[居酒屋兆治] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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隆旗康男監督。山口瞳原作。大野靖子脚本。木村大作撮影。井上尭之音楽。83年、東宝配給。

追悼、高倉健。その5。

スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて鑑賞。函館を舞台に[居酒屋兆治]に来店する常連客を巡る群像劇であり、その中で健さん演じる主人公[兆治]こと藤野英治の過去、特に元恋人神谷さよ(大原麗子)との経緯が明らかにされていく。山口瞳の同名小説の映画化。

英治を支える妻茂子に加藤登紀子。主題歌も書き下ろし、健さんが歌う。常連客には個性豊かなメンバーが顔を揃える。英治にやたらケチをつけるタクシー会社副社長河原に伊丹十三。英治の親友で精肉店の婿養子岩下に田中邦衛。向かいの小料理屋[若草]の女将で歌が上手い峰子にちあきなおみ。タクシー運転手で妻を亡くす秋本に小松政夫。元英治が務めた北洋ドックの社員でさよに惚れる越智に平田満。さよの亭主で牧場主神谷久太郎に左とん平。そして常連の一人堀部に東映時代の健さんのパートナー池部良。その他に細野晴臣、大滝秀治武田鉄矢等。時代を感じさせる豪華な配役が脇を固め、それぞれのエピソードが盛り込まれている。

兆治こと藤野英治(高倉健)は函館の街はずれで、女房の茂子(加藤登紀子)と「兆治」という名の居酒屋を営んでいる。兆治は勤めていた北洋造船所でオイルショックの時、出世と引き換えに同僚社員の首切り役を命じられた会社を辞めたのだ。寡黙で実直ながら無器用な兆治であったが、店は繁盛しており、兆治の同級生でバッテリーを組んだ無二の親友岩下(田中邦衛)をはじめ、元の会社の同僚有田(山谷初男)やその部下の越智、近所の一年先輩で酒癖の悪いタクシー会社経営者河原(伊丹十三)たちが毎晩のように足を運んで賑わっていた。「兆治」の向いの小料理屋「若草」も陽気な峰子(ちあきなおみ)がカラオケで客を集めていた。英治は肩を壊して野球をあきらめた頃、地元青年会で知り合った年下の恋人さよ(大原麗子)との苦い思い出があった。器量良しのさよに持ち上がった、旧家の牧場主神谷久太郎(左とん平)との縁談に、若く貧しかった英治はさよの幸せを願って黙って身を引いたのであった。しかしさよは、今でも兆治を想いつづけ、思い余って若い男と駆け落ちをしたこともある。そんなある夜、さよの不注意から神谷牧場が火事に見舞われ、さよは街から姿を消していった。そんな事件も落ち着いた頃、仕込みにかかる兆治の背後にさよが現われ、「あんたが悪いのよ」と言い残して去った。さよの消息もはっきりしないまま、何処か時代に取り残される場末の小さな居酒屋「兆治」とそこに集う市井の人々の哀感こもるエピソードが繰り返されていく……。

映画はさよの断ち切れない英治への恋心とその顛末を後半まで明かさずに薄幸のヒロインさよが、亭主の牧場に放火したのではと疑いをかけられて姿を消しバーで働く様子と葛藤を見つめていく。大原の哀愁漂うヒロイン像が印象的で、雨の中での英治との一瞬の邂逅のシーンで、観る側には二人に何があったのか。想像を喚起させる構造。

元造船所で何があったのか、また英治が野球で函館ではヒーローだった過去等が映画が展開する中で明らかにされていく。また英治の師匠松川(東野英治郎)に遠慮して、河原が探してきた居酒屋の移転を躊躇したこともあり、河原から責められ耐えていた英治が、秋本の妻の死を巡り、怒りを爆発させ、さらなる騒動に発展していく。全体的にあった事実をきちんと描かず。会話から観る側に想像させるスタイルを取っているのが特徴的だ。さよを巡る顛末に関しては、納得のいかない部分もあるが、高度経済成長がオイルショックにより、破れた時代背景を考慮すれば、英治の選択もわからなくはない。ご覧になる方はこの贅沢な配役も楽しんで頂きたい。

DVDはレンタルにあります。

隆旗康男。[あ・うん][駅STASION]等。