『ロドリゴ・ラウバインと
従者クニルプス』
ミヒャエル・エンデ

ヴィーラント・フロイント




物語のはじまりは、嵐の夜。

恐れ知らずの少年クニルプスは、暗い森の中をひとり進んでいく。
平凡な生活を抜け出し、悪名高い盗賊騎士ロドリゴ・ラウバインの従者にしてもらうつもりで、彼の住むゾクゾク森のオソロシ城を目指しているのだ。

突然押しかけて来て従者にさせろと一歩も譲らない少年を持て余したロドリゴは、ひとりで大きな悪事を働いてきたら従者にしてやるとクニルプスに告げる。
クニルプスはロドリゴの言葉を真に受け、悪事を働くべく出かけていく。

やがて、クニルプスの両親パパ・フトッチョ、ママ・フトッチョ、そしてオウムのソクラテスが、クニルプスを探しにオソロシ城へやって来る。
ある事情からロドリゴも、やむなく彼らと共にクニルプスを探しに出かけることになる。

ひとりの少年の気まぐれから起きた騒動は、キリアン王ラストの王宮で蠢く王位と財宝をめぐる陰謀に関わることになり、、、


これまで数多くの本を読んできたけど、1番のベストは?と聞かれたら、大人になった今でも答えは、変わらず
ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』

で決まり

『はてしない物語』の衝撃は大きく、小学生で初めて読んで以来何度も読んだし、私にとってミヒャエル・エンデは最高の児童文学作家だ。


そんなエンデが遺したプロットを元に新たに創作されたのが、今回紹介する『ロドリゴ・ラウバインと従者クニルプス』。

エンデが遺したのは、全16章のうち3章まで。
物語全体からするとほんの序盤で、クニルプス、ロドリゴ・ラウバイン、パパ&ママ・フトッチョ、ソクラテスという主要なキャラクターは登場済みとはいえ、さぁここから物語が本格的に動き出すぞ、というあたりまでなのだ。

そう考えると、「エンデの作品」とは言えないような気もするけど、それよりも物語の持つ雰囲気が素敵なので、作者がどうこうというのは一度忘れて読んでみた。


ひとつ言えるのは、エンデの遺した物語を書き継ぐなんて、ものすごく素晴らしいことだけど同時に、プレッシャーも相当なものだろうなということ。
なんたって"あの"エンデと自分を一体化して創作をするんだから。

素敵な物語を完成させて、そんな偉業を成し遂げたヴィーラント・フロイントさんもまた、素晴らしい児童文学作家に違いない。


この物語の大きな魅力のひとつが、主人公のひとりロドリゴ・ラウバインのキャラクターだ。

悪名高い盗賊騎士で、その名を耳にすれば誰もが恐怖に震えるという触れ込みなのに、実際のロドリゴと言えば笑
この部分は実際に読んでもらいたいので詳しくは書かない。

その他にも、重度のメランコリーの病に臥せるキリアン王や、お転婆で誰よりも前向きに事態に対処できるフリップ姫。
こういう物語には欠かせない魔術師や邪悪な竜など、これ以上ないユニークなキャラクターが揃っている。
キリアン王は、終始病んでて覇気がないのに、最後に突然覚醒するから油断ならない笑


わりとふんわりしたトーンで進む冒険譚だけど、はっとする言葉にしばしば出会う。
 

真に勇気のある人とは、おそれをいだいても、それを乗りこえられる人のことをいう。
(中略)
おそれをいだくのは、悪とはなにかを知っている人だけであり、そこにひそむものを知っているからこそ、なるべくふれないように注意をはらう。

冒険を通じてクニルプスは、本当の勇気とは何かを知ることになる。

 

「それでぼくは思ったんだ。
きっと、ちゃんとおそれを知っている騎士こそ、ほんものの、一人前の騎士なんだって。
おそれは、善と悪を区別することを教えてくれるから。
どうやってそれを乗りこえたらたらいいのか、っていう勇気についても教えてくれる。(中略)
悪のために勇気はいらない。
勇気は、善のためだけに必要なんだ、って」

少年の成長物語であるところは、『はてしない物語』を連想させる。

その他にも、「物語」の捉え方など『はてしない物語』を感じる部分が随所にあって、嬉しくなる。


最後には、登場人物の全員があるべき場所に収まる、めでたしめでたしなのもクラシカルな冒険譚の良いところ。


ちょっと小ぶりなハードカバーで装丁がかわいくて、本棚にしまい込むのがもったいない…

表紙絵は、小さな家のような馬車。
これがクニルプスの住む家です。
そう、パパ・フトッチョ一家は、この馬車であちこちを巡業する人形劇団なのです。



【書誌情報】
『ロドリゴ・ラウバインと従者クニルプス』
ミヒャエル・エンデ、ヴィーラント・フロイント
小学館、2022(原著2019)