興味深い語句(2) ギリシアの固有名詞に由来する形容詞 | Que sais-je? ク・セ・ジュ――われ何を知る

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エルサルバドルに単身赴任中。
気候がいいので日本よりよほど健康的な生活を送っています。
ドライブ旅行をぼちぼちしていますが、
この国で最も注意しなければならないのは交通事故。
今や治安以上に大きなリスクです。

なおヘッダーは2020年に新潟県長岡市にて撮影。

前回と同様、今後必要に応じて加筆・修正していきます。

固有名詞に由来する単語は山ほどありますが、ギリシアにまつわる語で興味を引いたものがあったので、ここに挙げておきます。
最初の3つは日本語にもなっており、これだけならここに紹介しなかったかと思います。後の幾つかにご注目。

platonic love  プラトニック・ラブ(肉体的欲望を含まない精神的な恋愛)
 言うまでもなく、ギリシアの哲学者プラトン(Plato /pléitou/)に由来します。しかし彼の理論では男女間の恋愛には限定していません。『パイドロス』などに彼の愛情論が展開されていますが、どうも私たちがよく使う意味はかなりずれてしまったようです。

a cynical smile  冷笑皮肉的な笑み
 哲学の一派、キニク(キュニコス)派(犬儒学派)(Cynic, Cynicism)に由来しています。この語は更に、ギリシア語の「犬のような(κυνιος)」に由来します。意味としては、「しばしばキニク主義は社会生活の伝統や見栄を意識的に無視する生活態度と意味する」(広辞苑)ことから来ているので、「世の中の慣習なんてくだらねえよ、ばあ~か」みたいな感じですかね。

a spartan life  簡素な生活
 ギリシアの都市国家スパルタ(Sparta)は、人々が簡素で厳格な生活を送っていたことで有名なことから、このような意味になります。それは次の laconic でも同じことが言えます。
 日本ではほぼ「スパルタ教育」(厳しい教育)以外では見かけませんが、英語では後に life, courage, training の続くコロケーションを見ました。(逆に、私の狭い経験の中では、education の続く例はまだ目にしたことがありません)

a laconic comment  簡潔なコメント
 ギリシアの一地方、ラコーニア(Laconia)に由来します。この首都が Sparta でした。つまり、簡潔で情緒のかけらもない、というニュアンスを持っています。「簡明な」という良い意味でも、「そっけない」という悪い意味でも使われるようです。上の spartan と意味は似ていますが、コロケーションが全く違うことに注意してください。

draconian measures  苛酷な措置
 アテネの立法家ドラコン(Dracon)の刑罰は苛酷で、その法は「血で書かれた」と言われた、とのことです(マイペディア)。ほかに、a draconian fine 「苛酷な罰金」という例も見ました。

以下の2つはギリシア神話からです。

a sisyphean labor  果てしない労働
 発音は /sisəfí:ən/ 「シサフィーアン」です。コリントスの王シシュフォス(Sisyphus /sísəfəs/)は、死後地獄で大石を山頂に押し上げる罰を科せられたが、石は頂上近くで必ず転がり落ち、その苦業には果てしがなかった(Genius)という話です。「やってもやっても終わりの見えない、いい加減嫌になりそうな」という意味です。だから、labor, task, routine といった語が後に続くことになるはずです。
 カミュの『シジフォスの神話』というタイトルを想起しますが、この本は読んだことがありません。

a protean character  多面的な性格、変幻自在な性格
 発音は /próutiən/ 「プウティアン」(Brでは/-'-/)です。様々な姿に変わる海神プロテウス(Proteus /próutiəs/)に由来しています。International Herald Tribune にあったアインシュタインの伝記の書評(Apr.16, 2007)の中で、The story of Albert Einstein's life calls for a protean biographer. という文脈で見ました。多方面の性質を持つ彼の人生を描写するには、「多方面のことに通じていて臨機応変に書ける伝記作家」でなければいけない、といったあたりでしょう。

下の4つのような語を使いこなせれば、教養ある文体、ということにでもなるのでしょうかね。