「まおってさあ。いつから18度設定でクーラーつけるようになったの??」

大ちゃんの家で、きちんと25度設定でクーラーを入れる。
大ちゃんの喉が、やられちゃったら大変だからね。

「んん~~?ロク、拾ってきたときから。」
「そんな、前から?」

「長年の習慣だからねえ。なんとなく、落ち着かないんだ。18度設定で、毛布ぐるぐるしてないと。」
「ふうん。」

「・・・ねえ。大ちゃん。・・・なんで、ロクって名前か、知ってる?」
「そういえば、聞いたことないな。」


あのね・・・・・。


あれは、秋、というより冬に近い寒い日だった。
雨のなか学校から帰る途中、公園から「みゃ~。」と心細そうに鳴く声が聞こえてきた。
声のするほうにすすんでゆくと、雨宿りにならないすっかり散ってしまった木の枝の下で、ぷるぷると震えている小さな子猫がいた。

「かわいそう・・・・。」

拾い上げて、胸の中に抱きしめると、すりすりと頬をすりよせてくる。
こんなに小さいのに、家族と離れ離れになっちゃたんだ・・・・。
「みゃ~。」と鳴きながら、ぺろぺろと僕の手をなめてくる子猫。

「家に、連れて帰ったら、おこられるかなあ??」
「でも!!!こんな雨の中、ほっておけないよな。」

雨に濡れないように、そっと洋服ので子猫を包んで、家路を急いだ。



「ただいま~~。」

どうしよう・・・。なんて切り出したら、いいのかなあ??
玄関に立って、考えていると、お母さんが出てきて、「どうしたの?」と声をかけてくれる。

「おかーさん。・・・あのね。・・・・この子、拾ってきたんだけど・・・・・。飼っても、いい??」
「まああ。ちっちゃい・・・・。寒くて、震えてるのかしら??かわいそう。・・・でもね、うちは、共働きで日中だれもいないから、世話する人が・・・・・。」

「僕がするから!!!」
「・・・・・京介が?」

「うんっ!!!ちゃんと、トイレも覚えさすし、ごはんも早起きして用意するからっ!!」
「・・・・・きちんと、できる??」

「約束する。」
「約束よ??でないと、京介に拾われたこの子がかわいそうなんだから。」

「やったあああ!!!・・・・名前、何にしよっかなあ??」
「そうねえ。京介のねこちゃんだから、貴方が決めなさい。」

「・・・・ふふっ。じゃあ・・・・・。ロク。」
「・・・どうして??」

「今日は、11月6日だから。僕と、ロクが出会った日を忘れないように。」
「・・・・素敵な、名前ね。」

「今日から、お前はロク、だからなあああ!!!」

胸のなかの子猫の頭を撫でながら、そう言うと、僕を見上げて、「にゃあん。」と鳴いた。


その日から、ロクが寒くないように。下にも上にも毛布をひいて、ロクを胸の上に乗っけて眠るようになった。
あったかくて、ちっちゃくて。
ロクが胸の上にいると、すっごく安心する。
そうやって、毎日を過ごしていた。


季節はめぐり-------------。

じっとりと汗ばむぐらいの季節になる。
ロクも、ずいぶんと大きくなり、胸の上に載せるには、ちょっと重たいぐらい。ふわふわの毛皮で覆われたロクを載せていると、暑くてしょうがない。
二人で、汗だくになりながら目が覚める毎日。

「ロクう・・・。そろそろ、毛布、やめよっか・・・。」

夏用のシーツに変えて、タオルケット一枚かけて眠るけれど・・・・・・。
ロクも、僕も落ち着かない。

「やっぱり、毛布にくるまりたいねえ。ロク。」



-------------そうして。

真夏でも、上と下から毛布に包まれて・・・・。クーラーは18度設定。などどいう、とってもエコに逆行するような習慣がついてしまった。


「・・・・だから、毛布に18度設定なの。」
「そっかあ。でも、俺の家では平気、だよな?」

「うん。最初はちょっと落ち着かなかったけど、大ちゃんに包まれてるから、平気。」
「俺は、ロクの替わりか??」

「あははっ。そんなことないよおお。別格、って言ってるでしょ??いつも。」
「ロク拾った日と、俺の誕生日、一緒だったんだな・・・・。」

「うん。どっちも運命の出会い。だったんだよ。」


ふあん。とやさしいキスをする。
ロクは、今でもやっぱりおれのかけがえのない存在であることには違いないけれど。

一人ぼっちだったロクを、僕の腕に抱いたように。
今は、本物の恋を教えてくれた大ちゃんに、おれが抱かれてるんだよ。


-------------安心できる、居場所。ロク、おれもみつけたよ・・・・・?