次の日。

「今日から、清掃員として、働かせていただくことになった、浜尾京介です。」

改めて、みんなにあいさつする。

一人、一人、厨房のコックさん。フロアスタッフの方々。自己紹介をしてくれる。

「コンシェルジュの渡辺大輔です。お客様の、要望にキメ細やかに対応するため、全力でがんばります。」

あ・・・・。昨日の・・・・・・。

「さあ。これでスタッフはそろったかな・・・・・。
浜尾君には、お客様が帰ったあとの部屋の掃除と、ベッドメイキングをたのもうかな。」

「あっ・・・・。は、はいっ・・・・・。」

----------いけない。つい、見とれてしまっていた。

昨日出会った渡辺さんは、ピシッとスーツを着こなしていて、大人の雰囲気で、かっこいい。
しゃべり方も、堂々としていて、自信に満ち溢れていて・・・・。
ああ。あんなオトナになりたいなあ・・・・・・。


まだ、準備段階でオープンしていないこのホテルは、今は、清掃員、といっても、通常の床掃除ぐらい。
あとは、ホテルの構造を覚えたり、他のスタッフとの交流をはかって・・・。との、オーナーからの、指示。
たくさんのお客さんを相手にするよりも、一人一人の顔が見える、キメ細やかなサービスを目指して、
この規模にしたんだそうだ。


たくさんのリネンをかかえて、階段を降りる。
2階建てのこの建物は、エレベーターが、ない。

「・・・・うわっとととっ!!」

前が見えずに、足を滑らしそうになったところに・・・・・・・。
がしっと、腕をつかまれる。

「渡辺さん・・・・・・。」
「大丈夫か?足、ひねらなかった??」

「だ、だいじょうぶ・・・です・・・・。」

心配そうに、覗き込まれ、なぜだかドキドキする。
床に、ちらばってしまったリネンを拾い上げて、半分渡してくれる。

「・・・・ほら。半分こ。」

ふわり、と微笑まれる僕を見る目に、更にドキドキが早くなる。
やさしい、ヒトなんだな・・・・・。

「なあ・・・・。浜尾君は、どうして、ここに?」

「あ・・・・。まお、でいいです。みんな、そう呼んでいるので。」
「じゃ、おれは、プライベートでは、大ちゃん、な?」

「はい・・・・。えっと、ホテルのサービス業に憧れてて。でも、どこも就職先なくって。
たまたま、張り紙でココを知ったんです。そしたら、すっごい素敵な場所で、どんな仕事でもいいから、働かせてください!!ってオーナーに無理言って・・・・・・。」

「ふうん。そうなんだ。でも、どんな仕事も、お客様のサービスにつながっているから。
フロアスタッフだけが、全てじゃないしね。・・・・・がんばって!!」

一階に着き、部屋のベッドメイキングをしようとすると、当然のように手伝ってくれる渡辺さん。

「・・えっ。いいですよお。服、ほこりまみれになっちゃう・・・・・。」

「俺、今はまだ暇だから。まあ、強いて言うなら、みんなの絆作り、が仕事??」

にこっと、微笑まれ、手際よく、シーツを広げていく。

「ほらほら。まお、そっちもって!!」

「・・・えっ?あ、はいっ・・・・・。」

渡辺さんと一緒に、シーツをピーンと張り、ベッドに折込んでいく。
ああ・・・・。このシーツにダイブしたら、気持ちよさそう・・・・・。

「ほらっ。まお、次、行くぞっ!!」

「・・・・はいっ!!」

ふふ。なんだか、楽しい。
渡辺さんの背中が、すごく頼もしく思えて・・・・・・・。

いつまでも、シーツ交換やっていたい気分になった。

「さあ!!一階終了!!お疲れさん。今日は、これで終わり・・・・??」

「・・・だと、思います。終わったら帰っていいよって言われてたので・・・。」

「そっか。じゃあ、おつかれさん。」

・・・・・えっ・・・・。もう、終わっちゃうの・・・・・??
そうか。そうだよね・・・・。おしごと、だもんね・・・・・・。

なんだか、このままさよならしたくなくて。
「ことあとごはんでも。」って言いたかったけれど、まだ知り合ったばかりで、そんな勇気がでなかった。

この、さみしさは、なんだろう・・・・・??

ひとり、バスに揺られ、電車に揺られる帰り道。

昨日は、あんなに楽しかった帰り道が、今日はこんなに切ないのは・・・・なぜ、だろう・・・・。