まずは昔語りを少々。

1998年夏『仮面の男』という映画が公開されました。
主演は、前年の『タイタニック』で一躍スターダムに昇りつめたレオナルド・ディカプリオ。

当時わたしは中学生。
友だちのひとりがディカプリオの熱狂的なファンで、誘われるまま映画館に行きました。


そこでわたしも完全にやられました。
ディカプリオにではなく、壮年のおじさま4銃士に。
アラミス:ジェレミー・アイアンズ
アトス:ジョン・マルコヴィッチ
ポルトス:ジェラール・ドパルデュー
そして、
ダルタニャン:ガブリエル・バーン
豪華キャストキラキラ
とにかくめちゃくちゃカッコよかった〜ラブ
特に、ガブリエル・バーンのダルタニャン!!ラブラブ

その後しばらくは映画の世界に行ったっきり。
パンレットは隅々まで目をとおし、映画の写真が載ってる紹介本も手に入れました。
最終的には、アレクサンドル・デュマによる原作にたどり着きました。

前置きが長くなりましたが、本日の本題。

『仮面の男』アレクサンドル・デュマ



あえて帯付きで撮りました。

4銃士キャスト+ディカプリオ(仮面)の写真入り♪



ルイ13世統治下のフランスで、ダルタニャンを中心とする銃士たちの絆と冒険を描いた名作『三銃士』。
この作品にはさらに2作の続編があります。

『二十年後』と『ブラジュロンヌ子爵』。
今回紹介する『仮面の男』(『鉄仮面』ともいう)は、『ブラジュロンヌ子爵』の後半部分を抜き出したものです。
後半のみといっても(活字小さめな昔の)文庫本で600ページ弱。
かなりの大作です。


時は若きルイ14世の治世。
フランスがヨーロッパの覇権を握ろうとする時代。
かつての4銃士たちは老年にさしかかり、今はダルタニャンだけが国王親衛銃士隊長として王に仕えています。

物語は、銃士のひとりアトスがルイ14世に謁見する場面から始まります。

息子ブラジュロンヌ子爵ことラウールと、王の女官ラ・ヴァリエールとの結婚を願い出るアトス。
しかし王もまたヴァリエールに恋心を抱いており、アトスに色よい返事をしません。
強い言葉で王を諌めるアトスですが、逆に王の不興を買います。

アトスの退出後、王はダルタニャンにアトスを逮捕するよう命じます。
ダルタニャンはアトスの屋敷を訪れ、アトスと連れ立ってバスティーユ牢獄に向かいます。
(この逮捕は後にダルタニャンの直言により取り消されます)
そこで2人は、今や司教となったアラミスの姿を見かけます。

アラミスは2人との再会を喜びますが、何やら不穏な様子を見て取るダルタニャン。
実はアラミスはこの時、壮大な陰謀を企図していました。


誕生と同時に闇に葬られた王の双子の兄弟を担ぎ出し、秘密裏に王とすり替えてしまおうというもの。

すり替えの舞台として選ばれたのは、アラミスも懇意にしている宰相フーケが居城ヴォーで催す大園遊会。


国王はじめ、多くの来賓がヴォーに集まります。
そこには、多くを知らされずアラミスに誘われるままやってきたポルトスの姿も。

王に随行してきたダルタニャンは、この2人の様子が気にかかっています。

贅の限りを尽くしたヴォーの城の様子に、妬ましさと劣等感を感じプライドを傷つけられた王。
そんな王の心中を知ってか知らずか、財務官コルベールはフーケの失墜を狙う。

さまざまな思惑を包み隠して宴がはじまる…


物語は、アラミスによる陰謀とその余波を軸に進みます。
ただこの作品で描かれるのは、かつての輝かしい活躍をみせた4銃士ではなく、人生の終焉に向かう銃士たちの姿。

アラミスの陰謀はあっけなく露見。
それ以降アラミスは、何も知らせずに仲間に引き入れたポルトスと共に謀反人として追われる身となります。
これは流石に軽率すぎやしないかい…とツッコミ入れたくなる。

一方アトスは、息子ラウールとふたり、穏やかに暮らしていました。
しかし、ラ・ヴァリエールとの恋に破れ、人生に意味を見出せなくなったラウールは、無謀にも思える遠征軍への従軍を決め旅立ちます。
ひとり残されたアトスは次第に生きる気力を失っていくのです。


アラミスとポルトス、
アトスとラウール、
宮廷の国王ルイやコルベール、
王の愛に惑うラ・ヴァリエール、
そして、凋落の道をたどるフーケ…

これらの主要な登場人物を結び、
多角的に物語を展開していくのが我らがダルタニャン。

『三銃士』から始まる一連の作品を「ダルタニャン物語」とも呼ぶように、群像劇の中でもやはり主役はダルタニャンなんだなと。

特にラストシーンはここまで物語を引っ張ってきたダルタニャン最後の見せ場です。
少し悲しいですが、こういう終わり方しかなかったのかなとも思います。

大河ドラマの最終回を見終わった後のような読後感でした。
もう一度『三銃士』に立ち返って最初から通しでダルタニャンの軌跡を辿りたくなります。
もちろん脳内イメージは、ガブリエル・バーンで!

映画『仮面の男』に話を戻すと、この原作とは随分違った話になってます。
これはこれで面白いし、多少突っ込みどころはありつつも、いかにもハリウッドの歴史ものという感じ。
王宮の豪奢な雰囲気とか、銃士の衣装(カッコイイ!)を楽しめます。


【書誌情報】
『仮面の男』
アレクサンドル・デュマ
石川登志夫訳
角川文庫281(1998、原著1850)