[東京の宿] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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小津安二郎監督。ウィンザアト・モネ原作。池田忠雄、荒田正男脚色。茂原英朗撮影。35年松竹蒲田配給。


スカパー衛星劇場の録画にて鑑賞。『出来ごころ』に始まる小津安二郎の喜八ものの第三作。愛する女のために喜八が犯罪を犯すという点では異色の小市民映画。サイレントだがサウンドが付いている。キネマ旬報ベストテン第9位。


原作者のウィンザアト・モネとは小津、池田、荒田のベンネエムであり、いかにもその原作に相応しい名前を付けたがった小津らしい悪ふざけだ。


不況の波が押し寄せる東京。喜八(坂本武)と二人の息子・善公(突貫小僧)と正公(末松孝幸)は、職を求めて工業地帯をさまよい、おたか(岡田陽子)とその幼い娘の君子小嶋和子)に出会う。ある夜、喜八は飯屋をやっている昔なじみのおつね(飯田蝶子)と偶然に出会い、彼女は喜八に仕事を見つけてきてくれた。おたか親子と親密な時間を過ごした後で、君子が病気にかかってしまうと親子ともども消えてしまう。喜八が酒屋でヤケ酒をあおっていると、何とおたかが酌婦として酒を持ってきた。喜八は彼女を叱るが…。


映画の背景である35年というと世界恐慌の煽りで、日本も不況に苦しみ始めた時代。前半、仕事を求めて工場地帯を彷徨う親子の描写が続くのだが、金もなく、好きなものを食べたり、好きな酒を飲む真似を親子でやってみせるシーンがあるのだが、この親子の情愛が伝わってくる名場面だ。ここまでは他の小津サイレント時代の小市民映画なのだが、喜八がもう一組の母娘に出会うあたりから様相が変化してくる。このおたかを演じる岡田陽子はキュートな美女であり、喜八は惚れてしまう。彼女との会話で、喜八の妻が子供達を追いて出たいったことがわかる。困った喜八を助ける飯屋の女主人おつねは小津の常連、飯田蝶子が演じており、いかにも下町の人情女将さん。また喜八の子供を演じるこちらも常連の突貫小僧と末松孝行ふたりのやりとりも小津の持ち味を存分に感じさせた。そして、おたかの娘が入院してそのために喜八が犯罪を犯すのだが、バックに花火のモンタージュがフラッシュバックされており、これは喜八の心象風景も重ねられており、小津としては珍しい表現になっていた。


世界恐慌を引き金に日本は戦争に駆り立てられていくのだが、そんな時代の不安がよく出た映画だ。


小津安二郎。[東京物語]他。