----------次の日。
いつものように海の家にバイトに行く。

気がつけば、ビーチを浜尾の・・・まおの姿をさがして、視線をさまよわせていた。

----------かっこわるいなあ。俺。
もっと、自信をもって、待っていられたらいいのに。
サーフィンをせずに、ふらりと夕方になるとこの海の家に立ち寄る日もあっただろ??
きっと、夕方になったら、また何事もなかったように、「ワタナベサン。おつかれさまです。」って、あのやわらかい笑顔で。澄んだ瞳で。
きっと会いに来てくれるはず・・・・・・・。

その日のバイトはうわの空で。
いつもまおが頼むコーラを気がつけば入れてしまっていて・・・・・・。
とてつもなく、長い一日に感じられた・・・・・・。


夕方になり、店じまいの時間になってもまおは現われず
ひとり、オープンテラスの片づけをする・・・・・。

いつもならば、ここにまおがいて。
「手伝いますよ。」と他愛のない会話をして、笑っているのに・・・・・・。


「やっぱり、言わなきゃよかったのかなあ・・・・・・・。」


あの時は、なんだかすらすらと言葉が出てきてしまって・・・・・。
つい、素直に伝えすぎてしまったのかもしれない。
このまま、まおが消えてしまったら、どうしよう・・・・・・。

あの、妖精のようなはかなくも美しい笑顔のように。


---------次の日も、次の日も、まおは来なかった。

まおと出逢うまでは、一体どうやって毎日を過ごしていたのか、思い出せないぐらいに、まおのいない日々は無味閑散としていて・・・・。
しずみゆく夕日が、美しいのではなく、こんなに胸を締め付けるものだとは、知らなかった。

今日も、一人、沈み行く夕日の中、オープンテラスをかたづける。
一抹の期待と、絶望的な諦めのため息を漏らしながら・・・・・・。


----------ふと、足元に、誰かの影が落ちる。
・・・・・・人の気配を感じて後ろを振り返ると、そこには夕日を背にまおが立っていた・・・・・・。


「ごめんなさい。遅くなって・・・・・。」

「ま・お・・・・・・?」

「・・・うん。」

「もう、きてくれないかと、おもった・・・・・・。」

「ごめんなさい。ずっと考えてたから・・・・・。」

「うん。・・・・ありがとう。きてくれて・・・・・。こまらせて、ごめん、な??」

「ううん。うれしかった・・・・。と、おもう。」

「しんけんに、おれの思い、うけとってくれたんだ・・・・。」

「うん・・・・。」

ポツリ、ポツリと一定の距離をあけたまま会話するふたり。
この距離を詰める勇気が、お互いになくて。一歩が踏み出せなくて。返事を聞くのが、怖くて・・・・・・。


「・・・・まお?」

「・・・・うん?」

「・・・・お前の隣にいても、いい・・・・??」

「・・・・うんっ・・・・。」

大きな黒く輝く瞳から、大粒の涙がこぼれる。

「僕も・・・・・。ワタナベさんと一緒にいたい・・・・。」

「・・・・・まおっ・・・・。」

たまらず、引き寄せて、抱きしめる。
ああ。まおの、さらさらの髪の毛。太陽の匂い。この腕の中にまおがいる・・・・・・。

「ごめんなさい。ながいこと、悩んでしまって・・・・。僕。告白されたことなかったし・・・・・。ワタナベサンの言う、好き、を理解するのに、時間がかかっちゃって・・・・。」

そっと、背中に回される、まおの遠慮がちな腕。

まおが、三日間悩んで出してくれたこたえ。
一緒に、ゆめを追いかけてゆきたいと、思ってくれた。

「まお・・・・。すきだよ・・・・?」

太陽のにおいのする髪の毛に鼻をうずめて、やさしく撫でて、その髪の感触を楽しむ。

「うん・・・。僕も・・・・。」

まだ潤んでいる澄んだ大きな瞳をみつめながら、そっとキスをする。
じっと、みつめられたまま。
まおのほうが、ファースト・キスのはずなのに、その瞳に見詰められて、ドキドキしてしまう。
思わず、照れ隠しに。

「・・・・まお。こういうときは、目を閉じるもんだろ?」
「・・・・あ。ごめんなさい・・・・・。」

なんて、言ってしまった。

「なんで、あやまるかなあ?ほんと、かわいいなあ。まおは。」

もう一度、この腕にまおをしっかりと抱きしめ、

「受験、がんばってな・・・・。」
「うん・・・・。」

「まってるからな・・・・。」
「うん・・・・・。」

それから、受験勉強で忙しくて、なかなか会うことはできなかったけれど、時々電話で話をして。
見事、高校受かったよ。の報告を受けて。



テニミュの、キャスト顔合わせの時。

「菊丸役の、浜尾京介さんです。」

そう、紹介されて・・・・・・。

「えへへ。きちゃった・・・・・・。」

そう、照れたように笑う、まお・・・・・・・。

「びっくりさせようと思って、ナイショにしてた。」

もう、本当に、お前ってやつは・・・・・・・。

「これで、本当に、隣に並べるね??」

もう、胸がいっぱいで、何も返事ができなかった・・・・・・・。


--------------------そんな、夏の思い出の一枚。