翌朝、登校した和也が 自分の席に座るや否や、雅紀が駆け込んできた。

『かずちゃん 既読スルーなんて冷たくない?オレが可哀想と思わないわけ?』

和也を羽交い絞めにして文句を言う割に 顔は嬉しそうだ。

 

―― なんでオレが オレ以外とまーくんの幸せを喜ばなくちゃいかんのよ?

 

朝からやるせない気持ちでいっぱいだ。

 

昨晩はあれから "智さん" とメールのやり取りをしていた。

LINEよりまどろっこしいが、スマホの番号を教えるには まだ警戒心があったし、なんとなくメールのレトロさがしっくりと来ていた。

 

 

『あ~ぁ、まだ文理選択もしてないのに進路希望の提出があるの 意味分かんねぇー!』

 

『あぁ、今日が提出期限か。』

 

惚気(ノロケ)から話が逸れたことにホッとした。

 

『オレ、将来の夢は"社長さん"ってことしか決まってないからぁ。』

 

『バカ(笑)。お前、それは漠然としすぎなんだよ(笑)

でも夢があるだけマシだよ。オレなんか…』

 

『え? かずちゃんの夢、お医者さんになってお父さんと一緒に働くことでしょ?』

 

『!? …な、なんで "お医者さん"???』

 

『? かずちゃん憶えてない?  あれ いつだっけ? 小学校の1年か2年のときかな…』

 

少年野球の紅白戦で、バッターボックスに立った和也がバットを振り切ったとき、後ろにいたアンパイアの雅紀のおでこにバットが当たったことがあった。

幸いバットは額を掠めただけだったが ひどく出血した。

雅紀は 和也の父の診療所に担ぎ込まれ 傷口を4針縫われ 頭を包帯でグルグル巻きにされた。

 

『あれは オレがかっこつけてマスクもつけずに 前のめりになってたのがまずかったんだけど、あの時かずちゃん ビックリして大泣きしちゃってさ。悪かったよね。』

 

――それは憶えている。血だらけのまーくんは瀕死に見えて、 死んじゃうんじゃないかって怖かった。なにもできない自分が情けなくて…

父さんがまーくんを助けてくれたことに安心して…嫉妬して///汗 悔しくて…涙が止まらなかった。

 

『 処置室からオレと先生が出てきたとき、かずちゃん言ったでしょ?』

 

"オレ、お医者さんになって お父さんみたいにまーくんを治してあげたい!!"

 

――///。言った。確かに言いました。

 

『だから かずちゃんは野球も続けてるけど、勉強もすげく頑張ってるんだと思ってたよ(笑)』

 

和也はそんな大決心をしたつもりはなく、ただ父に意味のない対抗心を燃やしただけだった。

それでも父は嬉しそうだったし、母も『お医者さんになるには たっくさんお勉強しなくちゃいけないのよ? 頑張れる?』と笑った。

 

小さな和也は大きな声で返事した…💧‬

 

『頑張れる!!』

 

 

 

 

結局その日は 白紙の進路希望を提出した。

 

 

部活が終わると雅紀が声をかけてきた。

『腹減ったね。ラーメン食べに行かね?』

 

『あれあれ? 雅紀さん、彼女はどうしたのよ? もしかして もう振られたのかな~?』

潤がニヤニヤしながら言った。

 

―― それなら どんなにいいか…

 

キャッチャーの潤は 雅紀とは黄金のバッテリーを組んでいる。端正すぎる顔をキャッチャーマスクで隠しているが、外野の外野にいる女子の視線はいつも熱かった。

 

『バッテリーは夫婦も同然だからね。その時は潤ちゃん 慰めてよ~。あせる

 

しな垂れかかる雅紀を押し返す潤を横目に

その時はオレが身も心も慰めてやるよ。と 和也はため息をついた。

 

雅紀の彼女は家の都合で 火曜日と金曜日は放課後すぐ帰宅しなくてはならないらしい。

『個人情報だから あんまり言えないんだけどね。』

ラーメンを啜りながら言った。

 

『潤ちゃんとこは 最近どうなの?』

 

ぶほっ!

和也は  思わず咽こんだ。

 

『うちは別に変わったことはないよ。平和平和。』

すまし顔で潤が答えた。

 

―― 多分 まーくんは知らない。。。Jの相手が サッカー部のエース、1年先輩の櫻井くんってことを…汗

 

オレとまーくんは、Jが女の子に呼び出されて その度 "付き合っている人がいる" とお断りしているのを何度も目にしているし耳にもしてる。

 

そして何故かオレは Jに、櫻井先輩と付き合っていることをカミングアウトされているんだ。。。汗汗

 

 

何にも知らずに幸せそうにスープを啜る雅紀と ポーカーフェイスの潤の並びが、なんだか妙に"ぽく"て ツボってしまった。

 

 

 

 
 

 

 

 

‹(´ω` )/››‹‹(  ´)/›‹‹( ´ω`)/‹‹(  ´)/›‹‹(´ω` )/›y

 

 

 

和也は 久しぶりに雅紀や潤とたっぷり話ができ、満ち足りた気持ちで帰宅した。

 

『おかえりなさい。和也。』

 

智のメールを思い出した。

 

――親の気持ち…

父さんみたいな医者になりたいと言ったのはオレだった。

 

ただいま

 

母の隣をすり抜けるとき、目が潤んでいるのがわ分かった。

 

 

 

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拝啓 智さま

 

昨日智さんが言ったことがちょっと分かりました。

オレには 昔々チビの頃の無責任な発言でも、親にとっては約束だったんだなって。ちょっと反省しました。

 

それでも 大人と違って子供の時間は早く過ぎるし、だからこそ 成長の段階で それぞれ大切なモノがあるのに、それを分かろうとしないコトや 人を見かけで判断するコトは赦せませんけどね。むかっ

 

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そう。親には親の気持ちがあるってことクローバー

 

>それを分かろうとしないコト

 

じゃぁ、カズナリくんは 分かってもらおうと努力した? 

自分だけ分かってもらおうとしてない?

両親の気持ちを理解しようとした?

分かり合う努力も親任せにしてたんじゃないのかな?

 

人を見かけで判断するな!ってのはね、チャラチャラの格好した側の言い分だよ。

例えば カズナリくんが知らない町で知らない人に道を尋ねるとする。

1.角刈りパンチパーマの竹内力

2.アースカラーの木綿のワンピースを着た石田ゆり子

どっちに尋ねる?

 

ふふ。クローバー

 

自分は見かけで人を判断するのに、大人に対してそれを非難するのはどうかな?

 

先入観ってのは学習だよ。一を聞いて十を知るには 知識と経験の積み重ねが要るよね?

合理的に生きるためには ある程度の先入観は必要なことだと思うよ。クローバー

危険を回避するための知恵でもあるし。ブルーハート

 

チャラチャラした格好が好きならすればいい。カッコいいもんね🍀。でも、あるイメージを持たれるのは当たり前じゃない?ちっちゃな子供じゃないんだからさ それもひっくるめて 好きなファッションを楽しめばいいよ。グッ

 

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コンコンキラキラ

 

『和也、入るわよ?』

 

薄くドアが開き、母が顔を出した。

 

『あのね。今の和也がもうお医者さんになりたくないって思ってるなら…。母さんが張り切り過ぎて あなたの重荷なってるのも辞めにするから…。』

 

 

――智さん!

オレ、結局親任せにしてしまいました!!汗

 

 

沈黙に不安げな顔の母親だったが、和也は焦って言葉を発するのは止めた。

ちゃんと考えよう。と思えた。

 

 

―― 考えてみるに、オレは別に医者になりたくないわけじゃない。きっと勉強自体も嫌いではないんだろう。

ただ、いろいろと言われることに窮屈さを感じていたんだ。

 

『ん/// 本当に医者になりたいかどうかよく分からないけれど、自分はどうなりたいか、決まったら必ず言う。それまでは自分の選択の幅を最大限に広げられるように努力するよ。』

そう、母に伝えた。

 

わだかまりが無くなったと言えばウソになるけれど、分かってもらうこと、そして分かろうとすることを疎かにして諦めたくないと思った。

 

 

 

智さんとは メル友?(でいいのかなぁ?)

とにかく、メールのやり取りを続けていた。

独特の雰囲気がある人で、自分としては思い切って打ち明けたことでも、さも 何事でもないように サラリと受け応えてくれた。

 

だから、毎回 結構悩んでいたはずなのに『へぇ、そんなもんなのか。。。』と拍子抜けしていた。

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

~おまけ~

 

Jと櫻井先輩のデート ラブラブラブラブ