[淑女と髯] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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小津安二郎監督。北村小松原作・脚本。ジェームズ・槇ギャッグ・マン。茂原英雄・栗林実。撮影・編集。31年、松竹蒲田配給。


スカパー衛星劇場の録画にて鑑賞。衛星劇場で放送された小津のサイレント期の作品はすべて後付けの音楽がついていたのだが、これはまったくの無音。実際に公開された時も活弁士が付かない限り、この感覚だったのだろう。小津が監督に昇進したばかりの頃、蒲田映画は新人にはドタバタコメディを撮らせたらしい。この映画は、『懺悔の刃』から続く、多数の失われた小津作品の系譜を引き継いでいるナンセンス・コメディだ。


主人公のバンカラ風の髯男岡島喜一を演じる岡田時彦の髯を剃った変身ぶりが笑えるのだが、冒頭の剣道の試合では皇族を、上流階級や治安維持法までを批判して、笑いのネタにするあたりが、小津のクールでハイカラで、知的な部分が垣間見れる作品であり、ギャグが結構、シュールで、軍事色が強まる背景のよく検閲を通ったなと感じる。そんな小津の反体制的な要素を感じさせるコメディだ。


大学対抗の剣道 の試合。城南大学の大将岡田喜一(岡田時彦)得意の銅で一本勝ち。彼の友人で男爵の息子行本(月田一郎)は歓喜して屋敷に招待した。その途中、

娘がモガ(伊達里子)に脅されているところを助けた。行本の妹幾子(飯塚敏子)の誕生パーティーだったがバンカラで、モダンな上流を介さない岡島は剣舞を舞い、幾子や女性達に嫌われる。やがて、岡島は卒業就職を迎えるが、面接で助けた娘タイピスト広子(川崎弘子)に会う。だが就職は失敗。アパートに戻ると広子が現れ、髯を剃らないから就職試験に落ちるのだと忠告した。翌日、岡島は髯を剃り、モダンボーイになると、早速、ホテルに就職が決まった。就職の報告に行本邸を訪れた髯を剃った岡島に幾子は惚れてしまい。また、彼とわからないモガも岡島に、さらにお見合いを小父さんに強引に勧められた広子も…。

 

基本は上流階級を受け付けないバンカラ男だった岡島が髯を剃ってモダンボーイに変身した途端に三人の美女に迫られるというドタバタコメディなのだが、台詞の端々や体制を揶揄するシーンが映画の端々に見られ、小津の精神が伝わってくる。冒頭の剣道大会の審判は皇族の子供(突貫小僧)がすごいいー加減なジャッジをするのをさらに小馬鹿にする岡島の試合ぶり、かなりラジカルな小津の挑戦を感じた。この映画、岡田時彦が豊かな表情の演技で笑わせてくれるのだが、彼は小津の初期作品には他にも登場する常連俳優の一人だ。


小津安二郎。[晩春]。