「まお。先にシャワー浴びといで。」
脱衣所にきちんと並べられた、新しい着替えと、タオル。
僕が昨日、何気なくダイニングのイスに置いていた洋服は、もう一度、ぴしっと折り目がつくんじゃないってぐらい、きちんとたたみ直してあった。
なんだか、性格がでるなあ。

ふふ。とそんな大ちゃんの性格に口元をほころばせながら、シャワーを浴びて出てくると。

リビングには、洋服に着替えて、きちんと浴衣をたたんでいる大ちゃん。

「まおに、朝の華と蝶も見せれたからな。オーナーさんにお返ししないと。」
「そうだね。花火に、浴衣に、スイートルーム。ホントに、素敵なプレゼント、もらったもんね。」

大ちゃんが二人分の浴衣を、両手で下から支えて持ち、その半歩後ろを僕がついてゆく。
大ちゃんの背中、かっこいい・・・・。
この人と、昨日初めて愛し合ったんだなあ。とその背中を見ていると、つくづく感じられて、ぼーっと見とれてしまう。


-----------コンコン。
オーナーさんの部屋をノックする音で、我に返る。

「オーナー?今、大丈夫ですか??」
「いいよ。昨日は、お疲れ様。」

ドアを開けると、ふわん、と優しい微笑で迎えてくれるオーナーさん。

「昨日は、浴衣とお部屋、ありがとうございました。」
「あのっ。すっごく、すっごく素敵な浴衣で、お部屋で、本当に感激しました。このホテルで働かせていただいていることに、改めて誇りを感じましたっ!!!」

最大限の、感謝の気持ちを伝える。

「ありがとう。浜尾君。そんなにこのホテルのことを愛してくれて。
私には、それが一番のお返し、だよ。浴衣も、一目ぼれして購入したんだけど、君達が着てくれて、動いている華と蝶が見れて、感激したよ。すっごく、お似合いだった。」
「ありがとう、ございますっ・・・。」

ああ、感激だ。

「だから・・・・。もし、迷惑でなかったら、これは私からのお礼の気持ち。を込めて、君達にプレゼントするよ。」
「・・・・・えっ。ほんとうですか??でも、これ、デザイナーズものなんじゃあ??それに、高価そう・・。」
「そうですよ。オーナー。気持ちは、とっても嬉しいですが、恐れ多いです。」

ニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら、大ちゃんの手から華の浴衣を取って、僕の手の上に載せてくれるオーナーさん。

「これは、私からのお祝い。この浴衣の華と蝶のようにもっともっと似合うような、二人になって、私と一緒にこのホテルを支えてくれないか?」

「オーナーさん・・・・。」
「オーナー・・・・。」

「何もできないおじさんだけれど、それぐらいのささやかなお祝いぐらい、させてもらえるかな??」

「オーナーさん、大好きですっ!!」
「ありがとうございます。オーナー・・・・・。」

ああ。感激で涙がでちゃう。・・・・あ。ダメダメ。浴衣を濡らしちゃったら。

「ふふ。渡辺君の笑顔も、昨日より一層やわらかくて、それだけで陽だまりのようだし、浜尾君も本当に清掃員にしておくのはもったいないような、美人っぷりに磨きがかかったねえ。」

「そして何より。このホテルを愛してくれている二人の気持ちがよく伝わったよ。昨日のパーティーと、スイートに泊まってくれて。そんな君達に出会えて、このホテルをオープンさせて、本当によかったとつくづく感じてるよ。」

「あの・・・。オーナー・・・・。それって、おれ達の関係に気がついて、お祝いしてくれてるってこと、ですよね??」
「いいんですか?そんな二人がこのホテルで働かせてもらっても。」

「もちろん。・・・というか。さっきからお願いしてるんだけど?その浴衣、ぐらいしか結婚祝いできなくて申し訳ないんだけど。」

「結婚って・・・・!!!」
「もう。オーナー!!」

もう、オーナーさんってば・・・・。そんな、いきなりケッコンだなんて・・・・。
でも、うれしい。
ケッコンかあ。
ふふふ。
何度も、何度もその言葉をかみ締めながら、オーナーさんにもう一度お礼を言って部屋を後にする。

「ねねね。大ちゃん。聞いた?ケッコン、だってえ!!!」

うれしくて、うれしくて。
浴衣を落とさないように注意しながら、大ちゃんの腕にがっしりと抱きついた。