独占欲なんて、あるに決まってる。
ファンに笑いかけるのもいい。
カメラに笑いかけるのもいい。
スタッフにだって、メンバーにだって、優しくしたらいい。
それが仕事なんだから。
そうやって笑ってみんなを幸せにするなら。
いくらでもやった方がいい。
その度に、僕の心臓がヒリヒリしたって、気にしなくていい。
*
「ケビン、難しい顔してどうしたの?」
PCから顔を上げると、キソプがいた。
さっきまでイライとはしゃいでいたのに。
「僕、難しい顔してた?」
話しかけられるまで気付かなかったことを不覚に思いながら尋ねる。
キソプは笑って、僕の額を指差した。
「皺が寄ってる」
僕は思わず眉を上下させ、眉間を擦る。
キソプは椅子を引いてきて横に並べ、隣に座った。
「何見てたの?」
PCの画面を覗き込む。
今は髪が短くて、その顔と僕の目を隔てるものはない。
綺麗な横顔に見とれないように、無理やりPCに視線を移す。
「CU Generation」
「ジェソプがツイートしてたカバーグループ?」
「そう」
旧正月のフェスティバルの動画を再生してみせる。
「うまいねえ」
キソプは頬杖をついて、嬉しそうに息を漏らした。
それから僕を見て、不思議そうに言った。
「これ見て難しい顔になってたの?」
僕は唇を尖らせる。
「真剣に見てたんだよ」
何度リピートしても全然頭に入らなかった。
理由は。
自分が一番分かってる。
「これ、ジェソプは本物を見たのかな」
ああ、また。
「あとで聞いてみようっと」
その唇が別の名を呼べば、また眉が寄りそうになる。
「キソプ」
僕はキソプを見つめる。
「うん?」
「キソプ」
二度目の言葉に返事はなく、代わりに怪訝そうな声が僕の名前を呼んだ。
「ケビン?」
たったそれだけで。
「なんでもない」
キソプの肩に頭を預け、僕は目を閉じる。
僕の髪にキソプの唇が触れ、小さく音を立てた。
*
独占欲なんて、あるに決まってる。
その笑顔が誰かに向くたびに、心臓がヒリヒリしたって、その声が僕の名を呼べば、痛みは一瞬で消えてなくなる。
次の瞬間にはまた胸が締め付けられるかもしれないのに、その姿を目で追うのを止められない。
誰かに向ける笑顔さえも、見逃さないように。