナーさんといい、渡辺君といい、そんな上司を持てるお前は幸せ者だよ。この、人間関係を大切にしなさい。きっと、お前の財産になるだろうから。」
「ん。ありがとう。父さん。」

本当に、本当に、いつかは大ちゃんのことを、きちんと紹介するね。
僕の全てを肯定して、受け入れてくれて、包み込んでくれる、素敵な素敵な人だから。

「母さんは、しばらく興奮がおさまりそうにないなあ。」

ふふ。と幸せそうに母さんをみている父さん。
僕も、父さんと母さんみたいな、幸せな家庭を築きたい。
子供は作れないけれど、きっと許してくれるよね?僕が本当に幸せで、どんなに大ちゃんが僕のことを愛してくれているかを知ったら。


高原ホテルの魔法。
ここに来た人は、みんな笑顔になって、どんなこともうまくいくような気分にさせてくれる。

「さあ!!今日もぴっかぴかにするぞおお!!」

そう気合を入れて、いつものお掃除タイムに取り掛かった。