健康的な小麦色に焼けた肌と、意思の強そうなきらめく瞳と、少年のあどけなさを残した肉付きの薄い背中が・・・・・・・・印象的で。
--------------ずっと、忘れられなかった。
幻のような、去年の夏の思い出。


「大輔~~!?帰り、メシ、食ってかない??」
「わりい。俺、バイト。」
「ふう~~ん。なんのバイト始めたの?」
「去年と一緒の、海の家。」

「そっか・・・・。じゃあ、また今度。」
「ああ。またな・・・・・。」


大学4回生の夏休み。
俳優業にすすもうかと考え始めていた俺は、みんなが就職活動に明け暮れている中、ひとり違う時間の流れの中を過ごしていた。
自分の・・・・。将来。
俳優業で、食っていけるのか??と言われれば、不安も正直いっぱいある。
でも今は。どうなるかわからないけれど、自分を表現できるこの仕事をしてみたい。という想いが日に日に強くなってきていた。

----------それと同時に。
夏の気配を感じ始めると、思いだす、去年の夏。


同じように、海の家でバイトをしていた俺。

「すみませ~~ん。はさみ、貸してもらえませんか??」

夕方、店もそろそろ閉店かというころ、ふらりとやってきた一人の少年。
どこをどうしたら、そうなってしまったのかわからないが、髪の毛に絡まった、携帯ストラップのアクセサリー。

「もう。こんぐらがちゃって・・・・。すみません。髪の毛、切ってもらえますか?」
「えっ・・・・?ストラップじゃなくて?」
「これ、お気に入りだから。」

自分の髪の毛をひっぱりながら、「ね?」と俺を真っ直ぐに見つめてくる瞳。
夕日の逆光に照らされて、顔がはっきり見えなかったけれど。
髪の毛を切るときに触れた滑らかな頬の感触と、切られている間、じっと俺の手元をみていた黒曜石を彷彿とさせる黒目がちな瞳と、テーブルに置かれた細い指先が・・・・・・。
なんだかわからないけれど、心をざわざわとさせて-------------。

「はい。できたよ?」
髪の毛を切るたった数分の出来事が、時間が止まったように、長く長く感じられた。

「ありがとうございます。」

丁寧にお礼を言って、ぺこりと頭を下げた少年の背中を見えなくなるまでずっと見つめていた。

まるで、一枚の絵葉書のようなシーンだと思いながら・・・・・。