<LOVE RING>


「まおっ!!今度の日曜日、花火見にいかない??」
「・・・・っえ!?いいのお?行く行くっ!!」

去年は、おれの舞台が忙しくて、まだ仕事のペースがつかみきれていないこともあって、夜にプライベートでお出かけ、ってのが少なかった。

今年は、お互いに余裕が出てきて、忙しい中でも、時間が作れるようになった感じがする。


「じゃあ。浴衣着て、行こう。」
「うん。そうだねえ。この前、撮影で使ったやつみたいな??」

「まおに似合いそうなの、探してくる。」
「え~~。一緒に、行こうよ。おれも、大ちゃんに似合いそうなの、選びたい。」

「・・・じゃあ、今日は、浴衣選び、だな?」
「・・・うんっ!!お仕事終わったら、ソッコー帰ってくるからね!!」

朝の食卓を囲みながら、そんな今後の予定の会話。
ふふっ。なんか夫婦みたい、だねえ。


今は、本当に便利な時代。
浴衣も、帯びや下駄まで全部セットになっていて、値段も一万円ぐらいから、とお手頃で。

お仕事が終わってから、大ちゃんと合流でして、浴衣を選びに行く。

「まおは~~。やっぱり、天使の白??・・・・ああ。でも、このまえ白買ったしなあ。今回は、ちょっとオトナっぽく、紺とか??」
「ダイチャンは・・・・。やっぱり大人の色気って感じだよねえ・・・・。この前紺だったから・・・・・。あ!!この深いグレーとかは??渋くて、カッコよさそう!!」

なんて、お互いに見立てあいながら。

結局、今回はお互い落ち着いた感じの、紺とグレーにした。



------------花火大会当日。

「まお~~。いくよ~~。」
「あ。ちょっと待って。下駄が・・・・いたた・・・・。」

久しぶりに履く下駄が、なんだか合わない。足のサイズ変わったかあ??
・・・・な、分けないか。もう、成長しないよなあ・・・・・・。

「・・まお?大丈夫??」
「・・・・うん!!大丈夫。なんか、きついのかな?って思ったけど。」

せっかくの、浴衣で花火大会。大ちゃんとのデートなのだ。今更、洋服に着替えて・・・。なんて、悲しすぎる。

「じゃあ、行こうか。」
「うん。」

大ちゃんの、広い背中。ちらりと覗く首筋。浴衣の袖から覗くがっしりした腕・・・・・・。
ああ。やっぱり大ちゃんの浴衣姿、何回見ても、惚れ直すなあ・・・・・・。

「ほら。まお?ぼーーっとしてないで。」
「あははっ。ごめん。大ちゃんに、見とれてた。」

「また、そういうことを言う~~。」
「だって、本当だから。」

なんて、相変わらずな会話を交わして。

カラン。コロン。とげたの音を響かせながら、駅に向かう。
今日は、この季節とだだけあって、浴衣姿の人とすれ違うことが多い。
みんな、浴衣を着ると、なんだかうきうきした雰囲気で。いつもの、忙しく行き交う人、というイメージとは少し違う。
やっぱり、夏、っていいなあ・・・・・・。

電車の中も、花火に向かう人で混雑していて。
大ちゃんが、俺が押し潰されないように、さりげなくガードしてくれている。
背中に、大ちゃんのぬくもり。
・・・あはっ。幸せモノだなあ・・・。


会場に着くと、もう始まっていて。
「ああっ!!始まっちゃってる。ごめん。おれがモタモタしてたから・・・・。」
「まだ、始まったばっかりだから、大丈夫だよ。」

人混みを掻き分け、空いているところをさがす。

つい花火のほうを見ていると、大ちゃんを見失いそうで、大ちゃんの袖をぎゅっとつかんだ。

「・・・・ふふ。いいよ。まお。花火見ながらでも。」

そんなおれに気がついて、しっかりと手をつないでくれる。
一瞬、え?と思ったけれど。

「こんなに人ごみの中、はぐれたら大変だろ??みんな、花火見てるから、気がつかないよ。」
「うん・・。それもそうだね。」

改めて回りを見回してみると。
みんな上を向いているか、空いているスペースを探して、遠くをみているか。
そんな、他人の手元なんていちいち見ている人なんて、いない。

大ちゃんの手に引かれて、土手のほうまで降りる。
空いているスペースに、二人並んで腰をかけ、空を見上げる。

空には、琴の音色と一緒に、流れるような花火が次々に打ちあがっていて・・・・・。
大輪の華!!のような花火が連続してあがるのも、迫力があっていいけれど、こんなのも、しっとりしていていいなあ・・・・。

あ。ハート・・・・・。
赤いハートが、次々に空に描かれて。
ハートとハートが重なり合って、LOVE LINGを作る。

なんだか、胸がきゅうんとして、大ちゃんと触れ合いたくなった。

そんなおれの心を見透かしたように、
-------------そっと、握られる手。

思わず、大ちゃんのほうを見たけれど、大ちゃんは空を見上げたままで。

--------うん。誰も気がついてないよね。

と、おれもふたたび空を見上げる。

変に意識するから、いけないんだ。白昼堂々、手をつないだりキスをしたり、はどうかと思うけれど、愛し合っている恋人どうし、自然な気持ち、だもんね。

---------わかった。
の意味を込めて、ぎゅっとその手を握り返した。


花火が終わって、人混みがぞろぞろと移動しだす。

「ちょっと空くまで、待ってようか・・・・・。」
「うん。そうだね。」

二人で、花火が終わってしまった真っ暗な空を眺める。煙のもやだけが、風にながされてゆく。
華やかなほど、そのあとのさみしさもひとしおで。

「また、来年、だね・・・・。」
「ああ。また来年、まおと来る。」

寂しさをまぎらわすように、握り合った手に、ぎゅっと力を混めた。
花火は終わっちゃったけれど、また毎日、大ちゃんとの思い出は重なってゆくから。

ある程度、人がまばらになったところで、大ちゃんが腰をあげる。

「まお。立てる?」
「うん。大丈夫。」

大ちゃんが、手を差し伸べてくれる。
その手に引き上げれれ、立ち上がるけど・・・・・。足が、痛い。

「いたた・・・・。」
「・・・まお、足、痛いの??」
「・・・・ううん。平気。平気。」

さっきまでは、人混みにはぐれてしまわないかと必死で、あんまり気にならなかったけど、こうやって落ち着いてみると、結構・・・痛い。それでも、大ちゃんに心配かけないように、平気なフリを装って。



大ちゃんのマンションのある駅までついた頃には、結構限界だった。

「・・・ほら。まおちゃん。おんぶ。」
「・・・・・ええっ!!いいよお。そんなの。恥ずかしい・・・・・・。」

「ここなら、そんなに人もいないし。足、捻挫したことにでもしとけばいいよ。」
「ええ~~。でも~~。」

「・・・ほら。足、限界だろ?明日、辛くなるぞ?」
「・・・あ。うん・・・・・・。」

そうだ。こんなことで、仕事に支障がでたらいけない。

「じゃあ。お言葉に甘えて・・・・・。」
「うん。どうぞ。」

大ちゃんの広い背中に、抱きついて、胸の前で腕を交差する。
大ちゃんの髪の毛が鼻先にかかって、なんだか、ドキドキする。
このドキドキ、背中を通して伝わってるかな・・・・・??


下駄のカラン。コロン。と言う音と、おれの心臓のドキドキ言う音。


夏の思い出の1ページが、また新たに積み重ねられた-------------。