魂を買う。 episode 3 ジュウンの場合 | 嵐(大野くん・大宮)好きの地味な日常絵日記・残念イラスト

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全く似てない似顔絵を描くことも…多々あります。
生暖かい目で見てください。

 

 ジュウンは サトシとチェスを指している。 

 

 

腕に覚えのあるジュウンは、このフニャンと力の抜けた錬金術師に連敗していることが気に食わない。だからヴェーマへ来た時は必ずと言って良いほどサトシを訪ね、対戦を申し出ていた。

 

『潤はホントに負けず嫌いだなぁ。連敗記録更新だね。』

チェックメイト。

 

サトシはくふくふ笑った。

 

『もう1回だ。』

潤は 不器用な手つきで駒を並べた。

チェスはいい。勝負に血が流れないのが本当に良いと思う。

 

『でも 結局 王様は打ち倒される歩兵や騎士の

痛みなんて知る由もないんだよ。』

 

サトシの言葉にジュウンは 鋭い視線を返した。

『マサヒ王は違う。それに 我々も王の痛みを分かって差し上げることは叶わない。』

 

『ふぅん。そう?』

サトシの返事は素っ気なかった。

 

 

 

初めてサトシに会ったのは、宰相タツキに付き従い  マサヒ王に謁見した時だった。その時も サトシは王とチェスを指していた。

 

『おう、潤じゃねえか。お前、確かチェスは得意だったよな? だったらさ、コイツをギャフンと言わせてくんね? こんなに抜けた顔してるくせに、全然歯が立たねぇ。』

 

 

タツキとの密談に 体良く人払いされたのだろう。しかし王の頼みを無下にもできず、ジュウンはサトシの対局に座った。

 

戦略家の王が敵わないと言っただけのことはあった。

ジュウンは散々サトシにおちょくられた挙句、初戦は惨敗だったのだ。

 

 

サトシの綺麗な指がポーンを前進させた。

『潤は 剣術学校でも すごく優秀で、実戦でもメチャクチャ強かったんでしょ? 翔くんが言ってた。"アイツは オレの次に優秀だ”って。』

 

『全く、あの人は…』

ちょっとばかりの照れ隠しに ジュウンは苦笑した。

 

確かに 学校の成績はシ・ヨウの方が上だった。しかし家出時代、それなりの場数を踏んだ自分の方が 実戦は強い…かもしれない。

 

『そんなに強いのに、潤は 血が流れるのが嫌いなんだね。』

 

そう。嫌いだ。

誰かが傷つけば、必ず誰かが悲しむ。

 

親に反発してやさぐれていた頃、傭兵まがいのことをして糊口を凌ぎ、半死の深手を負った。

親でさえ匙を投げたのに、シ・ヨウだけは泣いた。

自業自得なのに、泣いてくれたことに驚きと、この上ない幸せを感じた。

 

…いや、違うな

 

シ・ヨウを泣かせてしまったことが例えようもなく悲しかった。

 

あれからずっと思っている。

シ・ヨウを悲しませてしまった自分は 二度と彼を悲しませない。そして自分が悲しまないよう彼を護る。と

 

 

シ・ヨウは 『お前が嫌じゃなければ。。。』と、マサヒ王に口をきいてくれた。

 

『潤は 頭もいいし 世の中正しいだけじゃ成り立たないって理もよく心得ている。おまけに人の痛みも知っている。参謀に向いてんじゃねぇ?』

 

 

 

マサヒ王は拍子抜けするほど あっさり自分に居場所を与えてくれた。

それだけシ・ヨウの信頼も厚かったのだろう。

感謝しかなかった。忠誠を誓った。

 

そして、宰相であるタツキに付くよう命じられたのだ。

 

タツキは 所謂デキる男だ。

精悍な優しい面持ちで、すこぶる人当たりが良い。だが その腹の中は誰にも量ることはできない。

 

 

それに気が付いたのは、ジュウンがミント・アナカの使節としてウダナへ渡った時だった。

タツキが懇意にしている王宮お抱えの商人を ウダナの王宮の最奥で見たのだ。 しかも その商人は ウダナの丞相と連れ立っていた。

 

ジュウンはタツキに詰め寄った。

彼奴は何者か? ウダナのスパイではないか?

 

『はぁ。目立たないようにモブ顔ばかり選んでたのになぁ。

しくじったよ(笑)。ジュウンは一度見た人の顔は忘れないんだった。アレは私の子飼いでねぇ。諜報の腕はいいんだよ。

あ、ジュウンはお顔が目立つから スパイには向かないよ。』

 

タツキは笑って言った。

 

『ねぇ、ミント・アナカが隣国となかなか戦争にならないのはどうしてだと思う?』

 

『…軍が、強いから…ですか?』

 

『攻め入られる隙を与えないからさ。』

 

『どういうことですか?』

 

『情報だよ。私は各国に諜報員を放ち、数十年かけて 漸く今日の 蜘蛛の糸のようなネットワークを築いた。』

 

『あちらの情報を得るために…こちらの情報を売っているのではないですか?』

 

『どうかなぁ。

戦争になれば 罪のない人々の血がたくさん流されるでしょ?

私は それさえ阻止できれば良いんだよ。忠誠なんて誰にも誓ったことないんだよねぇ。私は私の目的に1番近い御方に付くだけだから。』

 

ジュウンは困惑した。

マサヒ王に進言するにも タツキがスパイである証拠は皆無であった。

 

そんなある日タツキから、ヴェーマ領主が ナツツバキの絆道を通り、ヴェーマと ウダナ辺境都市ナクシャを行き来していると聞かされた。

 

『ミント・アナカの税関は こと情報漏洩については超が付くほど厳しいから 通過するのは難しい上に 時間が湯水のようにかかるんだ。情報なんて鮮度が命なのになぁ。

 

え?すぐ通れるように特別手形を与えればいいって?

ダメダメ。逆にウダナの税関でそんなモノ見つけられたら、スパイ容疑で即刻処刑だろう?

だからさ。ナツツバキの絆道を使って 諜報員の出入国を手伝ってほしい。』

 

今現在戦争が起きていないなら、タツキはミント・アナカに対し 悪いように働いていないのかもしれない。

しかし、一年後、一日後、一秒後はどうだ?分からない。

 

いつか手のひらを返し、返したその手を振りかざすかもしれない。

 

だから スパイの片棒を担ぐ真似はしたくなかった。

 

『あれ?やりたくないみたいだね。じゃぁ この任務…

騎士団長のシ・ヨウ殿にお願いするかな。彼、ちょうどヴェーマに赴任しているし。』

 

突然出されたシ・ヨウの名に、心臓をぎゅっと握られた感じがした。

もし上位高官がそれを王命として出したなら、彼は断れないだろう。

あの正義感の強い向日葵のような人に 汚い仕事をさせたくはない。 

 

それにもし宰相が謀反人だったら。。。

 

『そうだよねぇ。翔くんにも厳罰が下っちゃうよね?』

 

そう、それだけは絶対に…断じてあってはならないことだ。

 

だから、オレがやるしかなかった。

 

諜報員の ウダナへの潜入・帰還も手助けした。

 

宰相の腹心だった男がウダナに寝返った(と 言われた)とき、

始末しろ。と言われれば始末もした。

 

 

 

果たして、

 

 

 

ウダナはまんまとシュロウと不可侵条約を結んでしまったじゃないか。。。

 

 

 

―― もし タツキがウダナのスパイだったら…ジュウンはミント・アナカを裏切ったことになるんじゃない?

 

 

オレは…祖国を売ったことになるんだ。

 

…いや。それはつまり…

 

 

 

 

 

魂を売ったんだよ。

 

 

 

 

 

 

『その魂、おいらが買うね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

『大ちゃん…』  『智くん』    『大野さん』

 

 

なんだか

 

胸に穴が開いているような気がする。

オレの魂、なくなっちゃったのかな?

 

 

 

 

 

魂に空いた穴を感じるのは 穴が空いた魂があるからだよ。

 

 

 

 

 

 

魂の穴はどうなるの?

 

 

 

 

 

 

最初は、後悔とか懺悔が瘡蓋になる。

そうして、また 何かを、誰かを愛おしむ想いが穴を埋めていくんだよ。。