智と初めて会った時のことは明確に覚えている。大勢の子供たちがダンスを練習するスタジオ、長椅子に座って こちらをにらむように凝視する人。。。

 

『今日、何時に終わるかな?』

『分かんね。』

ソイツは素っ気なくそっぽを向いた。

 

ガン見してきたのはそっちだろ!?

内心そう思ったけれど、芸能事務所に居るくせに、その執着のない乾燥した言い方がとてつもなくカッコよく聞こえた。

 

なのにダンスをすれば重力を感じさせないほど滑らかに美しく舞い、歌を歌えば 放たれる声は無色透明で、だからこそ時に艶めかしく時に切なく耳に浸した。

 

物事に対する興味や欲が極端に薄く、それでも 望まずして求められる存在…和也はそんな智に惹かれ、夢中になった。

 

智に会えばいつもくっついて回り、その一挙手一投足を観察しては記憶に焼き付けた。

いつだったか、初めて繋いだ手はやっぱりサラリと乾いていて、あぁ 智らしい手だ。と思った。

 

和也は バラエティやインタビューでも “世の中にも自分にも興味はない。” そんなスタンスをとっていた。それがカッコいい男だと思っていたからだ。

 

そして ずっとそう言い続けているうちに、いつの間にか それが、本当に自分の考え方になった。そう言い続けることが ドライに考える過程の練習になってしまったのだろう。

 

そう。最初は振りだったのだ。

 

思いがけず同じグループになり、一緒に居られる時間が長くなった。話せば話すほど楽しくて、いつでも触れられるところに智が居ることが嬉しくて、ずっと手を繋いでいたかったから、

 

『あの守衛さんの前を手を繋いで通り過ぎて勘違いさせようぜ!』

いつも手を繋いでいるという既成事実を作ったりもした。

 

ファンが沸くから と理由をつけて、指を絡ませたり抱きしめたり…

 

それから

ちょっとキワドイこともした。

 

 

しかしそれは、あくまで振りのはずだったのだ。

 

 

“木乃伊取りが木乃伊になる”とはこのことだろう。

 

ある日、振り写しの時だった。

 

体育座りの智の隣に潤が座った。

智には筋肉隆々なイメージはないけれど、その薄い筋肉は高性能で、特に下肢にはダンスに特化した塊のような筋肉がついていた。

 

智のふくらはぎを撫でながら潤がしみじみ言った。

『オレ、大野さんの足、大好きだよ。この足からあの神業ステップが生まれると思うと 全てが必要な筋肉で神秘さえ感じるね。』

『え?あ、ありがとう。自分じゃ 変に筋肉がついちゃってカッコ悪い足だって思ってたから。。。なんか嬉しいよ♡』

くすぐったさに足を退けた智だが、顔は照れくさそうに笑っている。

末っ子気質の潤は 実は非常に甘え上手で、誰をも 絶妙のツンデレでもって陥落させる。

デレ期の潤は、基本相手にされるがままの智をベタベタに構うことがあった。

そんな智と潤のやり取りに和也は唖然とした。そして気づいてしまった。

 

『松潤は 思ったことはそのまま口にするから、時々ドキッとするような誉め言葉をくらうよね。』

雅紀が笑っている。

 

和也は自分の丸い指を伸ばしてみた。短く切りそろえた丸い爪が可愛く整列している。

 

“大っ嫌いだった自分のまん丸の指や手。手を繋ぐと 大好きな智が 『可愛い♡』とずっと握っていてくれたから、ちょっとだけ好きになったのに。

 

オレだって智の足、大好きなのに。。。”

 

 

 

 
――ってか、
        智の足を好きって言ったの、オレの方が先じゃね?

 

潤だけじゃなく、翔や雅紀も 自分以上に智と親密にはなって欲しくない。智の1番は自分だ、と心が叫んだ。

 

世の中のことに興味や欲がないなんて嘘で、こんなに智に執着してるのが現実の和也だった。

 

考え方をドライにシフトしても、根本の自分なんてそうそう簡単に変わらないのだ。

 

 

 

つづく。