まおと離れ離れにねって、一週間がすぎようとしている。

帰ってきたときに、電気がついているようにしたり、ごはんが炊けているようにしたり、タバコを吸いたくなったらコーヒーを飲むようにしたり。
まおの写真を飾ったり、まおの残り香のするシーツに包まったり、まおの枕を抱きしめたり。

そんな、あらゆる努力をしても、やっぱり会いたい切なさは募るばかりで。
お休み前のまおとのTELが、唯一のココロの拠り所で。安心できる時間で。
まおの声を聞いて、乾いたココロが癒されて、やっと眠りにつける・・・・・。
まおが側にいる生活が、今までそれだけ幸せだったのかを、実感する毎日で。

片思いの頃・・・・・・。
まおと離れ離れで過ごしていたなんて、信じられないぐらいだ。
ひとたび巡り合ってしまったならば、万有引力の法則のように、お互いの存在は惹かれあう運命にあり、抗いきれない強力な力で、ひきつけあう。

ああ。俺に翼があったならば。
まおのいるところまで、飛んでゆけるのに・・・・。

でも、お互いにしっかりと自分の道を歩んでゆくために。乗り越えなければならない試練。
一生、一緒に歩むためには、乗り越えなくてはならない課題。
まおと、しっかりと手をつないで、この青空の下、ともに生きていることを感じれるように。

ああ。今日はいい天気。
この美しい青空を、まおも見上げているだろうか・・・・??


そんなことを、考えながら家路に着く。

今ままで、長いこと両思いになれたことで、胸いっぱいで。愛を伝えるのに、精一杯で。
お互いの道を尊重しながら、地に足をしっかりつけて、ともに歩んでゆこう。と誓い合ったけれど。
それを、本当に実行してゆくのは、なんと難しいことなのか・・・?

ココロが、壊れそうだ・・・・。まお・・・・。


<大ちゃん。ただいま~~。今日も撮影ハードだったけど、楽しかったよ。いよいよ、クライマックスって感じです。大ちゃんもお仕事、おつかれさま。あいしてるよ。>

いつもの、メール・・・・・。
まおの充実の毎日を伝えてくれ、俺への愛に満ちたメールに、ココロが安らぎを覚える反面、どこか物足りなさを感じる。

なんだろう・・・。この、ココロのざらつき。
まおが側に時には感じなかった、喪失感・・・??違和感・・・??焦り・・・??言葉では表現できない、何か。が確かに、宿り始めていて。

いつものように、風呂に入って、夕食を作って、まおの写真を眺めながら一人で食事を取るけれど、満たされないココロ。


TELの着信音が鳴る・・・・・。
唯一の、ココロのオアシス。

「お待たせ~~。大ちゃん。もう、ごはん食べた??」

明るい、まおの声。

「ああ。もう、済ませた。」
「聞いて聞いて~~!!!いよいよ、明日、クランクアップだよお。もうねえ、初めてのことばっかりで、すっごく楽しかった~~!!新しいはまおさんに、期待。だからねえ。楽しみに、しててね?」

「そうか・・・。よかったな・・・・。」

自分から、後悔のないようにしっかりがんばって来い。と言っていたのに・・・・。
TELの向こうで、ハイテンションで報告会をするまおがなんだか遠くに感じられる。

「ああ。もう、このホテルともお別れだなあ。結構気にいってたのにな。和室。畳のにおいがして。初めは、床にお布団って、慣れなかったんだけどねえ・・・・。」
「まおは、俺の部屋より、畳がいいんだ。」

「・・・・え??」

ああ。そんなことを言いたいんじゃないのに。

「まおの愛したこの俺の部屋より、今は畳のほうが落ちつくんだ。」
「・・・・だいちゃ・・・。そんなこと、誰も言ってな・・・・・。」

「俺は、まおの愛したこの部屋で、こんなにも帰りを待ちわびているのに・・・・。」
「・・・・・ひどいよ・・・・・・。おれが、さみしくないとでも・・・・・・・。」

声が、震えている。最後まで伝えられすに途切れたコトバ。

「おれだって・・・。その部屋で・・・・・・。ぐすっ・・・・・。」

-----------------あ。

そうだったんだ。俺が、留守にするたびに、まおはこの部屋でじっと待っていてくれて。
俺に心配をかけまいと、いつも明るく振舞ってくれて。
わがままを言わないまおが、あまりにもいじらしくて・・・・。不安になったことが何度もあった。

そう。まおの強さ。
愛されている自信と、俺の荷物にならないように、自分の足でしっかりと立とうとする意思の強さ。
まおだって、必死に自分の仕事をする上での責任と、さみしさとのハザマで、戦っているに。

「まお・・・。ごめん・・・・。傷つけた・・・・・。お前も、この部屋で、こんな思いで、いつも待ってくれていたんだよな・・・・。本当に、ごめん・・・・・。」
「うん・・・・。本当は、いつもさみしかったよ?会いたかったよ??でも、大ちゃんが大空を羽ばたくために必要なことだったから・・・・・。その姿を、みたかったから・・・・。愛していればこそ、耐えれたんだよ??」

「ああ。そうだよな・・・。本当に。だから、まおは強くなったんだ・・・・。」

愛する人が、大空を飛べることを願って、地上でしっかりと見詰めながら待つ日々。
心から、愛してくれて、いつでも帰ってこれるように腕を広げて待っていてくれた。

そう。まおは親鳥を待つひなではなくて。
いつの間にか、あたたかい俺が帰るべき居場所を作ってくれるようになっていたんだ・・・。

そして、今度はまおが飛び立つ番。
一緒に、このどこまでも続く青空を渡り鳥のような逞しさで飛んでゆけるように。

今まで、一人で飛び立っても、地上でまおが必ず待ってくれている安心感があったけれど。
これからは、共に羽ばたく安心感に変えてゆけるように・・・・・。


「なあ。まお。早く帰って来いよ・・・・・。」
「・・・うん・・・。あと、もうちょっと・・・・。」

「いつも、待っててくれて、ありがとうな。」
「・・・ううん。大ちゃんこそ・・・・・。」

「今回、こんなに長いこと置いてきぼりくらって、まおの気持ちがよくわかったよ。」
「・・・・・さみしかった??」

「そりゃあ。もう。ココロがカラカラに乾いて・・・・・・。まお、よく耐えてたなあ・・・・・。」
「だって、大好きな大ちゃんの、大好きなお仕事のためだもん・・・・。大ちゃんの夢、一緒に追いかけてゆきたいもん・・・。」

「そっか・・・・。いつだって、まおはそうやって・・・。俺のこと、愛してくれてるんだよなあ。」
「・・・・うん。うん・・・。もう、大ちゃんのいない毎日なんて考えられないから・・・・・。」

微かに震える声。
そうなんだ・・・・・。お互い、なくてはならない存在で。
持っている思いは一緒なのに・・・・。

ひな鳥だったまおが、俺の腕の中から大空に羽ばたいてゆくのが不安で・・・・。
こんなココロのざらつきを感じていたんだ・・・・・・。

まおは、もうとっくに、大空に羽ばたく俺のことを見守っていてくれてたのに。

「・・・・まお??改めて。俺と一緒にこの澄んだ青空を、どこまでも、どこまでも、一緒に飛んでゆこうな・・・・??」
「うん・・・・。うん・・・・。大ちゃんが飛んでゆくところなら・・・・。どこまでも、ついてゆくから・・・・。」

何度も交わしたプロポーズと、誓い。
何度でも、何度でも、お互いの存在を確かめるために、愛を誓いあおう。

「渡辺大輔は、浜尾京介を、愛しています・・・・・。」
「・・・・浜尾京介は、渡辺大輔を、愛しています・・・・・。」

「永遠に。」
「うん。永遠に。」

ココロのざわつきが、嘘のようにひたひたと満たされて。
心からの愛をこめたキスを電話口に送った・・・・・・。