呉智英氏と宮崎哲弥氏の対談本には様々な書物の名前が挙げられていた。
呉智英氏はマンガなどサブカルチャーを主軸とした評論活動をしている人だし、宮崎哲弥氏はその博学ぶりで知られた人なので、対談中はもう驚くほどの書物の名前が飛び出す。
呉氏が「凡百の宗教マンガを超えて、《宗教とは何か?》というものを描ききっている」と大絶賛しているマンガが、たかもちげん氏の『祝福王』。
初めて聞く作品だがとても興味をそそられた。Amazonで検索すると古書でしか手に入らないが、一読の価値はあると思って取り寄せた。
文庫本サイズで全4巻に納められていて分厚いのでこんな風に立てられる
一日一冊のペースで読んだ。宗教の中にいるといわれる作者が書いた作品は、発想と表現が、もうなんというか、〈凄い!〉としかいいようがない。
わからないわけではないが〈なんかようわからん〉。言葉が見つからない。
煉獄界における餓鬼などの異形のものたち、神々の複合体や亡者の群れ…そして業がウロコで表現されていたりして、もう驚くだけだ。
見開きの画面に亡者の群れ亡者が一人一人描きこまれていてその数、1000人以上!それぞれに目と口が描かれている。1センチ角に15人以上は描かれているので、ざっと計算しても2000人を超える。
(画面をクリックして拡大して見てください)
【業】がウロコで表現されていて身体の表面に浮かび上がっている。じわじわとウロコが増えていく場面も気味が悪いが、全身ウロコは鳥肌が立ちそう。
これが全部手で描かれていることも、もう〈凄い〉としか言いようがない。
呉 …連載中、マンガ家がみんビックリしてたね。何万という亡者がわーってくるところなんか、『ふつう、これを描いたら自分が気が狂う』ってマンガ家たちが言うんだよ。描いてるうちにのめり込んで気が狂っちゃうような絵がいっぱい出てくる。
・・・
宮崎 …とても正気の沙汰ではない。…
・・・
宮崎 …この作品は確かに仏典に登場する様々な教えや説話を多数織り込んでいます。ただ、その視覚的イメージはチベット密教などで示されるヴィジョンに近い。
呉 とにかく読んだら語りたくなる作品だよね。宗教マンガのベストワンでもいいか。…とにかく最初から九割まで、恐ろしい、すごいの連続。…
二人をしてこのように言わしめるほどの【凄さ】なのだ。
この『祝福王』は視覚的に目を通しただけで終わったような消化不良の感があるので、もう一度読もうと思っている。
もう一つのマンガは諸星大二郎氏の『無面目』。これは数年前に大学の先生から紹介されて購入して、すでに読んでいた。
荘子の思想にある【混沌の神話】で、この漫画に翻案されているということだ。そんなこととも知らず、〈ようわからんマンガやなぁ〉と読み流していた。これまた読み直さなければ…。
どんどん宿題が溜まっていくが、読み直すと言いながら、こんな本のことも忘れてしまいそうだ。