我に返った智は なぜかめちゃくちゃに恥ずかしくなった。

 

――― いたたまれない汗

 

和也の家に行くと言ったときは そうすることが当然で、それは絶対必要案件だと確信してもいた。

 

それに、別にメンバーの家に遊び行くなんて なんの後ろめたいこともないはずだ。

 

だが、

 

しかし、

 

なのに、

 

もはや 絵を描くことが目的なのか 和也を探りたいのか分からなくなってしまった。

 

マンションのエントランスで、和也の部屋番号を押した後

 

―――  だめだ。どうしても“Bell”を押せない。

 

 

手のひらにはじっとりと手汗まで滲んできた。

 

自分も被写体になることがあるから分かる。カメラマンは撮りたいと思う被写体の表情や仕草をその内面からを引きずり出していく。

 

 

仕事でもないのに、同じような目的なのは、和也にとっては すごく嫌なことではないか?

だいたい、全くの口下手なくせに どうやって まだ知らない和也の顔を引き出すつもりなのか?全く自信はない。

そもそも、智は 自分が知りたいと思っているはずの和也の顔がどんなモノなのかもあやふやであった。

 

――― 『オレを描いて。』ってのも、めちゃくちゃ気軽に、それこそ社交辞令で言ったのかもしれねぇし。

 

などと、しばらく逡巡を巡らせた後

やっぱり無理だ、今日は帰ろう。と、踵を返す。。。

 

『智?』

 

ギョッとして振り返ると

 

そこには、コンビニ袋を提げた和也が立っていた。

 

 

 

‹(´ω` )/››‹‹(  ´)/›‹‹( ´ω`)/‹‹(  ´)/›‹‹(´ω` )/›y

 

 

『ごめんね。智が来る前に 飲み物とかつまみとか買っておこうと思ったんだけど。』

 

和也は鍵を開けると、どうぞ。と智を招き入れた。

 

いつものちまちました可愛らしい動作で智の前を歩いている無防備な和也。

 

 

120%背後の智を信じ切っているのが分かるだけに 罪悪感もひとしおである。いや、そもそもどうして罪悪感なんて感じるのか?それにまた後ろめたさを感じるから自己嫌悪の無限連鎖に陥っていく。

ドッドッと早鐘を打つ心臓に送り出された血液が頭の中をパンパンにして、眼圧までも上がったように感じる。

 

 

『どうぞ♪』

 

リビングにはテレビとモニターが2つ設置してあり、それぞれにゲーム機が接続されていたが、それらはきちんと片付けられており、智との時間を大事にしたいという和也の想いが伝わった。

 

 

部屋の真ん中にある3人掛けのソファに座るよう促され 体を沈めると、さっきまでの変な緊張が取れて 視界がクリアになった。

 

コンビニ袋から缶ビールを出している和也はいつもの和也だった。その普通過ぎる和也を眺めながら、冷静になった智は、

 

――― オレが探してる和也の顔ってのは、自分の想像とか妄想の産物であって そんなモノは端っから無くて…

 

つまり、オレ1人が 邪まな空回りをしていたってことで。。。

 

ただメンバーの家に遊びに来た、それだけ。

だから 楽しく呑んだら気持ちよく帰ろう。

 

 

そう考えるに至り、ここに来た目的を無かったことにしようと心に決めた。

 

その後は、スナック菓子の塩気をビールで流しながら、二人で他愛のない話で盛り上がった。

 

 

 

智は酔ってからが長かった。しかも可愛い。

 

だけど 今日はどうしたことか?

いつになくスキンシップがねちっこい…💧

 

 

和也の白いうなじの毛をクルクルと人差し指で弄んだり、頬や唇の薄い皮膚を長い指のほんの先で象ったりしては 満足気にクフクフ笑うのだった。

 

 

いつもは和也のなすがままな智なのに。

今日は智にされるがままの自分が面白くて 気持ち良くて。。。

 

 

和也は 智が眠ってしまうまでその手に身を預けていた。

 

 

 

‹(´ω` )/››‹‹(  ´)/›‹‹( ´ω`)/‹‹(  ´)/›‹‹(´ω` )/›y

 

 

 

切迫する尿意で目が覚めた。

見慣れない天井に、一瞬の混乱。

 

再び目を閉じると 指先に和也の感触が蘇り、漸く和也の部屋にいることを思い出して飛び起きた。

 

取り敢えずリビングを出てトイレに向かう。用を足し 廊下の突き当たりにある寝室を覗いた。

 

『かず、寝てる?』

青いシーツが張られたベッドに和也が小さくうずくまって寝息を立てていた。

 

 青に守られるようにして眠る和也に、カーテンの隙間からさす月の光が優しい陰影をつける。

 

こんなに明るいってことは、今夜は満月なのかもしれない。

 

月明かりだけなのに 和也のその吸い付きそうな肌の質感も 柔らかなうぶ毛も見える気がした。酒のせいか、少し上気した頬は水蜜桃のようだった。

 

智はそっとカーテンを開けた。

 

 

 夜空と月のコントラストの美しさと眠る和也が重なる。触れられるのを待っているかのごとく無防備なのに、容易に触れられない神聖さがあった。

 

さっきの和也の感触をまた思い出し、指先が甘く疼いた。

 

いまなら 和を描けそうだ。

 

智は全ての感覚を記憶するように目を閉じた。

 

 

‹(´ω` )/››‹‹(  ´)/›‹‹( ´ω`)/‹‹(  ´)/›‹‹(´ω` )/›y

 

 

 

 

頭の中、目の奥がぽぉっと仄かに暖かい。

 和也は 合わせ鏡の道を歩いていた。

 

 

そして、この先にある清かな湧き水と 青の人を ぼんやりと思った。

 

 

 

 

 

 

つづく。