[天国と地獄] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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黒澤明監督・脚本。エド・マクベイン原作。小国英雄、菊島隆三、久坂栄二郎脚本。中井朝一、斉藤孝雄撮影。佐藤勝音楽。63年、東宝。


スカパー、日本映画専門チャンネルの録画にて、リバイバル上映以来の再観。


エド・マクベインの[キングの身代金]より、他者の子供を誘拐しても、誘拐は成立するという発想だけを元に四人のシナリオ・ライターによる。極上のサスペンス映画であり、被害者権藤(三船敏郎)と犯人竹内(山崎努)を対比させたヒューマンドラマとしても秀逸。


この映画は[生きる]とは逆パターンであり、前半の55分を述べ十四人の登場人物による権藤邸における濃厚な密室劇で見せ、権藤の野望が誘拐事件により挫折するまでを描く、戸倉警部(仲代達矢)らが到着後、犯人からの脅迫電話をカットバックですぐに再現するなど見せ方の工夫もなされている。権藤が身代金を払うことを承知した、翌朝で画面はワイプ(拭き取り式編集)で、特急第ニこだまの走行シーンに切り替わる。当時の国鉄から一回の使用許可が下りず、この車内での撮影はまさにライブ感いっぱいのスリリング感がある。佐藤勝のファンファーレのようなテーマの後、運転手の子供が返され、そこから警察の捜査が開始されていく。



ナショナル・シューズの権藤金吾専務は、大変な事件に巻込まれる。明日まで五千万円を秘書河西(三橋達也)に持たせ大阪に送らないと、次期株主総会で立場が危くなるというのに、息子の純と間違えて運転手青木(佐田豊)の息子進一を誘拐した犯人から、三千万円をよこさないと進一を殺すという脅迫電話があったからだ。苦境に立った権藤は妻怜子(香川京子)にも懇願され結局金を出すことになった。権藤邸に張りこんだ戸倉警部達は権藤の立場を知り、対策を練る。犯人は金を七cm以下の鞄に入れ、明日の特急第二こだまに乗れと指示がある。第ニこだまの車内に電話があり、洗面所の窓は七cm開くのでそこから鞄を投げる指示が権藤にあり、戸倉警部達を嘲笑するかのごとく、巧みに共犯者は金を奪って逃げた。進一は無事にもどったか、権藤は会社を追われ、債権者が殺到した。青木は進一の書いた絵から、監禁された場所を江の島附近と知って、進一を車に乗せて江の島へ毎日でかけていった。ボースンと呼ばれる田口部長(石山健二郎)と荒井刑事(木村功)は、犯人が乗り捨てた盗難車から、腰越の魚市場附近という鑑識の報告から江の島にとんだ。そこで青木と合流した二人は、進一の言葉から、場所を探り出したが、その家では男と女が死んでいた。麻薬によるショック死だ。一方、戸倉警部は、ある病院の焼却煙突から牡丹色の煙があがるのをみて現場に急行した。金を入れた鞄には、水に沈めた場合と、燃やすと牡丹色の煙が出る特殊装置を権藤自身が仕込んでいたのだ。その鞄を燃やした男はインターンの竹内銀次郎とわかり…。


戸倉警部による犯人の扱い方については、黒澤さん独特の正義感とヒューマニズムが強く出過ぎていて、警察が犯人を極刑にするために泳がせることはあり得なず、リアリティを欠く面があるが、それにより映画は面白さとスリリング感は増している。徐々に竹内が追い詰められていくクライマックスは圧巻であり、ラストの刑務所の面会室における権藤と竹内の対峙のふたり芝居は見せる。[天国と地獄]タイトルにまつわる竹内が語る犯罪の動機は、人間の皮肉な運命を感じさせた。


数々の逸話を生んだ本作だが、撮影の邪魔になるからと、住居の一部を壊してもらったり、黒澤さんの破天荒ぶりを感じさせるが、その執念が興収ナンバー・ワンのヒットを生み、模倣犯罪を多発させるほどの影響を社会に与えた作品。


本作も何度観ても面白い。


DVDはレンタルにあります。


黒澤明。[七人の侍][羅生門]など。