もぞもぞ。ごそごそ。

ただいま、夜中の1時過ぎ。

いつもなら、12時ぐらいに二人でベッドに入ったら、俺の肩に頭をのせて、しばらくするとすやすやと寝息をたてているまお。
熟睡すると、脇の下にもぐりこんで、まあるくなったり、俺の身体に足を絡ませたり。

でも、今日はなんだか落ち着かない。

俺の腕枕の端から端まで、もぞもぞ、ゴソゴソ移動している。
目は、閉じているんだけど・・・・・・。

「・・・・まお??眠れないのか??」

そう、問いかけると、やや疲れた表情で、

「うん・・・・・。」

と答えるまお。

「暑いのかなあ??湿気かなあ・・・??なんか、寝なくちゃって思えば思うほど、目が冴えちゃって。」
「・・・水でも、飲む??」
「うん。ありがとう。」

ベッドの上で、起き上がったまおは、なんだか寝る前よりも疲れた表情で、目の下にはうっすらとクマのようなものができている。
ああ。せっかくの美人さんが台無しだ。

「ほら。」
「ん。ありがと。」

冷蔵庫から、冷たいミネラルウオーターを汲んできて、まおに渡す。

「・・・・ああ。なんだかちょっとさっぱりした。」
「・・・眠れそう??」
「・・・・いや。それは無理、かな??むしろ、だるかったのが、すっきり目が覚めちゃった感じ??」

「そっか・・・・・。」

二人でベッドに座って、しばらくボーっとする。

クーラーの設定温度を、上げたり下げたりしながら・・・・。
確かに。クーラーは効いているんだけれど、なんだか暑い??のか、効きすぎて寒い??のか、よくわからなくなってくる。

「なあ。まお。明日は仕事昼からだし、いっそのこと出かけちゃう??」
「出かけるって・・・・こんな時間にどこへ??」

「・・・・・・・映画館。{ただいま、浴衣着用でご来館の方、無料でお入りいただけます。}」

昼間、たまたま道で配っていたチラシをまおに見せる。

「んん~~。この時間だと、2時からの回なら、間に合うんじゃない?オールナイトの映画、学生時代ぶりだし。」
「へえ。おれ、行ったことない・・・・・。」
「じゃあ、社会経験も兼ねて、行ってみよう!!」

でも、寝巻きにしていたこの浴衣では・・・・。ちょっと、くたくたになってしまっているので。
花火大会の時に買っていた、紺と、グレーの浴衣に着替えて。

「はい。うちわ。」
「映画館に、うちわ、いる??」
「そこに行くまでが暑いだろ・・・・・・。まあ、それと夏の雰囲気ってやつだよ。」

まおにうちわを手渡して。
カラン。コロンと下駄の音をさせながら家をでた。



-----------映画館に着くと。

平日の、夜中、だけあって、ロビーは閑散としていて、誰一人いない。
この時間から一番手近に上演されるのは・・・・・・。

「まお。2時からだったら、コレ、だな。」
「ええっ。おれ、こわいの苦手・・・・。」

指差した先には、いかにも、と言った感じのホラー映画。

「いいじゃん。俺がいるし。まお、幽霊とか信じるんだ。」
「信じるというか・・・・・。だって、こわいでしょ??フツー。」

「ふふっ。男も三十路にもなると、幽霊も怖くなくなるんだな。これが。」
「・・・そういうもんなの?」
「・・・・うん。そういんもん。」
「そっかあ・・・。じゃあ、あと8年は、おれ怖いままなのかなあ??」

そのままでいいのだ。まおは。
8年後も、「幽霊怖いよお。大ちゃんたすけてえ。」とか、言っていてほしい。

なんてやりとりをしているうちに、もう2時10分前。

「他のやつ、4時までないし。これでいいよな?まお。ちょうど、涼むには最適だよ。」

と、引換券だけ交換して、映画館に入る。

やっぱり、といえばやっぱり、だけれど貸切状態で。

話題作でも、オールナイトの映画で、平日の夜、となれば5人もお客がいれば多いほう。

今は、ネットで映画が見れる時代だから、きっとますますお客も少ないんだろうなあ。
こんなんで、採算とれるのかな??なんて、職業柄、余計なお世話な心配をしてしまいながら、真ん中の一番う後ろに座る。
どこでも座り放題、といわれると、却って真ん中って座りにくい。
途中で、万が一新しい客が入ってきても落ち着かないし・・・・・。

映画が始まると。

まあ。ごくごく普通の心霊スポットに学生がグループで遊びで出かけたら一人づつ消えてゆく・・・・。
という、王道中の王道なストーリー展開。

それでもまおは、怖いくせに画面を食い入るように見詰めていて・・・・・。
効果音が発せられるたび、繋ぎあった手を、ぎゅううって握り締めてくる。
掌には、じんわりと汗をかいていて。

・・・そんな、手に汗握るほど、怖いかなあ??
ほらほら。最後に一人、取り残されて・・・・・・。今まで消えた友達が、スプラッタ的な映像で登場ってやつだよ。多分・・・・・。なんて、勝手に心の中で予想して、解説している俺。

何度目かの効果音とともに・・・・・。
やっぱり現われるスプラッタ映像の友達。

「いやああ!!!こわいこわい~~~~!!!」

今まで、息を詰めて見ていたまおが、たまらずに叫び、俺の腕にひしっとつかまってくる。

「あははっ。こわいよなあ。まお。」
なんて、全然怖くないけれど、同意してやりながら、心の中でほくそ笑む。
・・・・・うん。役得。役得。

「大ちゃん・・・。このシーン終わったら、教えて??」

俺の腕に、顔ごとうずめて、目の端にちょっぴり涙を浮かばせながら、画面から顔を隠しているまお。
かわいいなあ。
・・・・あ。うなじも色っぽい。

うつむき加減で顔を伏せているせいで、浴衣からのぞく白くて細い首筋が強調されていて。
やっぱり、まおが浴衣が似合うのは、この華奢ですうっと長い首と、細めの肩のラインのせいだな。とか思いながら、その肩を抱き寄せる。

「目、つぶってていいよ?終わったら、教えてやるから。」

なんて言いながら、視線はまおの首筋から肩のラインに釘付けで。
映画のほうは、なんとなく耳でストーリーだけ追って・・・・・。

やっぱりな感じで、友達を次々にさらって行った幽霊もどき?みたいなのがでてきて、最後に残った主人公も、消えちゃった・・・ってオチ。

「まお。ま~お。終わったよ??」

耳までふさいで、俺の腕の中で目をつぶっていたまおの腕を外して、教えてやる。

「・・・・終わった??・・・どうなったの??」
「気になるなら、見ればいいのに。」
「だって、こわいんだもん。」
「友達をさらっていった幽霊さんが出てきて、主人公もさらわれて・・・終わり。」
「・・・ええっ!?それで終わり??ハッピーエンドじゃ、ないの??」
「だって、ホラーだもん。そんなもんでしょ!?」

「ええ~~。」
なんてまだぶつぶつ言っているまお。

「さあ。なんだかんだで結構涼んだことだし。帰ろっか。」

一時間程度の、短い映画。ただいま夜中の3時。
今から帰って、着替えてベッドに入って・・・・・。まあ。4時前には十分寝れるか。


家に帰って、ベッドに入る。
「大ちゃん・・・・。夜中、トイレ行きたくなったら起こすからね。大ちゃんが、あれ見ようって言ったんだからね。」
「あははっ。いいよ。別に。」

「寝てる間中、離れたら、嫌だからね。」
「うん。ずっとまおのこと抱きしめてるよ??」

「大ちゃんがトイレに行く時は、ちゃんと起こしてね。」
「・・・・それはちょっとどうかな・・・・・。」
「やくそく、だからね!!!」
「・・・・はいはい。」

強い口調で押し切られ、指きりげんまんまでさせられて。
まおってこんなに怖がりだったんだ・・・・。と改めて発見。
今まで遊園地とか行っても、あえてオトナ二人でお化け屋敷もなあ。と思って入らなかったけれど。

こんなまおを見るのも面白いかもしれない。

----------よし。今度遊園地デートがあれば、お化け屋敷だな。


その日の夜は、俺が寝返りをうとうとすると、苦しいぐらいにまおにぎゅうううっと抱きつかれて。
寝ているはずなのに、起きてるのか??と疑いたくなるような無意識のアンテナっぷりで。

ぎゅうううっと、抱きしめ返してやると、ほっとしたように力を抜いて、すやすやと寝息をたて始めるまお。


俺の天使ちゃんは、やっぱり下界のどろどろしたのは、苦手、なんだなあ・・・。
なんて、その綺麗な顔立ちをした頬に、ちゅっとキスをした。