俺が働く海の家は、波が高くサーフィン仲間の間では、まあまあ有名なところらしく、昼間はお客でごったがえしているが、夕方になると、潮が引くように、急に静かになる。
オープンテラスが、ビーチに面していて、水着のまま軽食や飲み物を楽しめるようになっており、奥にロッカールームとシャワーブースがある。
大学に入ってから、友人の紹介で夏休みの間は、毎日ここでバイトをしている。
今は、親から授業料も、仕送りもしてもらっているけれど、俳優業で生きていくならば、少しでも貯金が必要だろうから・・・・・。

そんな、気持ちで始めたバイトだったが、去年のあの少年に出会ってしまってから。
ありえないとわかっているのに、気がつけばビーチをにさがあの少年の姿を捜してしまっている自分がいた。


そんな毎日を過ごしていた時。
「すみません。コーラください。」
「はい。コーラです・・・・・ね・・・・・・・・。」

一年前と同じようにふらりとやってきた少年。
一年分、少し大人びたように感じるけれど、この黒曜石のような印象的な瞳。間違いない。彼だ。

「来てくれた・・・・んだね。」
「・・・え??」

「一年前。携帯ストラップが絡まって、はさみ借りに来た・・・・・・・。」
「あっ!!あの時のお兄さんなんですね。あの時は、ありがとうございました。」

向日葵のように、輝く笑顔・・・・だな。

「ここにはよく来るの?」
「えっと。去年はたまたま友人と通りかかって、砂浜で寝てたらケータイ絡まっちゃって。
今年から、サーフィン始めたんです。・・・・て言っても、本当に始めたばかりの初心者ですけど・・・・。」

なんて、はみかみながら、視線を落とす。
そのあどけない仕草と表情が、なんとも可愛くて庇護浴を駆り立てる。


「渡辺君~~!!あっちもオーダー取って!!」
「あ。はい。ただ今~~。」

オーナーから声を掛けられ、会話が中断される。

「そうなんだ?・・・そしたら、またくる?」
「・・・・たぶん。夏休みの間はずっと・・・・。」

その言葉に安心して。
次のお客さんのところへと向かった・・・・・・・・。


まだ、名前も、年齢も知らない少年。
ただ、訳もわからず印象に残り、一年間気になっていたことだけは確かで。
偶然にも再会できたことに、なんだか運命?のようなものを感じていた------------。