[男はつらいよ 望郷篇] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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山田洋次監督・脚本・原作。宮崎晃脚本。高羽哲夫撮影。山本直純音楽。70年、松竹配給。


スカパー衛星劇場の録画にて再観。シリーズ第五作。

 久しぶりに観たが、後に長く人気シリーズになる原点をなす作品であり、5本に入る傑作。原作者であり、3、4作目で監督を辞退していた山田洋次が監督復帰した作品であり、TVシリーズから始まった本作へのオマージュが初期からのファンには涙モノの一作。キネマ旬報ベストテン第8位。


前半、夢オチでおいちゃん(森川信)の葬式の夢を見た寅次郎(渥美清)が、とらやの面々のいたずらを間に受けたことから始まるドタバタ劇の面白さ!何度観ても爆笑。特に寅次郎とおいちゃんのギャグの応酬は森川信だからこそ、成り立っていたことが本作を観ると改めて感じさせる。さらに、舎弟の登(津坂匡章)の話を聞き世話になった親分の臨終に立ち会おうと北海道に行った寅次郎は、その親分の息子澄雄(松山省二)との親子の確執とその現実に接した渡世者の行く末を目の当たりにする。緩急の効いた脚本が秀逸であり、後半 

はその結果、真面目に働こうとする寅次郎が浦安の豆腐屋で働くことになる後半。この豆腐屋のメンバーがTVシリーズのオマージュになっているキャスティングで、おばちゃんはTVシリーズでおばちゃんを演じた杉山とく子、その娘で寅次郎が恋に落ちる節子役長山藍子はTVシリーズのさくら役。その恋敵剛役の井川比佐志はTVシリーズの博役であり、山田洋次は再びこのシリーズを引き受けるにあたり、本作でそれまでの総決算をした感じがある。


寅次郎(渥美清)は旅先で、おいちゃん(森川信)が病気で倒れる夢を見てそのことが気にかかり、電話を入れるがおいちゃんの車竜造は、遊びに来た隣家の工場主の梅太郎(太宰久雄)の横で、暑さのために、横になっており、おばちゃん(三崎千恵子)がジョークで竜造の危篤を伝えたために大騒ぎに。こ寅次郎は手まわしよろしく帝釈天の御前様(笠智衆)はじめ近所の人や、葬儀屋まで集めてしまう。悪意がないとは知りながらも、生き仏されたおいちゃんの怒りは常にもまして激しく、一方心の底からおいちゃんのことを心配してやった行為がどうしてこんな結果を招いてしまったのか理解に苦しむ寅さんは口論の末、大喧嘩となってしまった。そこへ寅さんの舎弟登(津坂匡章)が、昔寅さんが世話になった札幌の竜岡親分が重病で、寅さんに逢いたがっていることを知らせにくる。義理と人情を信条とする寅さんは、登を連れて札幌に向かった。病院についてみると、親分には昔の華やかな面影はなく医療保護に頼る老人と変っていた。身よりもなくたった一人の親分は寅さんの見舞いに涙を流して喜こび、そ最後の願いとして二十年前、旅館の女中に生ませた息子を捜してくれるよう頼んだ。二つ返事で引き受けた寅たちは小樽の居場所をつきとめたが、息子の澄雄(松山省二)から返ってくる返事は冷たい。そして病院に電話するとすでに親分は息を引きとり、やくざ渡世の末路のみじめさを思い知らされる。このことが原因で寅さんはやくざ稼業から足を洗うことを決意し、いやがる登を田舎に帰し再び柴又へ帰って来た。寅さんの突如の変貌ぶりにおいちゃんたちは驚くのだが、地道に、額に汗して働こうと、心に誓った寅さんは柴又とは目と鼻の先の浦安の町の豆腐屋「三七十屋」に住み込みで働くようになる。この店は、母親のとみ(杉山とく子)と娘の節子(長山藍子)の二人暮しだが、寅さんの働きぶりに二人とも感心し、次第に心を許すようになってくる。ところがいつの間にか寅さんの節子に対する片想いが始まり…。


改めて思うが、寅次郎の気持ちに気づかない節子が、自分が結婚して店を離れたいがために、後をと寅次郎に頼むのだが、この寅次郎への仕打ちはあまりに酷い。鈍感にもほどがあり、この失恋はシリーズの中でもマドンナが亡くなる京マチ子の次くらいに重く感じる。それが逆に作品の重厚さにもなっているのだが。


鉄道機関士をする澄雄が運転する機関車は蒸気機関車であり、人気になったD-51であり、それが走っている映像は鉄道オタクの人には貴重なものであり、必見なのではないだろうか。藍子の婚約者木村も国鉄職員であり、寅次郎が汗水流して働く地道な職業の代表になっている。この時代らしい。国鉄がまさかこの後、割と早くに民営化されたことも皮肉。


映画は夢オチから前作、後半の繋ぎが見事であり、特に前半のギャグの応酬はテンポがあり、このシリーズ本来の面白さを如実に感じさせ、後半、失恋した寅次郎がとらやに戻ると葛飾の花火大会。顔で笑って心で泣いてというこのシリーズを象徴するような対比が秀逸。このシリーズを観たことがない方にお勧めするなら、まず本作を観ることをお薦めしたい。TVシリーズも含めて、本シリーズの面白いがすべて体感できる映画だ。


山田洋次。[男はつらいよ]。