仕事関係で日本からの来客がありました。N大学のK先生で、週末を挟んでの一週間の滞在中、エルサルバドル人たちのご指導にあたられました。73歳というのに矍鑠(かくしゃく)とした方で、唯一の週末の2月8日(土)にはエルサルバドル人にドライブに連れて行ってもらい、翌9日(日)には私のドライブ。2日間で、恐らく延べ約20時間の国内旅行になるでしょう。
9日の朝、私の自宅近くにある彼の宿泊先ホテルに迎えに行って、「旅行のオプションにロングコースとショートコースを考えていますが、ご体調次第で日程を考えますので」と彼に聞くと、「rigmarole さんがよろしいのであれば、ロングコースで私は大丈夫です」と。朝8時過ぎから夕方までの終日ドライブになります。
お元気で、本当に驚きますよ。
私は道中、助手席に座っている彼に聞きました。
時差ボケはないですか?――ありませんねぇ。
本当に、お疲れが見えませんねぇ。――見るもの見るものが新しくて、疲れないんですよ。
この旺盛な好奇心が、旅行中の元気の素なのです。
しかし、65歳の時に大病を患い医者から余命を告げられ、大手術を受けたにもかかわらず、奇跡的に回復したとの話。現在の様子からは想像もつきません。
と、彼の元気さに驚いたのでそれを最初に書きましたが、この日の「ロングコース」の行程は、まず遺跡を2つ。次いで観光の町で昼食を取って、最後に温泉滝を訪れます。いずれも私自身は行ったことのある場所で、運転もガイドもバッチリという自信があります。
最初に訪れたのは、サンタアナ (Santa Ana) 県チャルチュアパ (Chalchuapa) にあるカサブランカ (Casa Blanca) 遺跡とタスマル (Tazumal) 遺跡。前者については例えばこの記事、後者については例えばこの記事に詳しく書き、また復元された遺跡の写真を色々と載せていますので、ここでは触れません。今回のカサブランカ遺跡で私の印象に残ったものの写真を4つお見せします。
幾つかの塚を回った後、最後に「考古学の窓 (Ventana Arqueológica)」という名の付いた発掘の状況を見せるコーナーに来ると、地層を見入っています。
彼、理科教育の教授で、その中でも地学、その中でも古生物学がご専門なのです。
この後、下に書いていくように、彼の好奇心や蘊蓄(うんちく)が炸裂(さくれつ)していき、私は圧倒されるのでした。
これは私の好奇心をそそったもの。遺跡の施設の前庭(ぜんてい)に幾つかの果樹やバナナが植えてありましたが、これはその一つ。地面に落ちた実からは甘い香りが漂っていました。係員に名を聞くと、ノニ (noni) とのこと。和名はヤエヤマアオキというそうです。ウィキペディアによると、原産地はインドネシア。健康食品として出回っているそうです。
これを見た時は係員から「食べられる」とは聞いたものの、何やら得体の知れない、腫瘍みたいな色と形なので、気持ち悪がって食べてみませんでした。
ノニの花。
これは以前見て私も知っている、カカオの実です。
タスマル遺跡では、私は写真を撮りませんでした。その代わり、印象的だった彼のコメントを一つ。
「この遺跡は世界遺産に登録されませんね。復元の仕方がでたらめだから。ちゃんと古い石から年代別に積んでいかないと、それぞれの層がいつの時代に造られたものか分からなくなってしまう。ほら、これとこれなんか、違う年代の石のはずなのに、同じ層に一緒になっている」
さすが、地学の専門家には我々の気付かないところが見えています。
遺跡のあるチャルチュアパから車で45分、標高700メートルから1,250メートルまでグッと上がって、アワチャパン (Ahuachapán) 県コンセプシオン・デ・アタコ (Concepción de Ataco) に着きました。写真の左から2件目、ビサントス・ピザ (Visanto's Pizza) にて昼食。実は別の店に入るつもりだったけれども、間違ってこの店に入ってしまったんですよね。しかしまあ、それでもいいか。
私が、「この町は特に呼び物や観光スポットがあるわけではないですが、近年レストランやホテル、土産屋がどんどん出来て、観光の町になったんですよね。敢えて言えばコーヒーだけれども、この地域はどこの町でもコーヒーを作っていますので、特にここだけがというわけではないですし」と言うと、彼、観光客を集めた秘密が知りたい様子。しかし、私にも分からないのです。
私たちは2階の半オープンエアーの席に座りました。見下ろすと、道路を挟んで反対側には衣類・アクセサリー屋。こんな店の軒先にも異国情緒を感じます。
前面に並んでいる4体のマネキンのうち、少なくとも向かって左から2番目を除く3体は、特産品である藍染めの衣装を着ています。
街路は所々で、このように土管工事のために穴が開いており、ネットで囲ってあります。食事の後で、穴の一つに近づいた先生、「下は粘土ですねぇ。湿っている。ここはかつて湿地だったでしょう。多分、水が集まる構造だったのでしょう」
地学節、炸裂!
2階席からは格子状に植えられた防風樹が特徴的な、コーヒー園も見えます。先生、「(この辺りには火山がたくさんあるので)溶岩が水を吸い込み、肥沃な土地ができるわけです。だから色々と作物ができる」
同じく2階席から望んだアパネカ山 (Cerro de Apaneca)。恐らく上部が噴火で吹っ飛んだので、このような台形型をしているのだな、とは私が想像した事。私も完全に地学モードです。
しかし、ちらっと生物学モードに。電線にオリーブタイランチョウ (Tropical kingbird) が留まりました。この国のどこにでもいる、ありきたりの鳥です。
注文したのは、飲み物がスイカとメロンのジュース(2.25ドル=約330円)。
食べ物はもちろんピザです。先生はラ・ビットス (La Vittos) と名の付いた、ハム、キノコ、ペパロニ、タマネギ、ピーマンがトッピングのピザ、1人分サイズ (personal)(5.49ドル=約800円)。
私はラ・グルメ (La Gourmet) と名の付いた、トマト、アスパラガス、バジル、ハムのピザ、1人分サイズ(6.49ドル=約940円)。
先生、「ようやく(人生で)最後の論文を書き上げて、気が楽になりましたよ」。私が「ちなみに何についての論文ですか?」と聞くと、「カイエビです」。
カイエビって、何だ?(ここには書きません。ご興味ある方はウィキペディアをご覧になってください)
食事を終えると、「十字架の展望台 (Mirador de La Cruz)」なる丘の上に行きます。先生のご老体がやや心配でしたが、10分程度の坂を難なく上り切ります(途中、道端の法面(のりめん)の一部が小さく曝(さら)け出している箇所で一旦立ち止まって、「玄武岩ですね」とおっしゃいましたが)。
そしてこの景色。「正面の奥に見える山がエル・チンゴ火山と言ってグアテマラとの国境を形成しているんですよ」と私が言った後の先生のお言葉は、景色の美しさでもなく、国境についてでもありませんでした。「なるほど、盆地ですねぇ。だから水が集まって来て、町の中は粘土質だったわけですね」
アタコを後にして次なる温泉滝に行く道中でも、先生、「あっ、玄武岩ですよ。これで分かりました。玄武岩の上に、......(先生が何と説明していたか忘れました)……ということですね」
発見された事の点と点が線で結ばれて、この地形が形成された過程が何かしら分かったようです。
私は先生に、「まるでNHKの『ブラタモリ』みたいですね。あの番組、地学の面白さを一般の人たちに伝えて、大きな貢献をしていますよね」と言うと、先生も同意。
本日の最終目的地、マラカティウパンの滝 (Salto de Malacatiupán) です。ここでも、滝が温水になっていることよりも、岩石や地層に興味を惹(ひ)かれているようです。
「これが火砕流ですね、それとこれは丸い石も入っているので、川で流されて来た石ですねぇ。玄武岩の上に火砕流が載って来て、そこに川から流れた石が積もってこの川が形成されているわけです。もっと調べると火砕流の向きが分かって、どの方向の火山の噴火によるものか分かるんですけどねえ」
おお、地質学者! 地学の大先生! 目の付け所が凡人の私とは違う!
せせらぎに幾つも穿(うが)たれた直径20~30センチの穴ぼこ。私から見ればただ凹んでいるだけなんですが、地学の専門家から見ると、「ここにこれより少し小さい石が留まって水流で回転し続け、長い年月をかけてこのような穴になったわけですね」とのこと。
今回の記事の最後には、せめてこの滝で見た花をと思って写真を載せてみたのですが、これが Pl@antNet にかけてもせいぜい数%の一致率しか出ず、しかも筆頭の候補は花弁が5枚ではなく3枚の花だったりして、さっぱり同定できません。
ネットから仕入れた付け焼き刃の知識さえ何も語れない私(涙)。

















