天官賜福~花城の物語~10 | 天官賜福~花城目線妄想ブログ~

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天官賜福にはまり、どうしても花城目線で物語を見てみたくて、自分で書き初めてしまいました。
アニメと小説(日本語版)と、ネット情報を元にしております。
天官賜福を知っている前提で書いているため、キャラクター説明や情景説明が大きく不足しております。

 

第九章 縮地千里、砂嵐で道を失う

 

〈一〉

 

 

 四人は素早く洞の中に入ると、光が当たる場所に座り、服や体のあちこちに入り込んだ砂を叩き落とした。

花城は紅衣の外側についた砂埃を軽く払い、太子殿下の側に座り込む。

「ここで砂嵐が過ぎるのを待つの?」

「今はそうするしかないな。あの竜巻がいくら強いとは言っても、さすがにこんな大きな岩まで空に巻き上げることはないだろうし」

片手で頬杖をつきながら尋ねる花城に、太子殿下が顔を向けた。

「三郎、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「遠慮なく聞いて」

「半月国師は男?それとも女?」

「言わなかったっけ?女だよ」

花城の答えに、太子殿下が納得した様子で話を続ける。

「私たちがさっきあの廃れた楼で休んでいた時、楼の前を誰か二人が通るところを見ただろう?彼らの足取りは軽快で奇妙だったんだ。絶対に普通の人間じゃない。白衣の方は女冠だった」

「袍を見ただけでは男なのか女なのかわかりませんし、身長も一般的な女性より高かったと思いますけど、本当にはっきりと見えたんですか?」

太子殿下にいちいち突っかかる扶揺に、花城の拳に青筋が浮かぶ。

「はっきり見えたんだ。間違いない。もしかしたらあれが半月国師じゃないかな?」

すると、今度は南風が口を開いた。

「可能性はありますね。でも彼女のそばにもう一人黒衣の者がいましたが、あれは誰なんです?」

「それはなんとも言えないな。ただ、彼女よりもっと歩くのが速かったから、実力は決して劣らないはずだ」

「妖道双師のもう一人、芳心国師の可能性は?」

「あのさ……私が思うに、妖道双師ってまとめて呼ばれてるのは、単に覚えやすいから偶数にしただけなんじゃないかな。鬼界の四大害の類と同じで、四人もいなかったけど四に数を合わせたみたいな」

太子殿下の言葉にゴミの顔が浮かび、花城は思わず「ハハッ」と笑いを漏らす。三人の視線が、一斉に花城に集まった。

「なんでもないよ。ただ、兄さんが言ったことはすごく理に適ってるなと思って。四大害の一人は確かにただの数合わせだ。どうぞ続けて」

太子殿下の話に耳を傾けながらその様子をずっと見つめていた花城は、ふと殿下が腰を掛けている石に何か文字らしきものが彫り込まれていることに気づき、「兄さん」と声をかけた。

「どうした?」

「兄さんが座っているその石、何か字が書かれてるみたいだ」

「え?」

花城の言葉に太子殿下が驚いて俯き、立ち上がって石を確認する。太子殿下が石板の埃を払うと、浅く刻まれた文字が浮き出てきた。

「私の法力はもうあまり残っていないから、君たちのどちらか掌心焔を出して少し照らしてくれると嬉しいんだけど」

太子殿下が言うと南風が指をパチンと慣らし、炎を手のひらに乗せる。太子殿下が指さすところまで南風が手のひらを移動させると、炎は石板に刻まれた文字を明るく照らし出した。

「何が書かれているんですか?」

「もちろん半月国の文字に決まってる」

尋ねる南風に、花城が意地悪に答える。

「南風は多分書いてある内容を聞いたんだと思うよ。どれどれ、見てみよう」

二人の雰囲気に少し困った笑みを浮かべながら太子殿下は石板についた砂を綺麗に払うと、文字を辿り始めた。

「あなたは半月文字が読めるんですか?」

「実を言うと、半月妖道とやらが現れる前、私は半月国でガラクタを集めていたことがあるんだ」

扶揺の質問に答える太子殿下の言葉に、花城の眉が少し上がる。花城もまた半月妖道が現れる前、半月国で太子殿下を探していた時期があったのだ。実はあの時、近くに太子殿下がいたのかもしれないと思うと、複雑な気持ちが込み上げてくる。

「将軍」

「えっ?」

突然二文字の言葉を口にした太子殿下に、神官二人が声を揃えて聞き返した。

「いや、この石板の一番上に書いてある文字が『将軍』だって言ったんだけど。……ただ、『将軍』のあとにまだ一文字あるんだ。でも、最後のこの文字の意味は確証がなくて」

そう言う太子殿下に、神官二人が明らかにほっと息をつく。太子殿下は二人の正体に気づいていないのかと不思議に思いながら、花城は殿下が読めないと言った文字を見た。その時、「うわあああ―!」と甲高い叫び声が洞の中に響いた。

花城が声のした方に顔を向けると、南風が出した炎に照らし出された男の姿が見える。洞の奥深くまで行くと、七、八人ほどが一塊に縮こまってガタガタと震えていた。

「お前ら、何者だ!」

馬鹿みたいに大声で怒鳴る南風に、太子殿下が耳を塞ぐ。

「私たちは通りすがりの隊商で、ただの商人です。砂嵐がひどくて歩けないのでここに避難していまして」

「ただの通りすがりの商人なら、なぜこそこそと身を隠す?」

問いただす南風から少し離れた位置で、花城は商人の一団を一瞥する。その中の一人に目が留まり、花城の眉が微かに上がった。

「誤解ですよ、誤解。皆さん、緊張しないで、少し気楽にいきましょう」

その場を落ち着かせるように微笑みながら穏やかに語りかけ、自己紹介する太子殿下に、商人たちの表情が和らいでくる。その雰囲気を壊すように、花城が突然笑って口を開いた。

「どうだろう。僕には全然ただの商人なんかに見えないけど。謙遜したのかな?」

皆の視線が一斉に花城に集まる中、話を続ける。

「半月関は『通るたびに半数以上が失踪する』んじゃなかったっけ?この噂を知っていて敢えてここを通るなんてずいぶん度胸があると思うけど。どこがただの商人なのかな?」

商人の中の一人の男をじっと見たまま話す花城に、その男は目を合わせることもなく、微動だにしない。代わりに、別の五十歳前後の男が口を開いた。

「少年、そうとは限らないんだ。実際、噂ってのは尾ひれがつくもので、ここを通る隊商もかなり多いし、皆無事に通っている」

「そう?」

「正しい道がわかる人に道案内を頼んで、うっかりかつての半月国の領土に入らないようにさえすれば大丈夫。だから、私たちも今回関を通るためにわざわざ地元の人に道案内をしてもらったんだ」

男の言葉に、そばにいた十七、八の少年も「そうだよ!」と声を上げる。

「やっぱり道案内の人次第なんだ。ここまで来れたのは阿昭兄ちゃんのおかげだし。阿昭兄ちゃんは俺たちを連れてたくさんの流砂を避けてくれた。さっきだって風が吹き始めるのを見て急いで場所を探してくれて、ここに隠れられたんだ。そうじゃなかったら、もしかすると俺たちは今頃砂に生き埋めになってたかもしれないんだぞ」

少年の言葉に、太子殿下の視線が「阿昭」と呼ばれた男に向けられるのを見て、花城はそれ以上何も言わなかった。

「突発的に起きたことだけど、この砂嵐が過ぎるのを待とう。とりあえずこの人たちが安全にここを離れるのを確認してから、半月国の故地に行って一部始終を明らかにしよう」

太子殿下は神官二人に小声でそう言うと、また俯きあの石板の文字に目を向ける。半月文字を解読しようとしている太子殿下に、花城は「将軍塚」と一言呟いた。

「三郎、まさか君も半月文字を読めるのか?」

「たくさんは知らないよ。興味があって、何文字か読めるだけ」

驚いて不思議そうに尋ねる太子殿下に、花城は嬉しそうに笑う。

「それは良かった。もしかしたら君が知ってるその何文字かの中に、私がわからない文字があるかもしれない。おいで、こっちで一緒に調べよう」

太子殿下に手招きされ、花城は嬉しさで顔が綻びそうになるのを堪えながら殿下の側へと近づいた。

太子殿下と一緒に小声で碑の文字を話し合いながら読んでいくうちに、殿下の様子が少しおかしくなっていくのを感じ、花城の中にある憶測が浮かぶ。

その碑に書かれていた人物は、花城がよく知っている人ととても似ていたのだ。

「なあ、兄ちゃんたち。その石板には何が書いてあるんだ?」

馴れ馴れしく尋ねてきた少年に、太子殿下がはっとしていつもの様子に戻る。

「この石板は碑で、書かれているのはある将軍の生涯だ」

「半月国の将軍ってこと?」

「いや、中原の将軍だ」

花城がそう答えると、今度は南風が不思議そうに尋ねてきた。

「中原の将軍?ならどうして半月国の人間が塚を立てたんだ?両国は大小の戦が絶えなかったと聞いてるが」

「この将軍はかなりの変わり者で、石板ではずっと彼のことを『将軍』と呼んでいるけれど、実際はただの校尉だったんだ」

「ずっと降格され続けたんだ」と説明をする太子殿下の様子を、花城は注意深く見つめる。

「なんで役人なのにそんなふうにやればやるほど位が下がるんだ?何か大きな失敗でもしない限り、昇進はしなくても降格なんてされないだろう。いったいどれだけ失敗したらそうなるんだよ?」

理解できないといった様子で尋ねる少年に、少し居心地悪そうにしていた太子殿下が、軽く一度咳払いをしてから真剣な面持ちで話し出した。

「少年。役人でもやればやるほど位が下がるといのは、よくあることなんだ」

「確かによくあるね」

太子殿下の心を少しでも軽くしようと花城はにっこりと微笑む。

「この校尉がやればやるほど降格されたのは、決して武芸の実力がなかったからとか、その職に相応しくなかったからじゃない。両国の関係が良くなかったのに、彼は戦場で手柄を立てるどころかいつも邪魔ばかりしていたんだ」

「邪魔ってどういうことなんです?」

太子殿下の言葉に、南風が不思議そうに尋ねる。殿下が少し言いにくそうにしている気がして、花城が代わりに口を開いた。

「相手が自国の民を殺さないように止めるだけじゃなくて、自国が相手国の民を殺すのも止めてたんだ。一回阻止する度に一階級降格」

そう説明しながら、碑に書かれた「将軍」と太子殿下の姿が花城の中で重なっていく。太子殿下なら、きっとそうしていただろう。

太子殿下と同じ志を持った人間がこの時代にいたのか、それとも……。

花城が悠々と話しているうちにいつの間に商人たちも集まり、思い思いに「将軍」について意見を述べ始めた。

「将軍」に対して好意的な商人たちの話を聞きながら、太子殿下の顔が綻んでいく。

そこに水を差すように、「笑止千万だ」と扶揺が嘲笑った。

「任された以上は職務を全うすべきだ。兵士たるもの、自分の国を守ることを常に心に刻んで、前線で奮起して敵を殺すべきなんだから。両国は交戦していて殺しはもう免れない。そんなふうに慈悲の心を持ったところで味方には嫌悪されるし、敵の将士には滑稽でおかしな奴だと思われるだけだ。誰一人そいつに感謝なんかしない。最終的に、こういう奴の結末は一つしかない――死だ。しかも大半は味方の手にかかって」

扶揺の言葉に、それまで好き勝手話していた商人たちは黙り込み、岩の洞内が沈黙に包まれる。その沈黙を、太子殿下が「そうだな」と破った。

「君が言ったことはほとんど合ってる。死んだんだ」

「えぇっ!どうして死んだんだ?本当に味方に殺されたのか?」

少年が驚いた声を上げ聞き返す。太子殿下はしばらくの沈黙の後、ゆっくりと話し始めた。

「そうじゃないんだ……ここに書かれているのは、相手国と交戦していた時、この人の靴紐がしっかり結ばれていなかったみたいで、戦っているうちに自分で踏んでしまって転んだら、そのまま……そのまま殺し合いに夢中になった兵士たちに踏まれまくって、刀で斬られまくって死んだんだ」

太子殿下の説明に、洞の中にどっと笑い声が弾ける。大笑いする商人たちに、花城は片方の眉を跳ね上げた。

「そんなに面白いか?」

「ごほん。そうですよ。かなり惨めな人なんです。皆さんもそう笑わないで少しは同情してやってください。彼の塚の中にいるんですから、ちょっとくらい顔を立ててやりましょう」

少し決まりが悪そうに言う太子殿下に、少年が慌てて弁明する。

「悪気があったんじゃないんだ!でもそれってあんまりというか……ちょっと……アハハッ……」

笑いの止まらない商人たちに、まるで大切な人が笑われているような気がして、花城の目の奥が少し暗くなった。

「要するに、この校尉は軍内での評判は良くなかったけれど、国境地帯の半月国の民と中原の人の中には彼に世話になった人もいたんだ。それで彼のことを『将軍』と称してここに簡易の塚と石碑を建てて彼をたたえた」

「その後、半月国の人はこの石碑の奇妙な力に気づいた。この石板に跪いて頭を地面につけて三回拝礼したら、砂漠で禍転じて福と成す――ってね」

碑の内容を翻訳して伝えた太子殿下の言葉に続けてそう言った花城に、殿下が驚いた顔を向けた。

「え?そんなこと書いてあったか?そんな奇妙な力があるのか?」

「書いてないよ。適当な作り話だ。あれだけ笑ったんだから、少しくらい拝ませても構わないでしょ」

笑みを浮かべて小声で囁く花城に、少し呆れた顔をしていた太子殿下が可笑しそうに「君はなんでそんなに悪戯っ子なんだ?」と囁く。

花城がペロッと舌を出し二人でこっそり笑っていたその時、突然誰かが「こいつはなんだ!」と驚いて叫びだした。

「どうしました?」

「蛇だ!」

取り乱した男の声に、神官二人が掌心焔で地面の一点を明るく照らす。砂地の上に、とぐろを巻いた極彩色の長い蛇が頭を持ち上げていた。

商人たちが慌てふためく中、花城は蛇に近づくと蛇の急所にあたる場所を無造作に掴む。

「砂漠に蛇がいるのなんてよくあることじゃないか?」

平然と言う花城に近づき、目を凝らして蛇を見た太子殿下の表情が一変した。

「尻尾に気を付けて!」

太子殿下がそう言い終わらないうちに、蛇の尻尾が突然花城の腕を突き刺そうと動く。その尻尾をいとも簡単に掴むと、花城は楽しそうに笑って太子殿下に蛇を見せた。

「面白い形の尻尾だね」

「刺されなくて良かった。やっぱり蠍尾蛇だ」

太子殿下の言葉に、神官二人も近づきながら「蠍尾蛇?」と不思議そうに尋ねる。

「そうだ。半月国特有の毒を持つ生き物で、とても珍しい。私も初めて見るけど、話しには聞いたことがある。体は蛇に似ていて、尻尾は蠍に似ている。ただ毒性は両方を足したものよりもさらに猛烈で、毒牙に咬まれようが尾の先の毒針に刺されようが、どっちも……三郎、おもちゃにしないで。すごく危険だから」

蠍尾蛇を観察しながら遊んでいた花城に、太子殿下が少し呆れたような表情をしながら、言い聞かせるように注意した。そんな太子殿下に、花城はにっこりとほほ笑む。

「大丈夫だよ兄さん、心配しないで。この蠍尾蛇は半月国師の図騰なんだ。滅多にない機会だからちゃんと見ておかないと」

花城の言葉に、太子殿下が少し驚いた顔をした。

「半月国師の図騰?」

「その通り。噂では半月国師はこいつみたいな蠍尾蛇を操れるらしい。それで半月人は彼女が凄まじい力を持っていると思って、国師として仰いだんだって」

「操れる」という言葉に、太子殿下の表情に緊張が走る。

「皆さん、とりあえず急いで外に出ましょう。蠍尾蛇はおそらく一匹だけでは……」

太子殿下が皆に呼びかける間に、また悲鳴が上がり、数人が続々と驚いて叫ぶ。気づかないうちに暗闇の中から、蠍尾蛇が七、八匹這い出てきていた。

神官二人が蠍尾蛇に向かって掌心焔を放ち、烈火が洞内で大きく爆発する。

「外へ出てください!」

太子殿下の声に、商人たちは我先にと一目散に洞の外へと逃げ出していった。花城は太子殿下の側から離れることなく、落ち着いた様子で一緒に外へと出て行く。

一行が広々とした場所まで逃げ息を落ち着かせていると、「鄭おじさん!」と少年の声が響き、太子殿下が慌ててそちらへと駆け寄った。

「どうしましたか?」

倒れた年配の男の手に蠍尾蛇に咬まれた傷を見つけ、太子殿下の表情が険しくなる。

「皆さん、今すぐ自分の体に傷がないか調べてください。万が一あったら、急いで紐で縛って!」

太子殿下が動くより早く、「阿昭」と呼ばれていたあの男が素早く年配の男の腕を縛り毒が心臓まで上るのを遮る。南風が薬瓶を取り出し、太子殿下が丸薬を一粒男に飲ませた。

「おじさん、大丈夫!?阿昭兄ちゃん、おじさん死なないよねっ!?」

「蠍尾蛇に咬まれたら、二時辰以内に確実に死ぬ」

首を横に振りながら答える阿昭に、商人たちも焦った様子で集まってくる。

「そっちの兄さんたちが薬を飲ませたんじゃないのか?」

「俺が飲ませたのは解毒薬じゃなくて、一時的に延命するためのものだ。せいぜい十二時辰まで引き延ばせるくらいだろう」

南風の言葉に取り乱す商人たちを悔しそうな顔で見ている太子殿下に、花城はゆっくりと近づき後ろから声をかけた。

「助かるよ」

花城の一言に、皆の視線が一斉に集まる。

「阿昭兄ちゃん、助かるならなんで早く言ってくれないんだよ。俺、死ぬほど怖かったんだぞ!」

安堵しながら少し怒ったように言う少年に、阿昭は何も答えず、無言で首を一回振る。

「それは言いにくいだろう。毒にやられた人は助かっても、別の人が助からないかもしれないなんて、どうやって言えばいい?」

「三郎、どういうことだ?」

花城の言葉に、太子殿下が不思議そうに尋ねた。

花城は太子殿下に、香草の葉が蠍尾蛇の毒を解毒することができるという言い伝えを一通り話すと、「その香草は善月草といって、半月古国の領土にしか生えない」と付け足した。

「阿昭兄ちゃん、この赤い服の兄ちゃんが言ったことって本当なのか?」

「神話や伝説の真偽はわからない。ただ、半月国の領土内には確かに善月草が生えている。それに善月草は蠍尾蛇の毒を解毒できる」

花城の話が本当なのかどうか確認する少年に、阿昭はためらいながらそう答える。

「それはつまり、蠍尾蛇に咬まれた人に残されたのは一縷の望みだけ。そしてその望みは、半月国の故地に行かないと手に入らないということですか?」

太子殿下は阿昭にそう尋ねると、こめかみに二本の指を当てて通霊陣に入ろうとした。しかしすぐに手を下ろし、神官二人に声をかける。

「君たち、どちらか試しに通霊陣に入ってみてくれないか?私の方では入れなくて」

「俺も入れません」

険しい表情で言う南風に、太子殿下がその場でゆっくりと行ったり来たりを繰り返している。その時、花城の視界の端に少年の肩先でとぐろを巻いた蠍尾蛇が見えた。明らかに花城を狙おうとしている蠍尾蛇に、花城が目を細める。

その瞬間、花城めがけて飛び掛かった蠍尾蛇を、花城が動くより早く太子殿下の手が掴んだ。驚いて目を見開く花城の目の前で、太子殿下の白い手に蠍尾蛇の尾が突き刺さった。