肩を組んだ。
手をつないだ。
ハグをして、
キスも、した。
いつになれば、その先に進めるのだろう。
*
背後で部屋のドアを開く音がして、閉まる音がした。
近付いてくる足音だけで、それが誰なのか分かる。
「だーれだ」
僕の目を隠して、スヒョン兄は言った。
本人は気付かれずに入ってきたつもりらしい。
たしかにゲームの音はしているけれど。
「ヒョン、声出したら分かるって」
僕はキーボードから手を離し、振り返ろうとする。
「ヒョンだけじゃ答えにならない」
目を覆う手がそのまま、僕の体を椅子に押さえ込んだ。
「スヒョン兄」
ため息をついてから答えると、やっと視界が明るくなる。
ヒョンは僕の顔を覗き込んできた。
「驚かなかった?」
「全然」
「なーんだ」
一応は口を尖らせながら、けれど表情は穏やかだ。
「ゲームしたいの?」
「うん」
尋ねれば、笑みを浮かべて大きく頷く。
「まあ、いいけど」
「ドンホ兄さん、お願いします」
かしこまった言葉で頭を下げ、両手を合わせる。
「しかたねーな」
ぞんざいに答えて、僕はまたため息をつく。
「ありがとうございます」
椅子を回転させて、スヒョン兄と向かい合った。
「代わりに」
「うん?」
唇を指差せば、少し驚いたような優しげな顔。
ほどなくその顔が近付いて、僕の生意気な口は塞がれる。
空気を食べているような軽いキス。
何度かついばまれた後、僕は椅子から立ち上がり、ヒョンを座らせる。
それからその膝の上に座りなおした。
キスを受けるのも好きだけど、与えるのも好きだ。
する側なら主導権を握れるし、いつもより無防備に見えるヒョンも好きだ。
僕は目を開けたまま、唇を吸う。
「ヒョン」
「ん?」
呼んでみて、思いついた言葉はひとつ。
けれど言うのは少し怖い。
「何?」
まだ軽いままのキスの合間を縫って、ヒョンが促す。
「シたい」
やっとの思いで口に出す。
「また今度」
答えはキスと同じくらい軽く、僕は落胆のため息を飲み込んだ。
「このあいだもそう言った」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
その軽さに、怒りさえ覚えそうになる。
「もう成人したのに」
本当に成人したのに。
自分の唇を噛み切る代わりに、噛み付くように口付ける。
いきなり深くなったキスに、ヒョンの息が漏れる。
待たせているんだと思っていた。
僕が大人になることを、ヒョンが待っているんだと思っていた。
それなのに。
誕生日を迎えて状況が変わるかと思ったら、まるでその気配はない。
痺れを切らして誘ってみても、いつも答えは。
――また今度。
ねえヒョン、その「今度」はいつか本当に来るの?
怒りの次は不安。
感情的になって泣くなんて、ガラじゃないのに。
「何回先の今度?」
声が震えるのが自分でも分かる。
ヒョンには伝わっていないといい。
格好悪いから。
でも伝わって欲しいとも思う。
胸の痛みに気付かないフリも、そろそろ限界がきそうだ。
「本当の今度」
代わり映えのしない回答。
「約束する」
続いたのは、初めて聞く言葉だった。
「約束?」
「うん、約束する。近いうちに機会を作るよ」
機会を作る、ということはつまり。
僕は目を閉じて、顔を伏せた。
「信じるからね」
「もちろん。信じて、俺を」
スヒョン兄の声に軽さはまったくない。
「大事にするから」
こみ上げるものが何なのか、もう自分でも分からなかった。
流れそうになる涙を飲み込んで、僕はもう一度キスをねだった。