[五月のミル] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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ルイ・マル監督。ジャン=クロード・カリエール脚本。レナード・ベルタ撮影は。ステファン・グラッペリ音楽。89年、仏・伊合作。


スカパー、シネフィルBSの録画にて鑑賞。



68年に起こったフランスの五月革命を背景に、主人公ミル(ミシェル・ピコリ)の母親が亡くなり、大家族がその葬儀に集まってくる。映画の冒頭は、小津安二郎の影響かと思わせる財産分与の話になるのだが、革命が進み、一家の運命は大きく変化していく。実にエスプリの効いた絶妙の風刺劇で、マル晩年の傑作。90年度キネマ旬報7位。



1968年5月、南仏ジェールのヴューザック家。当主の夫人(ポーレット・デュボー)が死に、長男のミル(ミシェル・ピッコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝える。だが、五月革命が起き、駆けつけたミルの娘カミーユ(ミュウ・ミュウ)と彼女の子供たち、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とその女友達マリー・ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちは、革命のこと以上に遺産分配のことばかり。家を売ろうというカミーユとジョルジュに、ミルは怒りを爆発させる。そんな折、公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、手伝いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知った一同は驚く。その夜パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール・アラン(ルノー・ダネール)がトラック運転手のグリマルディ(ブルーノ・ガレット)と、到着。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じるが…。



革命でガソリンすらままならない中、家族たちはひと組ずつ集まってくる。その家族の状況を見る側に的確に伝えるマルの見せ方は秀逸。ミルの娘カミーユの夫は医者で、相続すら煩わしいのか、そそくさと一度帰宅してしまい、夫婦仲に隙間風が吹いていることがわかる。姪のクレールは連れてきたマリー・ロールと同性愛だし、いかにもフランス映画らしいエグさで、体制側の記者次男のジョルジュと、学生運動の真っ只中にいる息子のピエールとの確執も設定として面白い。


だが映画はそこから二転三転する。今回、プーシキン美術館展で来ているクロード・モネの[草原の昼食]を思わせるピクニックシーンが笑える。ピエールの革命運動の自由と性の解放の話に感化されたかのように登場人物たちは、結婚とか通常の常識である規制を取り払い、自然の恵みの中で、自由に恋愛を育もうとするのだ。小津安二郎映画のような財産分与を巡る家族風刺劇は、一旦、緩やか陽光の中で思わぬ方向へ展開していくのだが。レナード・ベルタの自然光を生かした撮影は素晴らしく、オープニングはヴィクトル・エリセ監督の[ミツバチのささやき]へのオマージュと感じさせ、まるで西洋絵画の色合いのように深い色までも見事に再現している。


しかし、そこで五月革命は反体


制派が主導権を完全に握りド・ゴールが逃亡することで、大家族の運命がさらに変化していく。母の死と五月革命、二つの出来事を巧緻に絡めたジャン=クロード・オリエールの脚本の構成が抜群であり、ベテラン、ミシェル・ピコリを始め、俳優陣の絶妙の集団劇を生み出していた。


DVDはあります。


ルイ・マル。[死刑台のエレベーター]など。