金田一少年の事件簿

飛騨からくり屋敷殺人事件



金田一一と七瀬美雪は、剣持警部の頼みで、岐阜県奥飛騨にある「くちなし村」にやって来た。
剣持は、幼なじみの巽紫乃から脅迫状が届いたと相談を受けたのだ

紫乃は、くちなし村の名家巽家で使用人をしていたが、当主に見染められ後妻となった。
その際、紫乃の連れ子の征丸も巽家と養子縁組をしたが、先妻の長男、龍之介とは折り合いが悪い。

最近巽家の当主が亡くなり、その遺言状の内容が発表されると、紫乃、征丸母子と龍之介との関係は決定的に悪化する。

くちなし村に伝わる恐ろしい伝承にちなんだ「生首祭り」の夜、巽家に「首狩り武者」が現れる。

それは悲しい連続殺人の始まりだった…


最近よく昔読んだ『金田一少年の事件簿』を読み返しています。
自分の中でプチブーム再燃中。

思えば、小学生高学年から中学生の頃は『金田一少年』と『コナン』の新刊が出てないか、しょっちゅう本屋を覗きに行ったものです。
当時はネットで販売日を調べる、なんてことは出来なかったので。
ちょうど山村美紗さんや西村京太郎さんを手始めに、ミステリにハマり始めた小学生が新ジャンルとして注目を浴びていた推理マンガに手を出すのは必然でしょう、、、

金田一少年とコナン、どっちも好きで甲乙つけがたいですね。
コナンは、薬で身体が縮んだり、扱う事件も様々でエンタメ度高め。
金田一は、ガッツリ本格路線。
このテイストの差が「どっちも好き」を成り立たせてるのだと思います。


『金田一少年』について。
私がリアルタイムで追っかけていたのは、第Ⅰ期と呼ばれる
File 1「オペラ座館殺人事件」から
Case 7「金田一少年の決死行」まで。
KCコミックを全部で35冊位(になるのかな?もっと?)集めたけど、この頃はひとつの事件が複数の巻にまたがっていたのが難点…

後に、事件毎に再編集されたものが出版されたので、思い切って全巻手放した後、気に入った作品だけ買い直したり。
第Ⅱ期以降の作品も文庫化されたものを何冊か読んでます。


シリーズ最初期の3作品「オペラ座館」「異人館村」「雪夜叉伝説」はインパクト抜群。
シリーズのスタートダッシュに相応しいです。
熱量が違う。

個人的には、第Ⅰ期中盤の「怪盗紳士」「墓場島」「魔術列車」「黒死蝶」「仏蘭西銀貨」のあたりが金田一少年の最盛期だと思っています。
この辺りの作品も追々紹介したいところ。


さて、前置きが長くなりましたが、そんな金田一少年シリーズの中で私が特に好きな作品が、今回紹介する「飛騨からくり屋敷殺人事件」。

ひと言でまとめると、金田一少年シリーズの中で横溝正史テイストが一番強い作品。

田舎の古いお屋敷
跡目争い
不気味な言い伝え
密室トリック
首無し死体
初恋のひと
ミステリの王道エッセンスが満載。
はじめちゃんのジッチャン、金田一耕助が出てきそうな雰囲気。

とにかく「首」のモチーフが多用されていますが、首無し死体の派手な演出は、決してストーリーの賑やかしのためではなく、そうせざるを得なかった必然性があるのです。
全ての行動の「なぜ?」に対して論理的な説明が付けられているのがお見事!

密室トリックもこのお屋敷ならではのもので面白いし、真相が分かると「ある事」の意味が見事に逆転するところが一番の見せ場かなと思う。
あまり詳しくは書けないけど。


金田一シリーズは、犯人が犯行に及ぶ動機についてもしっかり描かれていて、犯人に同情したくなるのも特徴のひとつ。
犠牲になる被害者たちには実は裏の顔があり、ほんっっと最低!!って奴が多い。

その点でこの『飛騨からくり屋敷』の被害者である巽征丸は異質なのです。
金田一少年シリーズ中、一二を争う気の毒な被害者でしょう。
苦労続きの母親に楽をさせてあげられる!と喜んだばっかりに涙

全体の雰囲気やトリックは大好きな作品なのに、この動機の部分がイマイチ共感できないのが残念なところなのです。

とはいえ今回の事件の発端は、犯人がかつて壮絶ないじめ。
しかもその理由が、家が貧かったから。
これは酷い。

ちょっとしたからかいがきっかけでも、された側のその後の一生を歪めてしまう。
子どもの頃のいじめだから、なんて軽くは扱っちゃいけない重さを感じたます。


昔読んでいた時は、はじめ&美雪はもちろん、登場人物はほぼ歳上の大人たちでした。
久しぶりに読み返すと、ほぼみんな年下やん…
えぇ?!まさかの紫乃さんも年下。
軽く目眩。


この頃のさとうふみやさんの絵は、少し肉厚な感じ。
それが何だかこの事件に合っている気がする。
首狩り武者の脅威、征丸の死と悲劇が重なり、どんとんやつれていく紫乃さんの表情の描き方に凄みを感じます。


【書誌情報】
『金田一少年の事件簿』ベストセレクション
「飛騨からくり屋敷殺人事件」
原案 天城征丸
脚本 金城陽三郎
漫画 さとうふみや
講談社、2000

※現在は、講談社漫画文庫から刊行されています。