西洋人のうざったい顔も見えなくなって少し経ったが、
突然何かが引っ掛かるような音がして青年を地下へと導いていた床が停止した。
どうやらここが終点らしい。
青年はそう判断し、行動しようと機械を纏った足を動かそうとする。
しかし、びくともしなかった。
体自体に機械の重さは感じていないのだが足は石のように動かない。
命がけ。と言われて覚悟を決めた彼だが、出鼻をくじかれたような気分になり少し気分を落とした。
いつまでこのままなんだ…。
しかし、長く続くと思った時間はあっけなく聴覚をつんざくような刺激で終わりを告げた。
「応答しやがれこのくそガキがああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「うああああ!!なに!?なんだ?!」
刺激の正体は女性の声のようだが、姿は見えない。
一体どこから聞こえてるんだ…?
びっくりして若干パニックを起こしつつも彼は声の発信源を探す。
すると、耳の辺りに装着された機械にマイクのような細長いものが着いているのがわかった。
それを少し可動させて口の近くまで持っていく。
「聞いてんのかボケコラァァァァ!」
「うおおおおお!!!!!!!!!!」
マイクを口元に持っていくのと同時に、
先程の女性の声が耳元で響く。というよりか爆発した。
声自体は綺麗なのだろうが怒鳴っているせいか、とても恐ろしく聞こえる。まるで鬼の怒声だ。
そんな声に恐怖しつつも
青年は勇気を振り絞りマイクに向かって語りかけた。
「あの…すいません。」
「いい加減出ねえとドタマかち…、ああやっと繋がったみたいですね。
はじめまして!
オペレーターの三九です。今日は頑張りましょうねー!」
え?
青年は思わず呆気に取られる。なんだこの変容ぶりは。
先程の鬼の怒声が天使の歌声に変わった。
天使という例えは大袈裟だが、
「比べて」だからである。
青年は彼女に突っ込みを入れようと思ったが断念する。
はっきりと命の危険を感じたからである。
この三九という人なら体中の機械を遠隔操作するとかで殺されかねない…。
危険を冒すよりも彼女と協力し、早く仕事を済まそう。
彼はそう合理的なように判断する事にした。
「よろしくお願いします三九さん。
早速で悪いんですが、
動けません。助けて下さい。」
「了解。
そのパワースーツは起動時のみ音声入力なんです。
X-試作機01起動!
と言ってみて下さい。
あなたの声を認識して起動しますから。」
突っ込みの有無を聞かれなかったのはともかく、
青年は言われた通り声を発して機械を起動しにかかかった。
「X-試作機01起動…?」
「オンセイカクニン。X01起動シマス。」
無機質な声が聞こえたのを皮切りに青年に装着されている機械が凄まじい速さで形を変えていく。
三九はスーツと言っていたが、先程までスーツと呼べるような形をしていなかった。
青年を覆うそれは奇妙な形状の塊から自らを折り畳むようにして洗練されたフォルムへと変貌を遂げていく。
腕ならば腕らしく、足ならば足らしく。
気が付けば、青年をオブジェのようにしていた機械は彼の体に合わせた形に姿を変えスーツと呼べる代物に変形した。
青年はまた呆気に取られていた。
自分がここに来るきっかけとなった事件の時のような、非現実が目の前で しかも自らの体に起こった。
驚かずにはいられない。
驚きと言い様のない感情が彼の心を駆け巡る。
最初に感じていた後悔の念を上から塗り潰すようにして。
…一体自分に何が待っているのだろうか…。
言い様のない感情。
それが、好奇心というもっとも危険で止めようのないものだと
青年が気付くのはまだ先の話だった。