10年住んだ家を出て、少年は途方にくれた。
どこかに行って欲しい――と言われても行く当てなどないし、他人とは毛色の違う自分はどこに行っても歓迎などされるはずがない。
都から出れば森も林もある。雨露さえ凌げれば、森や林で暮らすのも悪くはない。誰にも迷惑を掛けなければそれでも――。
祖父がくれた「わずかばかりの金」の使い道を少年は知らない。役に立つのかどうかすら――。
誰にも見付からずに都を出、森の奥深くに入り込んでホッと一息つく。
――おや、珍しいお客だね。
どこからか声が掛かる。人間がいたのかと思って慌てて辺りを見回す少年に、クスクス笑う声が響いた。
――誰もいない。
ホッとしてもう少し奥に行こうと足を踏み出したその瞬間、再び声が聞こえた。今度は耳元から。
そっと横目で見ると、左肩に老人の姿をした何かが座っている。ビクリとする少年に、その老人は笑うと、
「『鬼羅』の息子だね、坊や」
とわずかに耳障りな声で言う。思わず頷くと、「『鬼』の長は強かったが、人間に騙されてしまった。お前さんは守られていたようだが」とわずかに皮肉を言った。
「いやいや、今家から追い出されたばかりじゃないか」
――いつの間にか右肩に乗っていた老人が言う。口をパクパクさせている少年に「坊やの力はまだまだ計り知れないものがある、と思うておる」と笑いながら続ける。
「どうだか」
溜息とともに左肩に乗っている老人が言う。と、口々に言う声がどこからともなく聞こえてきた。
「まだ何も知らない坊やじゃないか」
「許しておやりよ、人間に罪はあっても坊やには罪はないよ」
――声の主はどこにいるのか分からない。だが、自分を見下ろす異形の影を感じ取る事は出来た。
「『鬼』の息子は人間に育てられたんだ」
「手に負えなくなったから追い出されたんだ」
言葉が一つ一つ少年に突き刺さる。酷いものから同情する声まで様々に、少年の心を傷付け、また励ましてもいた。
と、急に静かになった。静寂が耳を強く刺激する。
少年が戸惑っていると、木々の間から小さな老人が姿を現した。
慌てる少年を見て笑う。
「お前さんが『鬼羅』の息子か」
と言われて首を傾げる。老人は笑ったまま「『鬼羅』と言うのがお前さんの父親の名前じゃ」と告げる。
「き……ら?」
「『鬼』の長の名は代々受け継がれてゆくんじゃ。お前さんが受け継ぐかどうかは別としても、の」
呟く少年に老人はそう言うと、少年の前にゆっくりと近付いて来たのだった――。
