[パッション(1982年)] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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ジャン=リュック・ゴダール監督・脚本。ラウル・クタール撮影。フランソワ・ミュジー録音。82年、スイス・仏合作。


スカパー・シネフィルイマジカの録画にて再観。82年当時、ミニ・シアターの草分けにもなったシネ・ヴィヴィアン六本木のオープニング作品であり、実験映画から商業映画に復帰したゴダールの長編第二作。初観のとき、わけのわからない映画で、芸術映画に嫌気が指して、僕がしばらく映画から遠ざかるきっかけになった映画でもある。


久しぶりに再観してみると、ゴダールの野心が伝わってきて、かなり面白い。レンブラント、ゴヤ、アングルなどの絵画を劇中映画の映像で再現しようとする。苦悩する主人公の監督ジュルシーにはゴダール自身が重ねられ、当時最新のドルビーサウンドを屈指した、過剰な音使いと、台詞の交錯に驚かされる。映画はプロットのみで、物語は撮影に必要な光とともに探索され、労働と愛、思想と行動についての考察がなされる。この監督の葛藤はゴダール自身のものが重ねられている。


スイスらしき風景の小村で撮影隊が映画を撮っている。監督はポーランド人のジェルジー(イェジー・ラジヴィオヴィッチ)、プロデューサーはハンガリー出身のラズロ(L・サボ)、撮影監督のクタール(ラウル・クタール)はフランス人と、スタッフはヨーロッパ各国混成。彼らがビデオで撮っている『パッション』とはレンブラントやドラクロアの名画を生きた人物で再現しようというものだった。膨大な予算を投じ開始、四ヵ月たつというのに、監督は光の具合が気にくわぬとNGの連発。製作中止だと脅すラズロに、それなら今すぐやめようとジェルジーがやり返す。予算はとうに超過して泥沼に入り、今さら中止など出来ないのは二人に分っていた。81年12月。ポーランドで戒厳令が発令された冬の日。その日、イザベル(イザベル・ユペール)は工場をくびになった。違約金を払おうとしない工場主ミシェル・グラ(ミシェル・ピッコリ)に対する抗議集会に来てほしいと、どもりながら訴えるイザベルに[歴史、あるいは物語は作る前に生きるか、生きながら作るものだ」と答えるだ。二人の姿を見て嫉妬するのが、撮影隊のとまっているホテルの女主人ハンナ(ハンナ・シグラ)。ハンナとジェルジーの関係をあやしんでいる彼女の夫のミシェル。夜、イザベルの家で集会が開かれるが、さっぱり盛りあがらない。一方所ではジェルジーが、光が駄目とゴヤのシーン〈裸のマハ、5月3日の銃殺、カルロス4世の家族〉でNGを出している。パトリックがエキストラのマガリ(マガリ・カンポ)と帰るのを見て、製作進行係のソフィー(ソフィー・ルカシェフスキー)は大荒れ。ハンナはジェルジーに出演を迫られるが、迷っていた。小切手の支払いを請求されたミシェルは、のらりくらりとかわして金を払おうとはしない。ホテルのメイドのサラ(サラ・ボーシェーヌ)はヨガにこり、ジェルジーの前でアクロバティックな姿勢をとる。ついに撮影隊は決裂。ジェルジーに愛を迫るイザベル。ラズロが彼にアメリカ行きを迫り、ハンナが彼の服をなおしたからと会いに来る。ミシェルは工場をたたみ…。


飛行機雲を捉えたオープニングから、光と闇にハンナとイザベルを例え、三角関係に苦悩するジェルジー。商業映画、女性、ゴダール自身の苦悩が重ねられ、そうした実験的な映像を名キャメラマンのラウル・クタールは映像として、実現していて、驚かされる。


ドイツから名女優、ファズビンダー監督の[マリア・ブラウンの結婚]で有名なハンナ・ジグラとイザベル・ユベールを招いているこもにも注目だが、自国からも名優ミシェル・ピコリが起用されて豪華だ。



ゴダールは全盛期である60年代から、物語より映像の鮮やかさで、見せる映画作家だったが、80年年代に入り、それはより究極まで極められているのことがよくわかる映画であり、まるでドキュメンタリーを観ているような感覚になる映画だ。


DVDはあります。


ジャン=リュック・ゴダール。[勝手にしやがれ]など。