心を込めて | 千利休ファン倶楽部

千利休ファン倶楽部

千利休の哲学や思想、
考案した茶の点前に関する
様々な事柄を記事にしていきます。

茶聖、と言うよりもむしろ、
人間、千利休に焦点をあてていきます

「あの人、マナーが悪いよね」
「礼儀作法がなってないじゃないか」

そう思ってしまうことって、
時々ありませんか?

もしかしたら、あなた自身が
誰かにそう思われているかもしれません。

そう考えだすと、色々心配事が
生まれてくる事でしょう。



でも、ちょっと考えてみてください。

いくらマナーが良くても、
心が伴っていなければ意味はありませんよね。

例えば、電車の中でお年寄りに席を譲ったことは
みなさん、一度や二度ぐらいはあると思います。

その時に、何を考えたのかを思い出して下さい。

「お年寄りに席を譲るのはマナーだから」

そう思った人は、何人ぐらいいるでしょうか。

本当は、
「体力に劣るお年寄りには、
 若くて体力のある自分が
 席を譲ってあげたほうが良いから」
と言うのが本当の心づかいと言うものです。



そういった心づかい、気づかいの精神は
利休の思想から生まれてきた可能性が
非常に高い事をご存じでしたでしょうか。

実は利休が生まれる50年ほど前、
西暦で言うと1400年代半ばまでは
日本国中が土一揆(つちいっき)に
まみれていました。



土一揆を知らない方のために
簡単に説明すると、
飢饉などで食料となる米や麦が取れず
農民達が飢えにあえぎ、
当時米などの食料を独占していた
庄屋や寺社などを襲撃したことを
土一揆と呼びます。

この当時、日本のあちこちで
何度となく戦争が起き、
都度農民達の畑は踏み荒らされ、
ようやく実った稲は
軍需物資として召し上げられ、
しかも天候不順で実りのない時期も
多々ありました。

しかも神社仏閣が農民達に対して
高利貸しを営んでおり、
農民はその借金苦にも喘いでいました。

日本国内に、思いやりの精神など
思ったほど無かった、と言うのが
現実のようです。

茶の世界でも、
大名や僧侶達が自分の手持ちの道具を自慢し、
みずからの権力や財力を誇示するために
茶会を開くなどしていたようです。

つまり、上の社会でも下の社会でも、
人に対する気遣いなどをする
気持ちの余裕はどこにも無かったのです。



しかし、利休は大名達のそういった風習に
強烈なメスを入れました。

「和を重んじなさい」

と言う思想、和敬清寂を茶の世界の
全面に打ち出したのです。

つまり、相手を思いやる心、
相手の気持ちになる心を大切にせよ、
と言う考え方を茶の湯に混ぜ込んだのです。



それを象徴する言葉こそ

「茶は服の良きように点て」
「炭は湯の沸くように置き」

などに代表される、利休七則。

具体的にはまた改めて説明しますが、
この利休七則が全国の大名に広がり、
それが明治以降の国民教育における
基本的な考え方の一つに含まれたが故に、
私たち日本人は世界で最も高度な
「気づかい」
の出来る国民へと成長したのです。

少なくとも、私の研究では
状況証拠しかありませんが、
そうだと断定しています。



そこにきて、
「マナーだから」
と席を譲るのは、いかがなものでしょう。

私たち日本人の最も美しい部分を
形だけ真似て、その心を失っているようでは
本当の意味で席を譲った内には
入らないのでは無いでしょうか。

「心を込める」のは、
料理をしたり花束を贈ったり
する時だけではありません。

日常のちょっとした行動にも
常に他人に対する気遣い、気配りを
混ぜてあげることによって、
本当の和を生み出す事が出来ます。



私たち日本人は、利休の思想により
世界で最も高いレベルの心づかいを
身につける事が出来ました。

是非多くの方々に、
「心づかいの本質」を学ぶ為にも、
茶の湯に修道していただきたいと思っています。