それからそれから毎日。
お店が閉まるころ、彼はやってきて、お互いの夢について語り合うようになっていた。

浜尾京介。中学3年年生。夢は、俳優になること。
親とも、毎日話し合っているようで、俺にその進展を話してくれる。

「・・・・でね。このまま俳優になっちゃったら、中卒になっちゃうから、高校だけは行きなさいって・・・・。
その上で、僕の決意が変わらなかったら、夢、追いかけてもいいって。」
「・・・そっか。よかったなあ。・・・・俺も、がんばらなきゃ。」

「そういえば、ワタナベサンの夢ってなんですか??ごめんなさい。僕、自分の話ばっかりして・・・・・・。」
「・・・・・そんなこと。俺が、聞きたかったんだから。それに、人見知りの浜尾が、こんな俺に話してくれて、うれしかった。」

「・・・・ゆめ、はお前と同じ、俳優だよ。
たまたまモデルをしたことあって・・・・。そうやって、自分を表現できて。自分の歴史を残していけるっていいなあって思ったから・・・・・。」

「・・・そう、だったんですか。」
「だから、お前のこと、余計に放っておけなくて・・・・。」

「ワタナベさんにたいに、カッコよくて、スマートで、やさしいヒトなら、絶対に大丈夫ですよ!!
僕、ファン一号になりますね!!」
「あははっ。まだ、デビューもしてないのに??」

ずいっと身体を乗り出して、俺の両手を握ってくる浜尾。

「絶対に、絶対に覚えていてくださいね!!デビューしたら、会いに行きますから。」
「ふふっ・・・。お前も、な?」

かわいい、浜尾。こんなにヒトを疑うことを知らない純粋無垢な瞳で俺のことを真っ直ぐにみつめてくる。
そっか・・・・。ファン、一号か・・・・・。
うん。浜尾のためにもがんばらなきゃ、な・・・・・・。
こんなにも、俺を慕って、信じて、背中を追いかけてくれる子がいるんだから・・・・・。


夏休みは、そうやって毎日がどんどんと過ぎていった・・・・・・。
浜尾の瞳が脳裏から離れなくて。その瞳をみつけると、言いようのない安心感と同時に、胸が締め付けられるような切なさ、を感じるようになって・・・・。
どんどんと夏が過ぎてゆくのに、焦り、を感じ始めていた。

俺が、この海の家のバイトが終わってしまったら・・・・・。一体、二人の関係はどうなるんだろう・・・・??


「あ。浜尾。今日はもう、帰るの??」
「うん。そろそろ受験勉強もしなきゃいけないし。親とも、約束したし。」

「そっか・・・・・。がんばれよ。」

----------明日も、来るのか??

いつもは、別れ際にいつも聞くそのセリフが、なんだか今日はいいだせない。
浜尾は・・・・。俺に出会ったころよりも、随分と大人びて、迷いのない瞳をしていた。
もう、俺のことなんて、必要としていないのかもしれない。
自分の足で、しっかりと夢をみつめて、歩き出している・・・・・・・・。

----------明日も、来るのか?と聞いて、どうなるのか?

いつかは、終わりがきてしまうのに。
受験勉強をするから、サーフィンはやめる、と言われてしまえば、もう、この海の家で会うことすら、叶わない・・・・・・・。
この、言い知れぬさみしさ。会えないかも、と思った途端に襲ってくる孤独感はなんだろう??

「うん。ありがと。・・・・がんばります・・・・。」

そう、まっすぐに俺を見詰めてくる、黒曜石のような澄んだ瞳。
夕日に照らされて、赤い光に包まれている、浜尾・・・・・・。

気がつけば、彼の身体を抱きしめていた・・・・・・・。

「・・・・どうしたんですか??ワタナベサン・・・・・・。」

戸惑いながらも、そのまま抱きしめられてくれている彼。
太陽の匂いがする・・・・・。
初めて抱きしめた彼の身体は、まだ少し華奢な印象で・・・・。さらさらのストレートの髪の毛が、やわらかに俺の鼻をくすぐって。
ドキドキするような、安心するような、不思議な気持ちにとらわれて・・・・・・。


「なあ?・・・浜尾。隣にいるの、俺じゃダメかな・・・・・??夏休みが終わっても、お前とこうやっていつまでも一緒にいたいよ・・・・・。」

自分の心の声を、素直にそう告げる。
なぜだか、わからないけれど、目から涙があふれてくる・・・・・。

ああ。きっと俺は彼に恋をしてしまったんだ・・・・。
まだ、あどけなさの残るこの少年に。
このまま、浜尾との出会いをなかったことになんて、できない・・・・・。
もう、一年以上も、片思い、だったんだな・・・・・。

相手が、子供だから。とか。
男同士だから。とか。
そんな言い分けを自分にして、自分の気持ちに気がついてやれなかったんだ・・・・・。


「俺は、浜尾・・・。まお・・・・。お前が、好き・だ・・・・・。」


--------長い、長い沈黙。


ただ、じっと身じろぎもせず、腕の中にいる彼・・・・・・。


「考えさせて、ください・・・・・・。」


そっと、覗き込んだ彼の瞳は、やっと素直になれた俺を映し出し、戸惑いに揺らめいて潤んでいた。